101話──心の楔
町を出て、森の中を歩く。躓きつつも傾斜を登り、やがて開けた場所に出る。
幸いにも狂暴な生物とは出くわさず、安全に目的地へ来れた。もし出くわしても、この辺りにセイジとゼットが敵わない生物はいないので、少し面倒なだけだ。
傾斜の終着点は、木々が無い短草のみ崖。視界の先に邪魔なものは無く、どこまでも青空が広がっていた。
心地良い風が短草をなびかせ、二人の髪も同じように振れていた。
暖かい日差しが、心に温もりを与えてくれる。
セイジは崖のギリギリまで歩き、膝から先を空中に投げ出すようにして腰を下ろした。ゼットは少し躊躇うも、結局同じように際に座った。
「……こんな場所があったんだ」
「Eランクの頃に知ったんだ。偶然見つけたんじゃなく、教えてもらった場所だから自慢できる場所じゃないけどな」
「へぇ。それって……ああいや、なんでもない。…………俺はさ、セイジ」
「なんだ?」
「……あの時、セイジを助けに神領星のアジトに行ったことを、後悔してるのかも……しれない」
「後悔してる?なんでだ?結果的に全部思い通りにいったじゃないか」
アリスもセイジも助け出し、神領星の幹部も捕えて実質的に組織を潰した。それなのになにを後悔する要素があるのだと。
「一人になったり、寝る前とかに考えちゃうんだ。俺がわがまま言わないで、町に残っていれば、もっと良い結果になったんじゃないかって……」
震える声で吐露したゼットの悩みは、パッと思い浮かぶような言葉で解決できるものではなかった。
「詳しく聞かせてくれるか?」
解消できるかわからないが、せめて参考程度にでもなればと。
「ぜんぶ……全部たとえ話なんだけど、もし俺が落ちに残ってたらさ、犠牲者を減らせたんじゃないかなって思うんだ。別に、俺はダンプさんとかイア……イアさんみたいに強くは無いけど、それでも残っていれば一人でも多く助けられたと思う」
「確かに、ゼットがいればもっと悲しむ人を減らせただろうな。でもさ、その代わりにゼットは勇敢にアジト内の神領星と戦ったんだ。それ十分じゃないのか?」
「……俺は、そうとは思えないんだ」
きっと、今ゼットの顔を覗き込めば、涙で滲んでいるだろう。
でも、セイジはそんな無遠慮な行為はせず、ゼットと一緒に空を見続けた。
「俺が着いていって、どれだけ活躍できたのかなって考えた。でも……なにも無かった。俺が居ても居なくても、結果はなにも変わらないと思う。ダンプさんが道を示してくれて、イアさんがみんなを守ってくれて、ビリーブさんとジェネドさんが戦って、ネイビーさんが癒してくれて……その中に俺は入り込めない。Bランクになっても、何倍も遠くにあの人たちはいるんだ」
「遠く……か。そういう気持ち、わからなくはないな。これはゼットのために上っ面で共感してるわけじゃなくて、本当に俺もそんなことを思ったことがあるから言ってるんだ」
「うん……」
「自分とは住んでる世界が違う。自分より凄い。届かない存在だ。そんなこと、今まで何度も感じてきたし、今も感じるよ。俺のこの感情が、ゼットの苦しみを分かち合えるほどのものだったらいいんだけど、言語化しずらい、秘めるしかない想いもあるだろうし……難しいよな。それで、神領星のアジトで思ったように活躍できなかったから、だったら町に残ってた方が良かったって思ってるって事か?」
「そうなんだけど、違くて。宿でセイジが言ってたエイデンのことなんだけどさ──」
─────
それはまだ、神領星のアジト内を走っていた時。
セイジとアリスと合流を果たし、脱出しようしていた時の、とある十字路。
ゼットとジェルデミアの二人が思わず足を止めた場所があった。
長く滞在したわけじゃない。たった三秒にも満たない僅かな時間の出来事だ。
その時のセイジからすると、心に残るほどでもないなんでもない場所。ただ、大きい人が一人死んでいる広い灰色の部屋。
男は力なく壁にもたれ、胸からは血濡れた岩槍が突き出していた。背中から心臓を抉られていたが、なぜか男の表情は苦悶に満ちたものではなく、顔だけ見ればただ眠っているようにも見えるほど穏やかだった。
その時のゼットがなにを思ったのか、セイジは知らなかった。
後々になって、エイデンという名の、ワーサーに並ぶ神領星の切り札ともいえる存在の男だったと知った。
エイデンと戦ったのがゼットとジェルデミアであり、あの死に様がゼットたちの仕業でも、意図したものでもないという事も。
ただ、通り過ぎたゼットの横顔が、耐え難い想いに包まれていることだけは理解できていた。
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