かの在り方を知る冬焔2
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「誕生日?」
「そう、私のお父さんのね。」
授業終わりにオレンジ色の髪の少女、カロンがそう切り出す。次の授業の教室に行こうと生徒たちが準備する中、4人は話を弾ませていた。
「だから今日授業が終わったら実家に行こうかと思ってて、できたらみんなも来てほしいんだ。たくさんお祝いしてあげたいし。」
「いいよ!おじさまのところにはたまに遊びに行かせてもらってるもの!」
「僕もいいですよ。フユさんは?」
「別にいいけど…。外泊届は?」
「ああ、大丈夫!プレゼントとおめでとうだけ言って帰るから、門限までには帰ってくるよ。」
寮の門限を気にするフユにカロンが答える。放課後にカロンの家に行くことを決めた4人は、談笑をつづけながら次の教室に向かっていった。
放課後、約束の通り4人は国立オルトニア学院の門を出た。首都アレンドゥヴェスティアの中域にあるその敷地を出れば、すぐに活気あふれる都の姿が見えてくる。夕刻に差し掛かるころではあるが、市場には人と物があふれ多くの声が響いていた。馬車が道をひっきりなしに通り、石で舗装された大通りを揺らしている。
どのような夜でさえ都の光を塗りつぶすことはできない、ユスリド建国の時から在り続けた絶対都市は、人を血として今日も生きていた。
そんな都市をしばらく歩けば、古びていながらも威厳と歴史を感じさせる工房が見えてきた。レンガ造りの壁には色褪せた看板が掛けられている。
『インターレンスヴァイオリン工房』。都市にどっしりと根を下ろすその工房の扉を、カロンは慣れた手つきで開けた。
「お父さん帰ってきたよ!お誕生日おめでとう!」
工房の中の壁には所狭しと職人道具が掛けられ、大きな作業机には出来かけのヴァイオリンが置かれている。そんな部屋の中心に座っていた初老の男性は、にこやかに4人を迎え入れる。
「おお、カロン。それに嬢ちゃんたち。わざわざ来てくれたんかい。」
「はい、おじさま。お誕生日おめでとうございます!」
「おめでとうございます。」
「…おめでとうございます。」
「はは、ありがとう。これは豪勢なことだなぁ。」
「これ!プレゼント!」
祝福の言葉を伝える少年たちにカロンの父は感謝を告げた。次にカロンが小包を手渡す。
「毎年ありがとな。今年は何だ?」
「ふふん。見てみて!」
「こいつは…、帽子か!こいつは良い、ハゲを隠せる。」
「おじさまったら!まだ気にするほどじゃないでしょう!」
「いや…、もう結構…。」
一同が話に花を咲かせていると工房の奥から若い男性が出てくる。エプロンを着ており、オレンジ色の短髪にはややニスが付いていた。
「カロン、みんな。来ていたんだな。」
「兄さん!お父さんの誕生日だからね!」
「わざわざありがとうな。茶を出そうか。」
「あっ、寮の門限までには帰るのでお気遣いなく!」
カロンの兄が客人に茶を出そうとしたのを、茶髪のガタイの良い少年、ペントが丁寧に断った。そうか、と返事を返したカロンの兄は、顔いっぱいに喜びを溢れさせて話をつづけた。
「そうだ、聞いてくれ!父さんまた宰相様から褒章を頂けることになったんだ!」
「ええ!また!それはすごいですね!」
「もう王国管弦楽団に何本もヴァイオリンを下ろしてるしな!やっぱり父さんはすげぇよ!」
まるで自分のことのように喜び興奮する息子に父は苦笑いを返す。
「その辺にしてくれ。アロン、お前もいい腕を持ち始めただろう?」
「父さんにはかなわないさ。俺なんてまだまだだ。」
父の言葉にカロンの兄、アロンは苦しい表情で返す。それを優しい眼で見守る父は、一つ咳ばらいをしてから真剣な顔をして口を開いた。
「…いい機会だ。一つ決めたことがあるから聞いてくれないか?」
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