表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/11

かの在り方を知る冬焔3

https://x.com/Wakatsukimonaka

 「…いい機会だ。一つ決めたことがあるから聞いてくれないか?」


 カロンの父が神妙な顔で口を開く。カロンは久しく見ていなかった父の表情を見て、背筋が強張った。


 「職人を引退しようと思うんだ。」





 首都アレンドゥヴェスティアの中層の一角、なんてことの無いバーがそこにあった。まだ陽は沈んでいないが、仕事を終えた人がぽつりぽつりと集まり酒を飲み始める。

 顔も名前も知らないが、関係ない。この都市の血液である彼らは同調し、共鳴し、愚痴を吐き合える。


 「何が親方だ。歳喰っただけだろうが。」

 「そこで俺が言ったんだ。お前の馬鹿よりすげぇことを昔の俺はやってんだってな。」

 「あぁ、帰らねぇと。…いやもう少し飲むか。」


 「そういや聞いたか?今年も管弦楽団が巡るんだとよ。」

 「毎年毎年ご苦労なことだよな。…下層にも行くのか?」

 「そりゃ行くだろ。今年は何百個の石が投げられるかな。」

 「スラムの連中には音楽よりパンをやった方がいいだろうよ。」


 夜の帳がもうすぐ下りる。太陽に変わり、ランプの灯がこの都市を照らす。まだ一日は終わらない。





 「なんでだよ!?どっ、どうしてだよ!!??」


 父の突然の言葉にアロンが叫ぶ。そんな彼を父はじっと見つめていた。


 「理由はなんでなんだよ!?…まさか体がどこか悪いのか?」

 「いいや、まだガタは来ちゃいない。ヴァイオリンを作ろうと思えば作れるさ。」

 「じゃあなんで!?金か!?」

 「それもない。むしろ十二分すぎるほど稼いでる。…ああカロンは心配しなくていい。学院には何の問題もなく通える。どんな問題が起こってもな。」


 理由を答えてくれない父にアロンの顔はますます歪んでいく。父は息をすっと吐いてアロンに向き直した。


 「…アロン、お前いい職人になりたいか?」

 「そりゃなりたいよ!父さんみたいに!!」

 「そうだと、思った。だからだよ。」

 「…どういう意味?」

 「お前に技術を、道を教えたい。俺がボケちまうその前にな。」


 父の言葉にアロンは酷く驚いた。父が自分の為に?ヴァイオリンを作ることを辞めてまで?

 アロンは一瞬、目の前の人が父だとは信じられなかった。


 「…ヴァイオリンを作りながらでいい。俺の為にそこまでする必要はない。」

 「それじゃダメだ。そんな甘い道じゃない。お前にとっても、俺にとっても。」

 「それこそダメなんだよ!職人を辞めるなんて!!!」


 叫び、睨むアレンに父は細く息をついた。若干の疲労を覚えながらアロンから視線を外す。

 カロンやフユ達は酷く困惑し、言葉も出せていなかった。


 「お互い、落ち着いてからもう一度話そう。…すまんな、皆は門限が近いだろう。帰りなさい。」





 日がランプに移りかえる中、4人は学院に向かって歩いていた。先ほどの出来事からか、誰も口を開くことができない。学院の門が見え始めたころ、カロンがようやく口を開いた。


 「…明日の放課後、もう一回家に帰ってみる。このままじゃダメだもん。」

 「大丈夫か?」

 「そうですよ、カロンさんもショックに感じていたのでは?」

 「確かに驚いたけど…、でも家族のことだから。自分から動きたいよ。」

 「そうですか…。よければ、僕も一緒に行きますよ。」

 「本当?ありがとう!」


 フユとペントの二人がカロンを心配し、ペントが付き添いの提案をした。それを聞いてカロンは少し安堵の表情を見せる。


 「…ごめん、俺は無理だ。明後日の狩りの準備があるから。」

 「大丈夫、学費のことがあるもんね。気持ちだけでもすごい嬉しいよ。」


 付き添えないことにフユは申し訳なさそうにしていたが、カロンは消沈することなくむしろ笑顔で応える。そしてようやくレテシアが口を開いた。


 「私もちょっと行かないかな。」

 「全然いいよ。むしろありがとう。…改めてごめんね、こんなことになっちゃって。」

 「気にしないでください。一番しんどいのはカロンさん達なんですから。」

 「うん、ありがとう。頑張るね、私。」


 そういって4人は門をくぐっていった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ