106話──指定依頼
「王都の学園から依頼が来た。我ら零点への指定依頼だ」
「王都の学園?」
零点の拠点に帰ってきたイナニスの第一声に耳を疑い、ミラーは武器の手入れをしていた手を止めて聞き返した。
「詳しくは、王都の南南東に位置する領地の学園だが、領地という正式な形式では王都に含まれているため、王都からの依頼と考えてくれ」
「王都からなんてこれまであったか?」
「無かったと思うぜ」
ミラーの問いに、隣で肘当てを磨いていたエンプが答える。
二人はいつも通り仕事を終えて、拠点に帰宅後のルーティーンをこなしていたところだった。
イナニスのみ、零点が主に利用しているヤターリの冒険者ギルド第二支部に残っていた。それは零点に対してギルドから呼び出しがあったからであり、そのような時は必ずイナニスに任せるというようになっていた。
ミラーとエンプがいたところで、口を挟むこともせず暇そうにして出された紅茶とお茶菓子をただ消費するだけで意味が無いからだ。
それならば、パーティーのスケジュール調整やら経理やらを全て任されているイナニスを残すだけでいい。
先に拠点に帰ればこうして次の仕事に向けた武具の手入れができるのだから。
そんなわけで、呼び出しを受けたイナニスは冒険者ギルドで呼び出し理由を聞き、指定依頼だということで具体的な日程や移動手段などを詰めて、先に帰っていた二人に追い付き、報告の段階へ移行した。
「なんでも、その学園の臨時講師を務めてほしいらしい」
「オレらになにが教えれんだ?講師ってのは先生のことだろ?だったらイナニスだけでいいじゃねぇか」
「そうだな」
エンプの言葉にうんうんと頷いて同意するミラー。仮面があるせいで表情は見えないが、このようなジェスチャーでうまく感情を表に出すことで円滑なコミュニケーションを取っている。
「小難しい基礎知識を教えるわけではない。それらには本職がいるからな。我らの役割は冒険者としての心構えや、戦闘技術などなど、とにかく危険と共に生きる我らから教授をお願いしたいとのことだ」
「教授ねぇ……指定依頼ってなっちゃあやるしかないが、不平不満いちゃもん付けられて報酬もロクにもらえなさそうじゃね?はぁ……王都の学園ってなるとお坊ちゃまお嬢ちゃまばかりだろ?思い通りにならないと親のすね齧りながらオレらを見下してくるんだよどーせな」
「随分凄い偏見だな。でもま、否定はしないよ。なんでSランクに声を掛けないんだって思わないか?」
「そのことについてはギルドにて学園関係者から返答を受けている」
「さっすがぁー!」
エンプは指を鳴らして、そのままイナニスのことを指差しつつ先回りな行動を誉めた。
「指を指すなと何度を言ってるだろう」
「すまんすまん。で、その関係者はなんて言ってたんだ?」
「遠回しな表現ばかり多用してたから俺の方で簡略化して話すが、Sランクには難ありな人間ばかりだからAランクパーティーの中でも評判が良い我らに声を掛けたとのことだ」
「なんだそりゃ。じゃあオレらだから依頼したんじゃなく、当てはまるのがオレらくらいしかいなかったから依頼したってか?」
「そのようだな。消去法で選ばれたのだろう」
冒険者というのは実力や実績が全ての世界なので仕方のないことではある。そう理解していても、あまり気分はよくない。
「ミラーはこの依頼をどのように考える?」
「どのように考えるって聞かれてもな……。依頼の内容がこれまでと毛色が違うものだから、不安要素はある。ただまぁ、これも一つの経験として気楽に考えればその不安も些細なものさ。だってイナニスはいつも通り了承してきたんだろ?」
「あぁ」
「本当にクソみたいな依頼だったらお前が弾いてくれるって信用してる。だからここまで話を持ってきてくれた以上はやらないなんて言わないよ。エンプからの文句はどんどん出てくるだろうけど、いつものことだ」
話の流れでいきなり勝手なことを言われて、エンプは黙ってはいられない。
「おい!」
「どうどう、落ち着けよエンプ。よく考えてみろって」
「なにをだ?言ってみろ!」
「俺たちがこれから行くのは学園だぞ?学園て言ったら、将来有望な少年少女が集まる場所。未来に希望を持つ若々しい子たちなわけだ」
「……ほう。つまりは?」
「もうわかってるくせに、皆まで言わすなよ」
「ハッ……!」
エンプはミラーの言葉から、依頼中のあれやこれやを脳内でシミュレーションし、一つの結論に辿り着いた。
「……ミラー、イナニス」
「はいはい……」
「なんだ?」
「今すぐにでも王都に行くぞ!」
一番深いため息をついていたくせに、目的を見つけた瞬間に手のひら返しでめちゃくちゃやる気を出し始めるエンプ。
「エンプ……Aランクのパーティーってのは、その地域の冒険者ギルドへの依頼内容に大きく影響を与えるものだ。さよなら後は任せたなんてこと、急には──」
「つべこべ言わずに準備しやがれ!オレはもういけるぞ!ミラーはどうなんだ!?」
「俺もいつでもいけるな。金さえあれば手ぶらでもなんとかなる」
「だよな!……遅いぞイナニス」
左手で髪をかき上げ、しかめっ面で目を瞑ったイナニスへ、急かすように理不尽な文句をぶつけるエンプ。
そんな二人を見て、ミラーは思わず仮面の中で笑ってしまい、くぐもった空気の音が微かに響かせた。
「急いだところで学園側の予定を変更させることは難しいぞ」
「別にそこはいいんだよ。オレは王都で良さげな店とか流行り物を頭に入れないといけないんだ!王都の近くだってんなら、王都の特別感も感じるだろうしな」
「はぁ……可能な限り早めるが、今すぐには無理だ。二人でどこかしらに遊びに行って、学園での雑談用の種でも探してこい」
「言ったな?三日以内にはいくからな」
「……あほ共め」
「あほ、共!?俺も!?」
エンプとイナニスのやり合いだと思って見ていたミラーは、罵倒の矛先が自分にも来たことに驚く。ピストルの撃ち合いかと思っていたら、イナニスの武器がまさかの拡散弾だった。
「お前が変なこと言うからエンプが乗り気になったんだ。連帯責任だ」
「……おっしゃる通り」
その後、ミラーは責任を取って作り出してしまったうるさいエンプを連れて外に行った。
イナニスは何度もため息を吐きつつ、王都までの乗合馬車を探したり荷物をまとめたりと奔走したのだった。
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