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2話──生きる道

名前にルビ入れました

 俺、哀晴生二(あいばせいじ)は、気付いたら異世界に転生していた。


 なんでこの世界に来たのかわからない。でも、あの日の出会いをきっかけに、俺はこの世界で生きていくことを決めた。


 特別なにかができるわけでもない。称賛される行ないはしたことない。大会とかで賞とかももらったことない。小学校で皆勤賞を貰ったことくらいならあるけど……


 とにかく、ただの高校生でしかなかった俺は、唐突にこの身一つで知らない世界で生きることを強いられた。


『あなた、怪我はない?大丈夫?』


 何度でも頭に蘇る、あの子の言葉だ。


 一切揺るぎのない純粋な瞳。人を気遣う優しさがあった。あれは、周りの環境とか指導でどうこう矯正できるものではない、あの子生来のものだろう。


 正直、たったあれだけの、あの一瞬の出来事でここまで心惹かれてしまうのは、我ながら情けないと思う。一言で言えば、ちょろい……だ。


 この世界に来たことに関してはまだ半ば否定したい気持ちもあるが、寝ても覚めても変わらない現状を嫌でも見てきたのだから、もう諦めて認めている。


 だから少しずつ順応しようと頑張っているのだが、あの時はそこまで思考を働かせるっことができるはずもなく、ただ混乱するしかなかった。


 なにが言いたいのかって?


 ……自分よりも幼い子に出会って一言目で好きだと言い放ったことに対する言い訳だ。


 この世界が元の世界の常識が通じない、全く異なった世界だとしたら実は自分より年上たったという可能性も残っていた。でも、ここ数日この世界で生きてみて、人間じゃない種族がいることはわかったけど、それは見た目があからさまに違うから一目でわかるそうだ。


 更には、今生活の拠点にしている町は人間が九割を占めているとのこと。


 だから、きっとそうなんだろうなぁ……って、思ってる。


 いいさ。


 別に良い。


 あの子もはいって言ってくれたんだし、俺も混乱してたんだから仕方ない。


 そもそもここは異世界なんだ。日本の常識を持ち出すこと自体おかしい。それに幼いって言っても、多分二、三歳年下なくらいだと思う。つまりはあの子は年齢的には中学生。


 ギリセーフ。


 そういうことにしていただきたい。


 ……さて、今はこの町……グリント、って名前だったと思う。この町の辺り一帯を治めている領主の名から付いているらしい。


 そんな町で生きているわけだが、名前以外の確かな情報をなにも持ってない人間が過ごしていけるのか?という疑問があった。


 元の世界ならまともに働けず、家も借りれず、ホームレスに成り下がって乞食になるなり、無知識のままサバイバルでもするしかなかっただろう。


 だが、俺はこうしてなんとか生きていけているし、なんなら僅かながらお金も貯まりつつある。日本円にして、日に数百円程度だけど……ないよりマシって奴だ。もちろんはした金。最低限で生きれば貯まるが、ちょっとでも娯楽に使おうとすればすぐに底をつく。


 そのことに別に文句はないし、この現状まで導いてくれた者には感謝している。


 それもこれも全て、今目の前にいる男のおかげだ。


「それ食わねぇのか?」


「口に合わないんだよ」


「そうか。ならくれや」


 ぶっきらぼうで目つきが悪い茶髪のおじさん。


 第一印象は良くなかった。もちろん見た目のせいだ。


 声をかけられたときはカツアゲって言葉が頭を過った。


 ……仕方ないと思う。俺様の許可なしになに歩いてんだぁ!?って言葉が似あう風貌なんだから。


「好き嫌いもほどほどにしろよ?いい加減慣れねぇと食うもんが限られてるときに困るぞ」


 でも、こうして付き合いを重ねていくと、案外面倒見が良く、無知な俺を利用してやろうって考えは毛頭ないということがわかった。


「仕方ないだろ。生きてきた世界が違うんだ。慣れる慣れないの問題じゃないんだ」


「言い訳すんな。飯以外にも言える事だ。見て知って適応してかねぇと、稀人のお前は生きていけぇねぞ」


「……そんなことわかってるよ」


「会いたい女がいるんだろ?名前も知らねぇ」


「……あぁ」


「お前馬鹿だよな。名前くらい聞いとけ」


「いや、だって」


「その後すぐ気を失ったって?もう三回は聞いたわ。バブベアー如きにやられてんじゃねぇよ。見た目だけの雑魚だぞ?でもまぁ、負傷した状態でバブベアーから逃げた足は褒めてやれるわ。よく助けがくるまで逃げ続けれたもんだなー」


 そう。俺はあの後の記憶がない。告白して、確かに返事を貰った記憶はある。でも、今ではその記憶を疑う心すら芽生え始めている始末だ。


 だが、腕の傷痕が事実の証明になっているし、他人からの情報だとあの子は確かに実在している。


 目が覚めたら町の医療機関である診療所にいた。教会と隣り合わせになっていて、なにやら回復魔術で腕の傷を治してくれたらしい。異世界って凄い。


 それで、そこの診療所まで運んでくれた男性から話を聞くことができたんだが、その男性は金髪の少女に助けを求められて森に行ったら俺が倒れていたとのこと。


 運ばれていく俺を見届けて少女は去って行ってしまったらしいが、つまりあれは確かに本当の出来事で間違いないということだ。


 ……多分。


「ま、お前みたいな逃げるだけの弱い稀人なんて聞いたことねぇけどな」


「……他の稀人と比較されてもさ、そもそも他の稀人を知らないんだけど」


「結構有名所は稀人っての多いぞ。Sランの六割は稀人って噂もあるしな」


「ふーん」


「興味無さげだな」


「興味無いからね」


「そうか。そうだよなー。お前はメロメロな女がいるんだもんなぁ!」


「からかうなよ!」


「すまんすまん」


 この男はやっぱり悪人かもしれない。


「はぁ……んで、今日も行くんか?」


「そりゃな。あの子を探すにしても、明日が生きれなきゃどうしようもないからな。いや実際結構マジでやばいんだよ。三日後まで生きてられるかわかんないや」


「……なのに俺とこうして飯食ってんのか?」


「欲望には忠実に。それが最近の俺の座右の銘だ」


「いつか身を滅ぼすぜ?」


「人はどう生きようと最後には死ぬんだ。行き着く先が一緒なら、そのいつかで死のうが、どこで死のうが関係ないだろ?」


 人間が食物連鎖の頂点にいると言っても過言ではない甘い世界で暮らしてきたのだ。この世界で堅苦しく生きていたらストレスで爆発するだろう。だから、お気楽な思考で楽しむことばかり考える。


「その考えは嫌いじゃねぇんだが……まぁ良い。ほらよ」


「……なんだこれは」


 男が手渡してきたのは、前腕ほどのサイズはある尖った物。刃物のように片側が鋭くなっており、先端は注射器のような形状をしていた。僅かながら表面に産毛が生えている。


「スパイスピアの毒針だ。毒は抜いてあるが、それでも売れば高く付く。武器にしてもそんじゃそこらの短剣よりは斬れ味あるぜ」


 武器になるのか?と疑問に思ったが、持ってみるとわかる。軽いし、手元は持ちやすいように加工されていた。


 武器の良し悪しなんてわからないけど、それでも使いやすそうだと感じれる物だった。


「そんなんくれるのか?」


「飯付き合ってくれた礼だ。また今度も、付き合えよ?」


「もちろんだ。本当に助かる」




─────




「死ぬなよって意味だったんだが……伝わってたかねー。ま、あいつならなんだかんだ大丈夫だろ。稀人ってのは、運命が味方に付いてるらしいしな」


 男は生二が去った後、誰に聞かせるわけでもなくただ呟いた。


 テーブルの上の料理は全て平らげ、皿は既に店員によって片付けられている。残っているのは安いビールだけだ。


「話は終わった?」


 生二が去ったところを見計らってか、男の元に一人の女性が歩いてきた。


「おうよ。待たせたな」


 男は初めからわかっていたかのように応対する。


「別に待たされたことは気にしてないけど……酒臭いわねーもう!」


「るせぇるせぇ」


 男とは違い、身に着けているものはそこそこ高価な装備品だと見受けられる。


 更には身なりだけでなく顔も良いときた。男と並べばアンバランスと言える美しさだ。


「なんであの子にそんな親身になってんのよ」


 その女性の疑問はただ一つ。利益がなく、将来性にも確固たる可能性が感じられるわけではないのに無償で手を貸す理由だ。


「別に深い理由はねぇよ。ただ……」


「ただ?」


「ただ……ただの恩送りってやつだ」


「ふーん」


「ほら、いくぞ」


 男はいっきに飲み干すと、店員に手を軽く振って退席する意を示す。


「スパイスピアの毒針あげちまったからよ。また稼がねぇとだ」


「えーーー!」


「すまねぇって」


「あたしの記憶違いじゃなかったらスパイスピアってAランクだよね……?」


「そうだな」


「毒針って一番高く売れるところだよね?」


「そうだな」


「あんた最近ギャンブルで借金してたよね?」


「……」


「だよね?」


「……そう……だな」


「バカね」


「わーってるって」


「本当かしら?」


「…………すまん嘘だ。きっとまたやるだろうな」


「もう……」


 女性はその場から離れていく。


「チッ……はぁ」


 男は遂に愛想尽かされたかと俯くが、


「どうしたの?」


「あ?」


「稼ぎに行くんでしょ?ほら立って。さっさと行かないと仕事取られちゃうわよ」


「……あぁ!そうだな!」


 急いで女性に追いつき、隣を歩く。


「今日も頼むぜ」


「あんたあたしがいないと本領発揮できないんだから、ちゃんと手綱握っときなさいな」


「自分で言うのかよそれ。ある意味都合が良い女だって言ってるようなもんだぞ」


「じゃあ他の人のところ行ってもいいかしら?」


「すみませんでした!精一杯頑張らさせていただきますのでどうぞこの先も末永くよろしくお願いしますー!」


 男としてのプライドなんて、欠片も存在していなかった。


「ところであんた、酒飲んでたわよね。大丈夫なの?」


「一杯だけだ。なんとかなる」


「なにその変な自信は……?」


「あーあれだ。人はいずれ死ぬんだ。だったらこの酒が原因で死のうが、人生最後は死ぬってところは変わらねぇだろ?それだ」


「なにいってんだか。ほら急ぐわよ。Bランクの仕事は少ないんだから、取られても知らないわよ」




─────




 俺は、あの子と出会った森に来ていた。でも、あの時の場所よりは町に近いところだ。


 なにをしに来たのか。手掛かりを求めに来たわけではない。仕事だ。


 金がなきゃ宿に泊まれない。金がなきゃ飯を食べれない。つまりは生きていけない。


 生きていなければあの子に会えない。


 金。異世界でも結局は金なのだ。


「でもなぁ……俺、向いて無さすぎるんだよなぁ」


 稀人。


 俺のような別の世界から来た人間は、この世界ではそう呼ばれているらしい。


 稀に現れるから稀人。単純な呼び名だ。


 そして、稀人はそのほとんどが大きな力を持っているらしい。怪力だとか、魔力量が物凄いだとか、他には特殊な唯一無二の能力があるとか。


 それを聞いた時は本当にわくわくした。


 そんな力があれば、人生謳歌できるじゃないかと。


「……」


 でも、現実はそう甘くなかった。


 怪力を求めて石を握ってみてもなにも変わらない。硬くて石を握る手が痛かった。ならロマンを求めようと、言われた通りに魔術を使う言葉を唱えてみた。なにも変化は無かった。


 唯一無二の特殊な能力もわからない。そもそも持ってないという可能性も十分ある。


 なにか出ろ!とか、適当に色々念じてみたが全く変化しない。身体にも特に影響は無かった。


 もしかしたらあるかもしれない。まだわかってないだけで、本当はものすんごい力が秘めているのかもしれない。


「なんて、夢を見るくらいはタダだよなぁ…………夢か」


 結局この変な世界に来たこと。あの時の痛みも恐怖も夢じゃなかった。


 日本ではない、地球ではないどこか。


「……毎日これも、ダルいんだよねー」


 指定された草摘んで、その流れで害獣避けの魔石が無くなってたりしてないか確認して、途中で他の冒険者が戦闘している所を見かけたら遠くから観察する。


 そんな日々。それが今の俺の仕事だった。


 冒険者という職業。物語の中だとここから最強伝説が始まってたりする。


 でも俺はそんな夢物語にありつけることは無く、質素な日々を送っている。


 今やっている仕事の達成難度は最低ランク。害獣避けの魔石さえどうにかなって無ければ安全な仕事だ。


 だが、これは誰でもできる。子供でもできる仕事。だからギリギリの生活しか送れないほどの稼ぎしかない。正直このままの生活を続けていたら段々と痩せ細っていってしまいそうだ。


「でも、あんな矢面に立って戦う勇気は出ないしなぁ……」


 だからと言って、冒険者以外の職に付けばいいという話になるかもだが……そう簡単な話ではないのだ。


 どうにも、稀人は世間的には既に認められている存在というか、今更特段驚くようなものでもないらしい。


 だが、少なからず奇異な目で見られるのは確か。


 そこを利用しようと、稀人を名乗り悪巧みするものも一定数いる。


 だからこそ、稀人ボーナスとかは無い。


 となると、住所無し、身分不明。どうしか証明できるような書類も無い。


 そういういつどこで産まれたか、なにをして生きているのかわからない存在はゴーストと呼ばれ、そんな信用するに値しない存在をわざわざ雇おうとするものなどいない。


 ──冒険者ギルドを除いて。


 冒険者ギルドは、初めは簡単な仕事しかできない。だか、やがて力を付ければより難度の上がった仕事を受けることも可能になり、その分危険度、つまりは命を失うリスクが高まるわけだ。


 Bランクの壁。そう言われている。


 ゲームとかであるあるな感じで、Fランクから始まって、E、D、C、B、A、Sと上がっていく。


 その中で、ランクを上げるには次の難度の仕事を三回こなす必要がある。つまりCからBに上がるには難度Bの仕事を三回クリアしないといけないわけだ。


 ただそこが鬼門。


 三回クリアして、Bに上がりさえすれば死亡率は十%ほどになるらしいが、Bに上がろうとしたほとんどの冒険者が引退を迫られる。


 そもそも冒険者で居られなくなる、つまり死亡する者から、手足の欠損でまともな生活さえもできなくなる者。


 仲間の死を前にし、自殺を図る者、挫ける者。


 理由は様々だが──


「……こんなこと考えてても仕方ないか。Eに上がることすらこのままじゃ無理なんだなぁ……あー人生どうしよ」


 Eランクの仕事は誰にでもできる薬草採取とか見回りとかとは危険度が段違いになる。ぶっちゃけ、こんなしょうもないものではない。


 命の奪い合いの領域になってくるのだ。正直、これまでの人生で虫とかは殺したことがあっても、小動物以上の生物は殺したことが無い。


 その殺生に対するモラルとか法とかはこの際置いておいて、そもそも殺すことに躊躇を感じるのだ。


 今の仕事の最中、一度だけ瀕死の状態になっている動物を見つけたことがある。きっと他の冒険者が殺し損ねたんだと思う。


 瀕死の状態なら俺でも殺せる。金に換えられる。


 ……でも無視した。とどめを刺せなかった。確実に訪れる死まで待つこともできなかった。


 自ら殺せる力が無く、殺そうとする勇気も無い。


 本当に、この世界で生きていくことが向いていないと、つくづく実感する。


「草はこんなもんかな」


 ……だが、あの子に会うまでは終われない。


 それまでにあんな情けない男からは脱却しないといけない。しなくてはならない。


「この世界じゃ弱い男なんて必要ないからなぁ」


 とにかく、あの子に会うことが今の人生の第一。


 それまでに強くなる。会えた後も、強くなろうと努力する。


 守られるんじゃなくて、守れるようになる。


「大丈夫だ。希望を持てよ俺!」


 今はこんな生活でも、いずれは幸せを勝ち取る。


 第二の人生。やり直しが効くのなら、今度は欲望に忠実に。


 自分勝手だと言われようと、俺の人生を左右するのは俺自身。


「……よし!」


 今日は運良く草の群生地を見つけた。


 魔石も異常は無かった。


 戦いの音は聞こえなかった。


 平和な日常だった。

思い付いたばかりでまだ構成練ってる最中なので更新は遅いですが、評価ブクマ感想で速度バフが付くので良ければお願いします!




ちょっとでも続きが気になれば!是非!!

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