102話──ゼットに言葉を
ゼットがジェルデミアと協力してエイデンを無力化したこと。
無力化したエイデンを殺すのではなく、見逃したこと。
しかし、次に出会った時には自ら命を絶っていたこと。
「俺は、戦いの中で、エイデンと心を通じ合わせられたと思ってた。でも、そうじゃなかった。俺はエイデンの戦士の誇りを理解した気でいただけだったんだ。一番良い選択だと思ってたことが、エイデンからしたら屈辱だったんだと思う。きっと、どうしようもなく嫌だったんだろうなって……」
「敵なのにか?」
「うん……」
手を後ろに付いたゼットは、足をぶらぶらを揺らした。
声に出したからか、少し気持ちが軽くなっているように見える。でもまだ、表情は暗いまま。
「エイデンはさ、神領星っていう悪い組織にはいたけど、本質は悪い人じゃなかった。ただ成り行きでそこにいただけなんだ。あの戦いがそもそも無ければ、エイデンが死ぬことは無かったんじゃないかなって、そう思うこともあるんだ」
「それは考えすぎじゃないか?仮にゼットが戦わなくてもダンプさんらと対面することになって、戦って、最終的には殺されてただろ。もし生かされても、同じように自殺してただろうしな」
「そうなの、かな……?」
「どれもこれも可能性の話だ。考え過ぎはよくないさ」
「でも、俺のミスが原因で洞窟を崩落させて、イアさんに助けられて、その先でエイデンと出会ったんだ。酷い迷惑をかけた。俺のせいでイアさんも死んでたかもしれない。もし本当に殺されてたら、俺が殺したのも同然だよ。これを可能性の話だって言って済ませられるくらい楽観的になるのは無理だ」
「……そうか」
セイジは、ゼットの言葉をゆっくりと噛み締めた。どうすれば元気付けられるか、いつもの調子に戻せるか。
セイジの中にある言葉をかき集め、どうにか組み立てていき……
「俺は……お前を元気付けられるようなことはなにも言えないな」
考えた末に、諦めた。
「まず、エイデンについてだけどさ、お前があの男とどんな戦いをしたのかも、どんなことを話したのかも、実際に見たり聞いたりしたわけじゃない。だから、お前の想いを完璧に理解することはできない」
「うん。わかってるよ……それくらい」
「でも、その人が自ら命を絶ったのなら、俺も、お前も、口を挟んじゃいけないと思う。惜しむ気持ちがあるとしても、その気持ちを外に出すのは相手を愚弄することになるんじゃないかな」
「ッ……。愚弄する……誇りを……エイデンの戦士の誇りが……」
「その誇りを、矜持を、ゼットは否定しないで見届けることが大切なんじゃないかな」
エイデンで悩んでいるなら、そのエイデンを盾にしてゼットを説得する。セイジの中でどうにかできない以上は、こうする道しか見えなかった。
「……そうだね。……うん。セイジの言う通りだよ。確かに俺が口を挟んじゃ駄目だ」
「それと、ゼットが行かなければよかったって話だけどさ、ゼットがいたからこそ、俺はここにいるんだ」
「どういうこと?」
「あの時、もしゼットが居なかったら、きっとダンプさんたちに対して、もっと長い時間敵対したままだったと思う」
「でも、アリス様がいたから結局はさ」
「俺がゼットに言ったことと同じようなこと言ってる自覚ある?一緒なんだよ。今ゼットが言ったことも可能性の話しだ。もしいなくてもきっとこうなってた。きっと良い方向に向かってた。俺のもしも話には頷かないのに、自分はもしも話で頷かせようとするのか?」
「それは……」
「まぁ、もう少し聞いてくれ」
言葉を詰まらせたゼットに、セイジは手のひらについた不規則な草の痕を見ながら言った。
「あの時の俺にとっては、アリス以外が敵だった。神領星はもちろん敵だし、見た目は神領星じゃなくても、簡単に信用する気は毛頭無かったんだ。だからもちろんダンプさんたちのことも警戒してた。アリスは大丈夫って言うけど、アリスが騙されてる可能性だってあるし、とにかく疑心暗鬼になってた。でもゼットがいたから、信じれた。あの人たちも相応の立場にはいるけど、あの状況だと俺はゼットにしか信頼を置けなかった」
「俺にしか……」
「俺がこの世界で信頼を置けるのは、片手で数えれるくらいしかいない。信用している人ならそこそこいるけど、信頼できるのは……そうだな。まだ四人かな。寂しいとか、悲しいとか、そんなことは思ってないから、同情してほしいわけじゃない。信頼できる人を増やす手伝いも必要ない。数少ない大切があればそれだけで良いんだ」
「その大切の中には俺もいるのか?」
「さっき言っただろ?あの時はゼットだけ信頼できたって。もちろんゼットも大切さ」
「そっか」
遠くの方で鳥が飛び立ち、二人して目で追った。豆粒になり、視認できなくなるまで。
「随分嬉しそうだな」
「そりゃもちろん。親友に大切って言われて嬉しくないわけないだろって」
「……その様子だと、立ち直れたみたいだな」
「立ち直れたよ。キッパリ忘れるってわけにはいかないけど、これ以上引きずったりはしない。あの時の選択のこととかの後悔はし終わった」
晴れやかな様子のゼット。
これならきっと、思い悩んで、思い込んで、最悪な道へ進むことはないだろう。ゼットのような人間がそんな道を選ぶとは到底思えないが、悩みの要因の一つであるエイデンの死に方がまさにそれだったため、放置するわけにはいかなかった。セイジの役目だと思った。
ゼットはもう大丈夫だろう。
だが、セイジには先送りにしていた問題が残っているのだ。そろそろ手を付けなければいけないと、
「なら戻るか」
「えぇー。もう少しこうしててもいいじゃんかよ」
「立ち直ったら立ち直ったで、お前はパーティーメンバーとも話さないといけないだろ?一ヶ月も休んでるし、お前が宿から長時間出てるところを見てない。ちゃんと話せてないよな」
「それはー……どうにかなる。きっと」
「よし戻ろう。リーダーならリーダーらしく、やるべきことはこなせよな」
セイジは立ち上がって、ゼットの首根っこを引っ張って無理矢理立ち上がらせようとする。
「わかった!わかったって!危ないから、ここ崖だから!」
「この高さなら死なないって」
「クソアホーー!」
森中にゼットの叫び声が響き渡った。
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