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10話──宿敵2

「ッ!」


 バブベアーの突進を避け、すれ違いざまにスパイスピアの毒針を振るおうとした。


「速っ……」


 しかし、想像以上の速度に、その姿を見て避けることで精一杯。


 バブベアーは木々の隙間を流れるように走り、弧を描いて再びこちらへ向かってくる。


「くそ……」


 今度は、肉を切らせて骨を切る。そんなつもりで立ち向かった。


 先ほどよりもギリギリで避ける。確実にその弛んだ皮を切り裂いてやる為に。


「はッ!」


 姿勢高めに待機してギリギリまで引き付け、腕を犠牲にする気持ちで振るった。


 親しい友人くらいの距離まで耐え、急激に体を脱力させて視界の端へ逃げる。なにがあっても落とさないようにしっかり毒針を握り締め、爪による切り裂き攻撃が当たったとしても前腕でガードできる位置に。


「──!」


「ッ!耐えた!」


 一瞬の攻防だったが、ノーダメージで潜り抜けることに成功した。


 そして、握り締めた手には確かな感覚があり、


「──!」


 バブベアーは痛みに喘ぎ、更に速度を上げて猛追してくる。


 でも、もう覚悟を決め終えた後。そしてそれも今乗り越えた。


「……は!」


 更にギリギリを攻め、さっきよりも深く切り裂く。


 日和れば、僅かな薄皮か、体毛しか切れなくなってしまう。最悪当たらない。


 それは避けなければいけない。スタミナ勝負になってしまえば負けるのはこっち。時間をかければかけるほど不利になるのは人間だ。


 だから、自分にできる限界の速攻で、勝負を決める。


 そうと決まれば、牽制する時間も惜しい。


 俺はとにかく、我武者羅に駆け出した。


 それから、何度も何度も、切って距離取って、切って距離取って……


 腕を引っ掻かれて血が流れ、突進食らって吹っ飛ばされて……


 そんな攻防の最中でも、移動することは欠かさない。


 自然を利用する力はバブベアーに優位がある。縄張りと同じように適応されてあらゆる環境を武器にされたらひとたまりもない。


 スタミナ勝負にはしたくないが、移動の為に若干のロスが生まれる。


 こんな戦い方しかできない自分の弱さが悔しかった。


「はぁ……はぁ……」


 向かい合うバブベアーも、呼吸が荒くなっているように見える。


 その体からは僅かな出血。


 それが、これまでの攻防で無数に付けた切り傷から滲み出していた。


 滲んだ血液は少しずつ塊となり、皮膚の上で雫状に変化。更にそれらが僅かに触れ合い結合。重力に耐えられなくなったそれは、皮膚の上を流れて体毛を伝う。


 毛先から滴り落ちる血液が見えた。


「いける!」


 勝てる。このまま、今の工程を繰り返せばバブベアーを殺せる。


 そう確信した。


 だが、何故だろうか。


 胸騒ぎがする。なにか重大なことを見逃している。そんな気がして止まない。


 バブベアーと向かい合って命のやり取りをしているというのに、思考が曇るような不安に駆られていた。


「……ッ」


 俺は咄嗟に、バブベアーから距離を取った。


 確かな一撃を与えられるチャンスだった。だが、それを悩むことなく手放すくらいに、心臓が警鐘を鳴らしていた。


「いまのは……笑ったのか?」


 奴の懐に入る直前、僅かに口角が上がっているように見えたのだ。


 ……気のせい。その一言で片づけるのは簡単だ。


 まさか、バブベアーが薄ら笑いするなんてありえない。


 奇妙で珍妙な生物ではあるが、人間ほどの知能は無い。動物界の中だと上位に位置する頭の良さだけど、そこまでだ。この世界に来てから学んだことでも、バブベアーが豊かな感情を持ち、それを表に曝け出すような生物だなんて聞いたことない。


 喜怒哀楽を、人間には区別できない鳴き声で表すだけ。愉快だと思ったり、軽蔑や嘲笑ができるようなところまで辿り着いていない。


「鳴き声……」


 そういえば、こいつが最後に鳴き声を上げたのはいつだ?


 いつの間にか、どれだけ傷つけても、逆に攻撃を食らっても、奴はなんのリアクションも取っていなかった気がする。


「……」


 その事に気付いた時、底知れぬ恐怖を感じた。


「──」


 俺の恐怖心を見抜いたのかはわからない。


 だが、あいつは俺の目を見て、再び口角を上げた気がした。


「……ッ!」


 俺はすぐに判断を下した。


 このまま同じ工程を繰り返すことは駄目な気がした。重大ななにかを見逃していると、なんの理由も無く決めつけることにした。


 失敗してからでは遅い。であるならば、徒労に終わろうとも転換すべきだ。


「……ふぅ」


 狙いは心臓。急所を一突きに決着を付ける。


 分厚い皮膚も、弛んでいるせいで下半身の方に集まっているから心臓辺りはそこまで厚くない。


 それに、散々攻撃してきたおかげかバブベアーの動きは鈍りつつある。


 やれる。やるしかない。


 だから走った。今までのような待ちでカウンターを狙うやり方ではなく、こちらから攻める。


 ……それが、失敗だった。


 時間がかかっていたこと。疲労が溜まっていたこと。ジクジクと痛む傷口。バブベアーに感じていた恐怖。


 それらのせいで、下してはいけない判断をしてしまった。

思い付いたばかりでまだ構成練ってる最中なので更新は遅いですが、評価ブクマ感想で速度バフが付くので良ければお願いします!




ちょっとでも続きが気になれば!是非!!

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