111話──学園2
扉越しに、教員の声が聞こえる。
喧騒としていた教室内を容易く治め、講義内容について色々話しているようだった。
これから冒険者が来ることなどを、とても簡潔に話している。
「なんか緊張するな」
「エンプにしては弱気じゃないか?」
「いやなー、やっぱこうして寸前になるとちょっと日和っちまうんだよな。まぁやるけどよ」
「我らは求められた、成すべきことを成すだけのこと」
「わかってるけどよぉ……」
そんな会話をしながら少し待機した末、扉が開いて教員から声が掛かった。
「零点のみなさま、よろしくお願いします」
「はい」
イナニスを戦闘に、教室内へと足を進めた。
妙に緊張しているのはエンプだけで、イナニスとセイジはいつも通りの平常心で歩む。
部屋の中に入ってから、ニ、三秒でざわめきだつ生徒たち。
それを耳にして、喜びよりも、これまでの功績や努力の成果なのだと、高揚感を感じた。
セイジにとっては、自分と片手で数えられるほどの年齢差しかない彼らを見て、少しばかり親近感と、懐かしさを感じていた。
それはセイジ自身が学生だった頃の記憶。
そして……
「……」
もうあるようで無い。そんな想い出からだった。
「おいミラー。リーダーなんだからテメェから自己紹介しろよ」
「え?あぁ、そうだな」
ボーっとしてしまっていたため、話の流れが進んでいることに気付いていなかった。
幸いエンプが声を掛けてくれたので、目の焦点を生徒たちに合わせて喉を開いた。
「初めまして、A級冒険者パーティーの、零点のリーダーを務めている、ミラーだ。これから数日間、みなさま方の授業の特別講師として、基礎から応用まで、幅広く、戦闘技術や生存戦略等講義や実践を交えて教えるので、どうぞよろしく」
事前に考えていた、無難な挨拶を済ませ、エンプへバトンタッチ。
「あー……オレはエンプだ。詳しくはミラーが言った通りのことだ。オレは拳闘士として、前線を張ってる。……次はイナニスだ」
「皆様初めまして。イナニス・トンテンと申します。僧侶としてサポート重視の立ち回りがパーティー内での主な役割となっています。また、サブリーダーとして依頼の選定や作戦会議の参加など、戦闘以外の仕事にも大きく関わっているので、もしそちらにも興味があるのであれば、気兼ねなく質問して頂いて構いません。以上です」
三人とも、長話は逆に集中力を欠いてしまう原因になると事前に考えて共有していたため、簡潔に自己紹介を終わらせた。
詳しく具体的に話すことは、本当に興味を持ってくれた人だけで十分だ。
興味が無い。つまり、聞いていてもつまらないということ。そんな生徒へ長々と話したところで、眠くなるだけ。
生徒にとっても、話している自分たちにとっても無意味な行動となってしまう。慣れない場所では、無駄は可能な限り省きたい。
だから、簡単にでいいのだ。
そうして講義が、イナニス主体の座学が始まる。
もちろんセイジとエンプは待機だ。面倒ごとはイナニスに任せてばかりだったので、座学で教えられることなどほとんどない。仮に教えられることがあったとしても、それはイナニスでも教えられることだし、イナニスの方が分かりやすく解説できるので結局役目は無い。
冒険者のセイジたちが呼ばれたのは、実戦経験があるからで、ただ座学をするならその道を長年研究している専門家でも呼べばいい。
セイジとエンプは、実技までは暇を持て余し続けることになるので、講義が始まると入り口付近で待機していた。
「なぁ、オレら待機で良かったんじゃねぇか?」
エンプは、セイジにしか聞こえない声量で話しかけてきた。
「顔合わせも兼ねてるから仕方ないだろ」
「そうか?……なんでこいついるんだって目で見られてる気がするんだが」
「気のせいだろ。ただ物珍しさからの視線じゃないか?」
「ならいいけどよ……」
「それより可愛い子でも探してなよ。その方が気も紛れるだろうしね」
「お、あぁ。そうするわ」
最小限の口の動きだけで会話して、残り何分かわからない、講義が終わる時間まで待つ。
「……」
セイジも生徒たちへ視線を巡らせた。
共学校なので男女ともにイナニスの話を聞いている。
顔は真剣そのもので、なんとなく入学しただけの、居眠りするような生徒は居ない。
全力で勉強して、全力で試験に臨み、念願の入学を果たし、今もこれからも勉学に励んで、世界で活躍する人々の仲間入りをしていく。
そんな、夢に溢れた子たち。
中には、イナニスに匹敵するような顔面偏差値を持つ男子生徒もいる。ここには貴族もいるらしいので、もしその男子生徒が貴族の息子なのだとしたら顔が良くて地位もあるという恵まれすぎな人生だ。
きっと、物にも異性にも困ったことが無いんだろうなと、羨ましさを感じた。
でも、妬みまでの負の感情は感じなかった。
自分より歳が下の相手だったからではなく、実際に金銀財宝を身に着けているところを見てないからでもなく、女を侍らせているからでもない。
ただの想像に過ぎないから。というのも、負の感情の浮き沈みには関係無い。
何故ならもう過ぎ去ったことだから。
大人になったとはまた違う。
強いて言うなら、諦めがついていたからだった。
夢を見て、それが夢だと気付けるか。目の前に吊り下げられた餌を食べようとして真っ直ぐ走らず、自分の道を探せるか。
セイジは早々に目を覚ましていた。覚めた片目で、現実を直視していた。
「……」
隣に目を移せば、同じく男子生徒。
その更に右には、女子生徒が並ぶ。上の段には女子生徒が二人並ぶ。その上の段は男子生徒が二人。その隣にも男子生徒が二人と、規則性は見られない。
小学校のように男女を交互に並べるわけもなく、同性同士が隣り合うようになっていた。それでも男女をクラスごとに分けていないのは、最低限異性との関わりや社会性を育むためか、もしくは性別関係無く、学課や成績などを鑑みた結果のクラス分けなのか。
ちゃんと主任の話を聞いていればわかったことなのかもしれないが、セイジが学園を詳しく知る必要は無いので、今更聞こうとは思わない。
今更……
「……ッ!?」
「あ?どうしたミラー」
評価ブクマ感想で速度バフが付くので良ければお願いします!
ちょっとでも続きが気になれば!是非!!




