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かの在り方を知る冬焔9

https://twitter.com/Wakatsukimonaka



 二人がインターレンスヴァイオリン工房に着くと、その軒先で誰かが座っている。見るとその人はカロンの父だった。

 父親は険しい顔をして貧乏ゆすりしていたが、フユとレテシアを見つけると張りつめていた表情を緩めた。


 「ああ、二人も来たのか」

 「はい、えっと…」

 「激しく言い合っちまってな。カロンにちょっと頭冷やしてこいって言われたんだよ」

 「それでここにいたんですね、おじさま」

 「全くアロンのやつ、黙って受け入れればいいのによ。あいつに何の損があるんだか」


 アロンの父親は再び眉間にしわを寄せて愚痴をこぼす。それを見てレテシアはきょとんとしたが、フユは真剣に言葉を返した。


 「アロンさん、すごいヴァイオリンを作るお父さんが誇りだって言ってました。だから譲れないんじゃ…」

 「あいつは本当にそう思ってんだろう。だからあんなに嫌がるんだ」

 「わかってたんですか」

 「あんだけ言われたらそりゃ分かる。でも、な」


 父は息を大きく吐いて空を見上げた。澄み渡った青空、遠くからは管弦楽器の音色が聞こえてくる。今日もどこかで王立管弦楽団は演奏をしているようだった。


 「俺にとっちゃヴァイオリンなんてどうでもいいんだよ」

 「え?」

 「確かに職人始めたころは情熱を持ってたよ。それこそ誇りだった。でも今じゃただの金稼ぎの道具だ」

 「あれだけ表彰されたのに?」

 「ああ。…アロンが俺に憧れてくれてるのも分かる。ずっと目指してたものが消えちまうのは悲しいことも分かる。だとしても、俺にも今の誇りと魂がある。だから譲れないんだ」


 そう言って父はゆっくりと立ち上がった。そのまま工房の中に入っていこうとする。


 「そろそろ戻るよ。カロンも手を焼いてるだろう」

 「…」

 「ありがとう、皆のような人たちがいて、カロンも、俺も幸せだよ」





 「どうして理解しない!!?お前の為だと!!」

 「俺なんかいいだろ!!もったいないと思わないのか!!」

 「そんなもんは俺が決める!!」

 「二人とも落ち着いて!!」


 再び話し合いが始まったが、またもや激しい口論になってしまった。レテシアはやれやれ、といった顔で様子を見ている。

 アロンも父も一歩も譲らない。お互いに胸倉をつかみ合い、今にも殴り合いが始まりそうだ。

 カロンとペントが一旦落ち着かせようと頑張るが、止まる気配はなかった。これはいけないと思ったフユは二人の間に無理やり割って入ろうとするが、そこで異変に気が付く。

 

 大きな鈍い音が響いていたのだ。音はだんだんと大きくなりながら近づいてくる。それに伴って地響きも伝わってきた。

 何か来ている?フユは工房の外に出て周りを確認する。皆もそれに気づいたのか、全員外に出てきて周りを見渡していた。

 どこから来ているのか、工房から少し離れて探してみても原因らしいものは見つからない。しかし何かは確実に近づいてきている。

 地響きと音がピークに達した瞬間、近くの建物を突き破ってそれは出てきた。


 それは大人3人分の背を持つ騎士だった。真っ黒な全身鎧を着ており、兜を被って顔は見えない。鎧の隙間からは黒いもやのようなものがこぼれ出てきている。

 明らかに人ではない。黒い巨大な騎士は、両手に持った大剣を振り回しながら、前にただ猛進していた。


 「なんだ、この、化け物…」

 「みんな離れて、離れて!」


 アロン達は黒騎士を見て唖然としている。フユは騎士が巨大な武器を振り回しているのを見て、全員に黒騎士から離れるように伝えた。

 黒騎士が剣を振るう度、それは建物や石畳を破壊していた。破壊された残骸や瓦礫が飛び散り、フユたちの方にも飛んできている。


 フユは慌てて魔力タールを出し、傘のように自分たちを覆った。瓦礫は黒いベールに当たり、砕けて地面に落ちる。

 黒騎士は今なお暴れている。手が付けられない、そうフユが思った時、突如黒騎士は動きを止めた。そのままアレンドゥヴェスティア上層の方へ向き直して、叫んだ。


 『アレンドゥヴェスティアアアアアアアアァァァァァァァアアアッッッッッッッ!!!!!!!!!!』


 あらゆるものを吹き飛ばすような絶叫の後、黒騎士は再び進み始める。


 「ッ!!!!やめろ、そっちは!!!!」


 黒騎士が驀進するのを見てアロンが叫ぶ。進む先にはインターレンスヴァイオリン工房があったのだ。

 アロンは魔力タールの傘をくぐって黒騎士の方へ駆け出そうとする。それを見たフユとペントが慌ててアロンを止めた。


 「ちょっ、ちょっと!!」

 「駄目です!危ないですよ!」

 「放せ!!工房が!!!父さんの工房が!!!!!!」


 アロンはもがいて黒騎士の方へ向かおうとする。そうしている間にも黒騎士は破壊しながら前進し、遂に工房の前にたどり着いた。

 黒騎士が剣をふるう。それを見てアロンは絶叫した。


 「やめろおおおおおおおおおおおおおおおっっっっっっっっ!!!!!!!!!」


 その叫びも虚しく、黒騎士の剣は工房の建物を砕いた。





 黒騎士が工房を破壊していく。あまりの膂力に建物はおろか、中のものも一切形が残らない。

 アロンは茫然としてその様子を見ていた。フユも飛んでくる破片からみんなを守るのに精いっぱいだ。


 黒騎士は工房を破壊し終え、その先の建物も壊し始める。まるでアレンドゥヴェスティアの上層への道を作っているようだ。通った後には何も残っていない。

 そのまま巨人が暴虐の限りを尽くさんとしていた時、突如その背に雷が突き刺さった。


 見ると馬に乗った三騎の騎士が駆けてきていた。三人のうちの一人、杖を持った騎士がその錫杖をふるうと、瞬く間に電気が渦巻き、雷が放たれた。

 雷は黒騎士に向かって飛来し、その胴に当たって爆発を起こす。黒騎士はそれにひるむが、姿勢を何とか保って騎士達に向き直した。そして大剣を振りかぶり、斬りかかる。

 素早く反応した騎士達は手綱を引いて馬を操り、それをかわした。その勢いのままに馬から飛び降りて、武器を構えた。


 黒騎士が剣を横なぎにふるう。それを大きな盾を持った騎士が受け止めた。騎士の何倍もの大きさをもつ剣、そして巨人の一撃だったが、騎士の体は一切揺るがない。

 剣を受け止められ、黒騎士の体が一瞬止まる。その隙を見逃さなかった杖の騎士はまた雷を放つ。今度の一撃は巨人の足に当たり、黒騎士は大きく転倒した。

 そこへ三人目の騎士が飛び出す。片手に直剣を構えた騎士は何かを呟いて、もう片方の手を剣にかざす。すると剣が光始め、まるでもう一つの太陽のように辺りを照らした。

 転んだ黒騎士はまだ動けない。剣を持った騎士は大きく踏み込み、その巨体に向かって光の一撃を放った。

 その斬撃は黒騎士の鎧を止まることなく切り裂き、黒騎士の体を真っ二つに分けたのだった。


 『ああアアアアあああああアアアアアアアアアアアアアッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!』


 黒騎士の断末魔が響き渡る。斬られた断面からは黒いもやが勢いよくあふれ出し、そのまま巨体は黒い粒子となって溶けていった。

 フユは魔力タールの傘を霧散させた。皆は眼前で起こった出来事に声も出ないようだった。

 騎士たちはそれぞれの武器を収め、あたりの確認を行う。やがて他にも騎士たちがやってきた。あたりの瓦礫をどかして怪我人がいないか見始める。

 彼らは同じ鎧を身に着けており、その胸にはユスリド王国の紋章が刻まれていた。

 それを見たレテシアが呟く。


 「第三騎士団…!」


 彼らはユスリド王国に仕え、アレンドゥヴェスティアの平穏を守る、誇り高き騎士団だった。





 夕日がもうすぐ沈むころ、騎士団はようやく怪我人の手当てや捜索を終えたようだった。フユたちは工房だった場所の前でこれからのことを思索していたが、アロンの父は声を大きくして皆に語り掛けた。


 「こうなっちまったもんはしょうがねぇ。どこかの宿屋にでも泊まるかな」

 「お父さん…」

 「カロンは心配すんな。金ならいくらでも預けてある、家なんてまた建てれる。学費も考えなくていい」

 「…」

 「アロンの職人道具だけ何とかしないとな、馴染みの道具職人に相談しておくか」


 アロンは工房の跡の方を向いて俯いていた。何かを喋ることなく、ただただ黙っている。

 父はそんなアロンの腕を引っ張って無理に立たせた。


 「みんなも門限までに帰れよ。俺たちは宿屋を探してくる」

 「あっ、お父さん!」

 「じゃあな、気をつけろよ」


 そうして父はアロンを支えてどこかへ歩いていく。

 残された4人は何も言えず、ただ歩いていくのを見ているだけしかできなかった。





 アロンは絶望していた。

 父の工房がなくなってしまった。数々の名器、素晴らしいヴァイオリンを生み出したあの場所はもうない。


 アロンは、自身の肩を支える父の顔を見る。その表情は家がなくなってしまったとは思えないほど、涼しいものだった。

 それを見てアロンは、父のヴァイオリンへの情熱を察してしまった。

 もう父がヴァイオリンを作ることはないのだ。

 アロンは深く俯いた。心に大きな穴が開いてしまっていた。


 そうして街灯に照らされた道を連れられている時、何か声が聞こえてくる。


 『お前の二番目に大事なものを寄越せ。そうすれば一番目に大事なものを好きにさせてやる』


 アロンは驚いて声の先を見る。しかし声が聞こえてきた方には誰もおらず、ただ暗い道が続いているばかりだった。

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