110話──学園
「ここが学園かぁ。あんましだな」
「これであんましって、どんだけ豪華な校舎を想像してたんだよ」
「足を止めるな。無駄な注目を浴びることになるぞ」
勝手に期待して、勝手に落胆しているエンプに思わずツッコんでしまうセイジ。
そしてそんな二人を急かすイナニス。
彼らは今、生徒の登校と被る時間に学園へ訪れていた。三日前に王都から離れ、今朝学園近くの宿に辿り着き、三時間後には学園へ。
こんな急ピッチな時間になったのは、全てエンプが原因。
初めは話題作りのために王都観光していたものの、段々と普通に楽しくなってしまった結果、ギリギリまで王都にいようと駄々をこね始め、結局こうして少し寝不足のまま、生徒たちと同時刻に足を運ぶことになってしまっていた。
本来であれば、一時間前には到着し、学園の教師たちと改めて授業内容について練るつもりだった。
だからイナニスは急かしているのだが、セイジとエンプは平常通り。何故なら二人はアドリブでやり過ごそうと考えていて、詳しい内容はイナニスに丸投げしようとしているからだ。
「こうなった以上は焦っても仕方ないさ。それに、俺たちは依頼をされた側なんだ。依頼した側が時間にルーズなのはイカレてるけど、俺たちがルーズなのは小言言われて今後依頼が来なくなるくらいだ」
「それが問題で……はぁ。とにかく急げ。我らは正面入り口からではない。こっちだ」
イナニスの後を追い、校舎の左側にあった小さい入り口から侵入。
そこにいた事務員に身分と依頼について伝えると、すぐに担当者が小走りで駆け付けた。
そして繰り広げられるのは大人のやり取り。平謝りのイナニスと、悪くないのに頭を下げている担当者。
「……こうはなりたくないぜ」
「だな」
もしイナニスに聞こえていたらついには拳骨を食らっていただろう言葉だが、幸いにも小声で話していたので、セイジとエンプにしか聞こえていない。
「ちなみにどんな感じでいくつもりなんだ?オラオラ系か紳士系かあざと系か」
「なんもしねぇよ。オレはオレのままでいくぜ。ミラーこそどうすんだ?」
「俺はそもそも狙ってないから、お前を立てるような立ち回りでいくつもりだ」
「本当か?どうせ今は期待してないだけで、実際可愛い子がいたらその気になるだろうが」
「ないない」
「そんなわけねぇ」
そうして学園関係者には決して聞かせられない話をしていると、イナニスに手招きされたので近寄る。
「どうした?」
一緒に謝れとでも言うのかと思っていたセイジだったが、エンプと話している間にイナニスの方で色々話を付け終わっていたらしく、面倒な小言では無かった。
「我らが担当する学年の、主任のところまで案内してくれるそうだ」
「主任?」
イナニスの言葉を聞いて、エンプは頭にクエスチョンマークを浮かべた。
「先生の代表みたいな人さ。俺たちでいうイナニスみたいな」
「ほーん。行くか」
そう聞くと、さすがにヘラヘラするのはやめて真面目な顔になったエンプ。
なんだかんだ依頼を無下にはしない男だ。
「そうだな。やるぞ」
だからセイジも真剣に取り組もうと、やっと気を引き締めたのだった。
─────
主任は三十代ほどの、とても気の良い方だった。遅れたことに関して、
『Aランクの冒険者ともなると、とてもお忙しいことでしょう。お気に召さらないでください』
と心優しい言葉を掛けてくるほどだ。
実際はイナニスが予定を大きく開けてくれていたため、本来であれば余裕を持って到着していた。という真実を知っているセイジたちの内心が少し心苦しくなったのは秘密だ。
言わなくていいこともある。
主にイナニスと主任が講義について話を詰め、時々セイジが口を挟むという感じで進んでいき、小一時間ほどで話し合いが終わった。
それからその主任に学園内を案内してもらった。座学で使う教室や、実技で使う演習場等、平凡な場所から好奇心掻き立てられる興味深い場所まで、様々な施設があってまあまあ楽しむことができていた。
エンプはそれほど興味無さそうだった。多分早く本題に移って欲しいのだろう。
しかし、遅くなったこちらに合わせて授業の順序を入れ替え、後送りにしてくれた結果なのだから決して文句は言えない。
やがて学園全体に鳴り響くチャイム音が聞こえたところで、
「そろそろお時間になります。講義の合間に十五分ほど休憩時間がございまして、その時間は生徒たちが教室外に自由に出ていい時間です。皆様方には予定通り、講義開始時刻から五分後を目安に教室入り口前に向かっていただきます」
「了解した。では、それまでは生徒の目につかない場所で待機していた方がよろしいか?」
「そうですね。生徒たちも浮足立っているようで、他クラスや他学年の講義などへ影響が出てしまう可能性がございますので、そうしていただけると幸いです。よろしければお時間までお茶などをお出しさせていただきたいと考えているのですが、いかがでしょうか」
「そうだな……お言葉に甘えさせていただくとしよう」
「ありがとうございます。それでは、こちらから戻らさせていただきます」
普段生徒たちが通らないというルートで、主任と講義内容について練った部屋へ戻り、時間まで紅茶とお茶菓子を頂いた。
茶葉について色々説明してくれていたが、セイジには味の良さがわからなかった。
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