108話──男の語り合い
「で、なにが違うんだ?」
イナニスと離れたミラーは、王都の街並みを眺めながらエンプに先ほどの続きを話すよう促した。
「あのな、俺は並び立ちたくないんだ」
「並び立ちたくない?それは恋人とか妻のことだよな?」
「そうだぜ」
「上に立ちたいのか?亭主関白みたいな」
「違うな」
「なら尻に敷かれたいってこと?」
「違うって。なんでテメェはそんな両極端な考えしかできねぇだよ!」
わざとらしいミラーの言葉に声を荒げ、訂正しようとしたエンプだったが、
「そうじゃなくてな、オレは……その、なんだ……」
改めて人に話すのはなんだかんだ恥ずかしく、頭を掻きながら言葉尻を濁した。
「言ってみろって。このままだと勝手な想像が俺の中で定着するぞ」
「わぁってるょ……」
「……」
しなしなになって、これ以上攻めようとしたらキレ始めそうなのでミラーは大人しく、エンプが自ら話し始めるまで待つことにした。
少し歩いて、頭の中を整理したエンプが口を開いた。
「冒険者をしてるオレが言うのもおかしい話だけどよ、オレら仕事って殺すか殺されるだろ?」
「そうだな。人によっては安全な依頼だけで生きているけど、それだと金が貯まらない。だから大半は、死と隣り合わせの依頼を受けてるな。俺たちもそうだ」
「だろ?そんな仕事をさ、恋人にしてほしいって思うか?」
「思わないな」
「だから嫌なんだ。冒険者とは恋仲になりたくねぇ。いつ死ぬかわからない。見知らぬところで死ぬかもしれない。自分勝手な考えだとは思うが、それくらいのわがままを通せる相手とじゃなきゃ、オレは無理だ」
「そんなピュアな想いだったんだな」
「うるせぇ」
「でも、それくらいの理由ならエンプが傍で守ってやればいいんじゃないのか?同じパーティーで常に一緒の依頼をすればいい」
「いやいや。つまりそれって零点から抜けるってことだろ?」
「抜けたくないのか?」
「絶対ここじゃないといけねぇってわけじゃないんだが、結婚する前のどう転ぶかわからない関係性のそいつとパーティーを組むために抜けるのは違うだろ。それなら零点のを選ぶな」
「結婚後だったら?」
「……妻か……いや待て、そもそも冒険者の女とそういう関係になるつもりはないって話だ。なった後まで掘ろうとするなよ!」
「すまんすまん」
「ったく。それにな、冒険者の女ってのは、貞操観念が緩いんだ」
「…………ん?」
聞き間違いかと、ミラーはたった今聞いた言葉を何度も反芻させた。
「だからな、貞操観念が緩いんだよ」
ミラーからの返答が遅かったからか、エンプが再び教えてくれる。
「……なるほど。貞操観念がね?……うん。なるほど。詳しく聞いてもいいか?」
「はぁ?あのな、冒険者の女は色んな男とずっこんばっこん──」
「もういい。そういうことを聞きたいんじゃないんだけどもうわかったからいい」
「そうか?」
「そうだ。ちなみに聞きたいんだが、どういう根拠で貞操観念が緩いって考えに至ったんだ?」
「……経験則」
「あー……はい」
一言だけ発したエンプは、悲しくて寂しさのある目をしていた。
「えっと、冒険者を恋人にしたくないって理由はよくわかった。じゃあ、学園で人気になれるよう頑張ろっか」
「その態度やめてくれ。殴りたくなる」
「すまんって」
握り拳を向けてくるエンプから一歩分距離を取るミラー。
そんなミラー見たエンプは呆れた様子で力を解いた。
「もう一つだけ理由があってな」
それは、少し恥ずかしそうに、茶化すように笑いながら告げた心情。
「好きな子はさ、守られるより守りたいだろ?」
「……確かにな」
どうしてもそこだけは譲れないという男心。いや、少年心は、深く語らずとも分かり合えていた。
「テメェはどうなんだよミラー。オレだけ暴露するのは不公平だろ」
「俺かぁ……」
「色恋沙汰なんにもねぇじゃねぇかよ」
「仮面があるからな」
「なら、仮面の中を見せたいって思う相手はいないのか?」
「仮面の中をねぇ。それこそさ、冒険者ミラーを知ってる相手だと、勝手に頭の中で素顔を想像してるもんだろ?顔が良いお前たちと一緒にいるから、その先入観で同じような良い顔つきだって考える。それで素顔を見せた結果、期待外れでそのままさよなら。だから俺もお前と同じで、冒険者とは無理ってわけだ」
「なるほどなぁ。なら一応願望はあるわけか」
「あるっちゃある。でもさ、願望は願望でしかないだろ?願っても叶わないことなんていくらでもある。だからそろそろ夢を見るのはやめようかなって……考えたりもするよ。エンプも、不可能に近いって思ったら早いうちに切り替えた方がいいよ」
「いーや。オレは不可能じゃない限りは追い続けるぜ。ほんの少しでも可能性があるならな」
「……そうか」
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