かの在り方を知る冬焔4
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次の日。授業を終えた後、カロンとペントは再びインターレンスヴァイオリン工房まで向かっていった。それを校門で見届けたフユは別の方向へと進む。
首都アレンドゥヴェスティアの中層、その西側にフユは向かっていた。忙しそうに働く人々の間を抜けながらしばらく歩いていると、やがてレンガ造りの大きなドーム屋根の建物が見えてくる。そこには大きな剣や弓を携えた人々が次々と入っていき、また出ていっていた。傷だらけになりながらも生き生きと動く彼らには、明るい未来への希望が感じられる。
フユもドーム屋根の建物に入る。建物の中は二階の一部が吹き抜けとなっており、かなりの広さがあるように思えた。見ると一階の受付には武器を持った多くの人が並び、自分の番を今か今かと待っている。また別の場所のテーブルには地図が広げられ、それを囲んだ男たちが話し合っていた。
ここはギルドハウス。魔物の討伐など危険な依頼が持ち込まれ、それを強者たちに紹介するための場所だ。
フユは階段を上って二階へと進み、「第二受付」と書かれた扉を開いた。中にはカウンターがあり確かに受付のようだったが、大勢の人が並んでいた一階のものとは違い随分と閑散としていた。
カウンターにいた、顎下ほどの長さで髪を切り揃えた若い女性がフユに気づくと、彼に声を掛ける。
「こんにちは、お待ちしていました。」
「ああ、はい。明日の打ち合わせに来ました。」
「ええ、では始めましょうか。」
女性はフユに細かな文字が書き込まれた書類を見せながら話す。
「確認ですが、依頼はアレンドゥヴェスティア西の大街道の近辺に現れたヒットゥリコーン一頭の討伐です。通常のものよりも大きく、また荒っぽい気性のようで既に死者、怪我人も出ています。」
「今更質問なんですけど、大街道に出てきた魔物なら騎士団が対処するんじゃないですか?しかもこんな首都に近い場所に出てきたやつ…。」
「どうやら騎士団も忙しいらしいです。建国記念祭が近いからか知らないですけど、おかげでギルドにたくさん依頼が舞い込んできてますよ。」
「はぁ…。」
「話を戻しますが、明朝より私含めたギルド職員3名が補助に当たります。職員が遠方より目標を観測し、周辺の安全管理を行いますので、フユさんは時を見て討伐を遂行していただければと。」
「随分な待遇ですね。」
「それだけ危険な相手ということです。他に質問等はありますか?」
女性の言葉にフユは首を横に振る。それを見た女性は頷いて、大きな判子を書類にどんっ、と押した。
そういえば、と彼女は言葉をつづける。
「西の大街道に関する依頼がどんどん来ていますよ。今までにないくらい。」
「それはなんで?」
「…さぁ?こればっかりは理由は分からないですね。でもちょっと異常です。」
「異常?」
「取るに足らないような小さい依頼まで大量に来ているんです。ラッドラット退治から大街道の草抜きまで。」
ラッドラットは子犬ほどの大きさのネズミの魔物だ。一応魔物だが、普通の人でもほうき一本で追い払える。こんなものの為に金を払うのは確かに普通じゃない。まして草抜きなんてギルドにわざわざ頼まなくていい。
「まあでも、フユさんには都合良いかもですね。」
「…。」
「学費稼ぐチャンスですよ。そんなすぐ終わりそうな依頼なら授業終わった後でもできるんじゃないですか?」
「…そうかもしれないですね。」
フユの苦虫を噛み潰したような顔を見ずに、女性は二つのものをカウンターに乗せた。一つは小袋。手のひらに収まりそうな大きさだが、確かな重みを感じられる。もう一つは小さな小さな紙きれだった。爪ほどの大きさのそれは吹けば飛んでいきそうだ。
「依頼の前金です。あと、明日はこれで連絡を行います。」
ギルドハウスを後にしたフユは必要なものを買い揃えながら学院への帰路を歩く。非常時の薬に、ナイフ、砥ぎ石…。不足物は無いかと確認しながら進んでいると、美しい管弦楽器の旋律が聞こえてきた。
気になって見に行ってみると、王国管弦楽団がハーモニーを奏でながら中層の大通りを行進していた。その優雅な調べに思わずフユも魅了されていると、その道の端に見知った顔がいることに気づく。
そこには管弦楽団を眺めながら涙をこぼすアロンがいた。