二章 105話──三人組の冒険者
「エンプ!」
「はいよ!」
口の端から涎を垂らし、久しぶりの獲物に歓喜して飛びかかってくるのはバリウルフ。
特徴的な光沢のある体毛は、まるで金属のように硬く刃物を通さない。
丁寧に毛皮を剥げば懐が豊かになることは間違いないくらいには価値がある生物だ。
決して生息数が少ないわけではないが、春にしか姿を見せない。それ以外の季節ではどこでなにをしているのか、未だ不明である。
春が過ぎるとバリウルフの毛皮を使用した防具等の価格が段々と高騰していく。保温性が高いこともあり、特殊な製法で体毛を柔らかくするこで普段着としても優秀なものだ。寒さが厳しい季節はとても重宝される。
ただ、時間経過で段々と灰色からまるで錆びたかのように茶色く濁り、独特な刺激臭を放ち始める。使用期限は半年が限界だ。
だからこそ、春は低価値。それ以外の季節は高騰するという、極端な品物になるのだ。
ちなみに現在の季節は春に差し掛かっており、バリウルフが姿を見せ始める頃合いだ。
供給量が増え始める頃合い。つまり段々とバリウルフの価値が下がっていくということ。
価値が高い最後のタイミングとも言える。
しかし、そのバリウルフと戦闘する二人はなかなか攻めはぐねていた。
十分に力量はあるものの、毛皮に価値があるためどうにか傷付けないようにして殺したいのだ。そのため、手加減しつつ気を引いて、バリウルフが隙を晒す最高のタイミングを探していた。
「逃がすなよ」
「わかってるけど、だったら手伝えって!」
後ろで達観していた仮面の男の言葉に、振り返らずに応対するエンプ。
「手伝うに値するのか?」
「今の時期なら金になるはずだぞ。ここで逃したらゴブリン狩りでもしてた方が金になる。やれれば……オーク5体くらいの金にはなるんじゃねーか!?」
「……ふーん。じゃあやるかぁ……」
仮面の男は、仮面を覆うように手を当てると、カコッという音と共に仮面の位置を僅かに上にずらした。
そして──
「──ッ!」
自身の胸元を掴み、一抹の空白の末に空を仰いだ。
「……やる、ぞ」
幾分か声色が低く……いや、か細く聞こえた。
だが、次に見せたよはそんな不安要素を一切感じさせない、迅速な剣撃。
強固な体毛の僅かな隙間に正確に差し込む一撃。
「クゥ──!」
生を惜しむ断末魔と共に、バリウルフは倒れ伏したのだった。
─────
Aランク冒険者パーティー、【零点】。
チームメンバーは男性三人で構成され、結成後たった二週間でAランクと成った早熟パーティー。
ヤターリを拠点として活動している彼らは、男性三人ということもあり密かに女性人気が高い。
燃えるような赤髪の軽装備拳闘士、エンプ・ダルマス。
冷静沈着な銀髪のオールラウンダー僧侶、イナニス・トンテン。
そして、常に仮面で顔を隠した素性不明のリーダー、ミラー・ドール。
受けた依頼は全て確実にこなし、失敗して収獲なしに帰還したことは一度もない。
不格好な一面を見せないところから、実は人間じゃないのではなんて空想のような噂をされたりもしているが、真実はまことしやかな嘘だ。だが、不特定多数の勝手な妄想だし、誰かを害するものでもないのだから、そのことについては誰も否定していない。
中にはいかがわしい妄想をする人たちもいるとかいないとか……
ただ、光があれば影が生まれるように、彼らに好感を持つ者がいれば、睨む者もいる。
女性人気がある彼らに、敵対心を抱く男の冒険者だって多い。
しかしそれらは実力で黙らせる。
誇張しているようにも聞こえるが、やがてはSランクにも届くのではないかと巷で囁かれているくらいだ。
そんな彼らなのだから、時には特別な依頼が届くこともある。
誰でも受けれるものではなく、零点の三人を指定した依頼だ。
その分報酬金は高額になるし、依頼主の要望を完璧にこなせば次のランクへの道も大幅に進むことができる。
とはいえ、BランクからAランクに進む道での指定依頼なら明確に進めるものの、AランクからSランクへの道の長さは規定があるわけではないため、距離は稼げても割合で考えれば一にも満たない僅かなものだ。
それはSランクという最上位の冒険者を増やし過ぎてしまうことによる、ランク制度の意味、全体の価値の格下げを防ぐため。
なのでSランクへの道は遠いが、ギルドマスターたちの選考を潜り抜けるためにも、そのような指定依頼を断る冒険者はいない。
もちろん、零点の三人にも当てはまる話だ。
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