かの在り方を知る冬焔1
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ひどく冷え込む夜。黒く染まった空には何も見えず、ただ雨音だけが響いていた。
森の中を走る馬に乗せられたまだ幼い少年は、手綱を握る青年の腰に必死に掴まっている。非力ながらもその握る手の強さに気づいた青年は、せめてその不安を振り払えるようにと馬の脚を速めた。
どれだけ走ったのだろうか、ふとした時永遠に続きそうな雨が止んだ。少し心に余裕の生まれた少年は、振り落とされないよう青年にしっかり掴まりながら後ろを振り向く。
遠くに見える大きな街、大国ユスリド王国が首都アレンドゥヴェスティアは夜にも関わらず煌々と街に光を宿している。
暗い森の中、思わず顔を背けてしまいそうな光を見てしまった彼は、静かに涙をこぼしていた。
暖かい日の光に包まれ、中庭の木に拵えられたハンモックで寝ていた黒髪の少年に青色の短髪の少女が近づく。どこか格式のようなものを感じる白色の制服に身を包んだ彼女は、鮮やかな青色の髪を短く切りそろえ道行く人が皆振り向くような美貌を持っていた。
少女は少年の眠るハンモックの端をつかむと、…一気にそれをひっくり返した!
当然少年はそれに合わせてハンモックから落ちていき、重たい音と共に地面に激突した。
「いったああああ!!」
「いつまで寝てんの!もう授業始まるよ!…ていうかさっきの授業さぼったでしょ!」
「い、いやさぼったっていうか…。昨日ちょっと依頼が長引いたせいで、クタクタだったっていうか…。」
「つまり?」
「興味ない科目だし、休養を優先しようかと。」
「それをさぼったっていうんでしょうが!!!」
少女が少年に対しぷりぷりと怒っていると、中庭に二人の生徒が入ってきた。一人は茶髪のガタイが良いながらもオドオドとした印象を受ける男で、もう一人は鮮やかなオレンジ色の編まれた髪を持つ笑顔の映える活発そうな少女だ。
「おーい、レテシアさん。フユ見つけましたか?」
「あっ、フユいるね。まーたレテシアにお説教もらってた?」
「もらってた。それで何で俺を探してたんだお前ら…。別に俺がさぼっててもお前らの成績が下がるわけでもないだろ。」
フユと呼ばれた少年がため息交じりに3人に話す。それを聞いて青髪の少女、レテシアはまた眉間にしわを寄せて叱り出した。
「君がいないと仲のいい私たちまで何か言われるの!この前もボンド先生に『お前らよく一緒にいるんだから、あいつの耳を引っ張って連れてこい!』って言われたんだから!」
「マジかよ…。」
フユは想像したのか耳を押さえながら顔をしかめる。その様子が面白かったのか、オレンジの髪の少女は笑いながら話を続ける。
「でもレテシアもフユと一緒に授業受けたいってさー。」
「へあぁっ!!??」
「あー、そらしつこいわけだ。」
「へあぁああああっっつ!!!???別にそんなんじゃないし!!何言ってんのカロン!!フユも!!!」
「あはは!でもそろそろ本当に授業始まっちゃいますよ。フユさんも観念して、皆で教室行きましょう」
「りょーかい。はぁ、行くかー」
「ちょっと待って!本当に待って!!!」
4人は話を弾ませながら校舎の中に入っていく。
ここは国立オルトニア学院。アレンドゥヴェスティアに三つある国立学院のうちの一つ。ユスリド王国の未来を担う若者を育てる学校で、多くの学生が互いに切磋琢磨しながら学びを深めている。
そんな学校の校舎から飛び出した女生徒が一人。長い銀髪をたなびかせ、幼さの残る美しい顔を歪ませて走っている。
愛するものの危機を知った彼女は、何物にも代えられない誇りを失わないよう疾駆していた。
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