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11話──宿敵3

 生二の行動を見たバブベアーは、怖気づくわけでもなく真正面から向かい打つわけでもなく……横へ歩いた。


 様子を見る為と言えばそうなのかもしれないと思えるが、実際は違った。


 木が二本、生二とバブベアーの間に位置する場所へ。


 木を障害物にして生二を止める?木で己の身を隠す?


 そんな単純な理由ではない。


「──!」


 バブベアーは喜びに打ち震える。


 こうも容易くかかってくれるのだから、人間は本当に良い餌だ。


 生二の足が、一歩。また一歩と踏み込まれ、互いの距離が縮まる。


 五秒にも満たない時間。


 バブベアーと生二が、こうして戦っていなければ友人のような距離感ともいえるくらい近付いた時、


「え──?」


 バブベアーの視界から、生二が消えた。


 バブベアーが捉えきれないほどの速度で、生二が視界外に移動したわけでもなければ、物理的にバブベアーの視界を潰されたわけでもない。


 それは、生二にとって想定外。


 戸惑いの声を漏らして、流れに身を任せるしかない展開。


「──!」


 バブベアーは木と木の間へ、のそのそと向かう。余裕のある様子で、隙を晒すことも構わずゆっくりと。


「ああああッ!」


 それは、落とし穴だった。


 バブベアーが覗き込めば、そこには体制を崩して、悲鳴を上げる生二の姿。


 両足を、木で作られた槍が突き抜けていた。


 生二にとって幸いだったのは、前のめりに走っていたおかげで落ちた時に前方の地面にぶつかり、地面が若干のクッションとなるも流れ切らない力が生二を跳ね返し仰向けで落ちたこと。


 姿勢によっては内臓に突き刺さったり、頭蓋を突き破られて即死していた。


 だが、例え足だとしても、槍の直径は五センチ。


 今までの怪我とは比べられない、計り知れない痛み。突き刺さった部位からは血が現れている。


 槍から抜け出せば、多量の血が体から流れ出す。視界がぐらつき、呼吸が浅くなり、意識の混濁。


 この場合の最善は、脅威の排除後、止血を行ないこれ以上傷を刺激しないようにゆっくりと引き抜くこと。それから改めて傷口の洗浄をして感染等を防ぐことも必要だ。


 しかしそれは仲間がいる場合に限ること。


 今の生二のような状態の人間が、穴上のバブベアーを倒して自身の応急処置まで行えるとは到底思えない。


「あああああああ!!」


 事実、生二は発狂してしまっている。バブベアーすら目に入らないほど、脳が痛みと足が貫かれている光景に支配されているのだ。


「──!」


 バブベアーはトドメを刺しに行かない。


 わざわざ危険を冒す必要がないことを理解しているからだ。


 死を目前にした生物は、なにをしでかすかわからない。命を捨てた決死の特攻が、最も怖いのだ。


 だから、バブベアーは生二が弱まり、やがて息絶えるまで待ち続ける。


 他の奴らにこの獲物を奪われないように牽制するという意味合いもある行動だ。


「あああぁッ!」


 ここは森の中、一般人は近寄らない場所。


 冒険者が偶然通りかかる可能性も僅かしかない。


 縄張りから出るためにと、かなりの距離を走ってきてしまっていた。男の助けも期待できない。


 そう、生二は完全にバブベアーの策略にかかっていたのだ。


 生二が落とし穴に落ちてしまったこと。この場所に生二とバブベアーが来たことすらも偶然ではない。


 バブベアーが誘い込んだ結果だ。


 バブベアーは、縄張り外へ出ると極端に弱くなる。それは常識で、生二の行動は正しいものだった。


「──!」


 だが、このバブベアーに限ってはその常識も通用しなかった。


 各地を回り、好みの土地を見つければその地を縄張りにし、他のバブベアーがいれば力で追い出す。頑固者であれば殺す。


 そして、飽きたら移動する。


 縄張りを固定せず、自由に森の中を探索する。


 通常のバブベアーでは考えられない生態の、生二が警戒していた一風変わった個体。完全なる異常個体だった。


 更に、状況を見ればどれだけ優秀な個体なのかがわかるだろう。


 生二を落とし穴に嵌めたという事実。


 バブベアーには落とし穴を掘れる知能も、肉体の性能も備わっていない。


 これはこのバブベアーも超えられない、種として不可能な壁だ。落とし穴を掘って狩りを効率化しようと考えられる知能が足りていたとしても、肉体面はどうにもならない。


 穴を掘れても崩れないように綺麗に掘れないし、仮に掘れたとしても登れなくなる。生二が気付かなかったように、バレないように草木で偽装することもできないだろう。


 さて、それらの困難をどのようにして突破し、生二を地獄へ落としたのか?


 ……簡単なことだ。


 人間が作った罠をそのまま利用した。それだけのこと。


 どのようにしてこのバブベアーが落とし穴を見破ったのか。それは定かではない。


 偶然人間が作っている場面を見たのかもしれないし、その知能であればバブベアー自身の目で見破ったのかもしれない。


 どちらにせよ、今の生二にとっては全く関係の無いことだ。


 どのようにして生き残るか。どうやってこの場を切り抜けるか。そのことだけを一心に考えなければならない。


 だが、


「あああああー!!」


 どうしようも無くなった時のルーティーンであった深呼吸すらもできていない。現実が受け入れられず、子供のように喚き散らすことしかできていなかった。




 生二にとっては殺し合いだった。


 バブベアーにとっては日常の狩りだった。




 それだけのこと。



─────




「──!」


 バブベアーは、追い詰められた獲物が泣き叫んでいるところを見ることが好きだった。


 特に、ただ逃げて追い詰められた獲物ではなく、立ち向かってきた獲物が無様に成り果てる姿が良い。


 食事にありつけるだけでなくこうして楽しめるのは、少し危険を冒してでも人間を選ぶ価値がある。




 今度は、生きたまま食らってみるのも面白いかもしれないな。



思い付いたばかりでまだ構成練ってる最中なので更新は遅いですが、評価ブクマ感想で速度バフが付くので良ければお願いします!




ちょっとでも続きが気になれば!是非!!

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