5 川中と美月
昨日、部活が終わって、私が一人で見回りをしていると、昨日の朝、服装を注意した三年生三人が、部室棟の裏で屯していた。
そういえば、風紀委員の三年生から聞いた事がある。
部活を引退して、勉強に集中出来ていない生徒が、制服を着たまま学校外で喫煙をしていると。
それが今では、学校内でも喫煙する様になったらしい。
どの生徒かまではわかっていないらしいが。
もしかして、この連中が……?
声を掛けると、連中は私に暴力を振るおうとした。
その時、秀哉が助けてくれた。
やっぱり秀哉は頼りになる。
昔からそうだ。
私は剣道の腕には多少自信があるが、基本臆病なんだ。
反対に、秀哉は冷静で、いつも私を助けてくれる。
私が秀哉を好きになるのも当然なんだ。
小さい頃から、秀哉に憧れていた。
臆病な私を、いつも励まして引っ張ってくれた。
そんな秀哉から告白されて、断るはずがない。
だけど、私はやっぱり臆病で。
みんなに知られて、私の弱いところを見られるのが怖かった。
秀哉はそんな私の気持ちに気付いたんだろう。
私が付き合っているのを内緒にしようと提案すると、何の迷いもなく了承した。
甘えているな、私は。
わかってはいるんだ、でも……。
「高宮さーーーーん!!川中先輩が呼んでるよーーーー!!」
川中先輩?剣道部の元主将だった人だ。
生徒会長でもある。
何の用だろう?
次の大会の事とかだろうか?
「ふふっ、あとは片付けだけだから、行ってあげなよー」
告白か何かだと勘違いしてるな?
「お前たちが思っているような事ではないと思うぞ?」
「まあまあ、とにかく元主将を待たせちゃまずいでしょ?」
「わかったわかった、行ってくるよ」
「行ってらっしゃーい!」
まったく……。
私には秀哉が居るっていうんだ。
まあ、告白ではないだろうが……。
「やあ、遅かったね、高宮」
「あ、すいません、まだ部活中でしたので」
「ああ、いいんだ。それより大事な話があるんだよ」
「はあ、大事な話、ですか?」
「そうだ。単刀直入に言おう。僕と付き合って欲しい」
「ええ?!!」
ホントに告白だったのか……。
まあ、でも……私には秀哉がいるからな。
「申し訳ないんですけど、お断りします」
「それは……この彼が原因かい?」
「!!!!!!」
これは……私と秀哉が抱き合っている……。
昨日の!!
どうして?
どうして川中先輩がこの写真を?!!!
「あ……そ、それ」
「これかい?これはね?親切な三人組が僕にくれたんだよ」
「は……?な、何故その連中が……?」
「なんでも、君の事が気に入らないって話をしているのを偶然聞いてね?僕は彼らの弱みを知っているんだよ。ちょっとお話したら、この写真をくれたんだ」
「……そうですか。それでその写真が何だっていうんです?」
「強気だねえ。ところで、この彼は君の恋人?それともただの友達?」
「……彼氏です。なので、川中先輩とはお付き合いできません」
「まあ、そう急がずに。で、この彼、佐古君っていったかな?空手、強いんだねえ?」
「な、何が言いたいんですか?」
「今年も全国大会に出て活躍したんだって?凄いね?また大会に出られるといいけどねえ?」
「な、どういうことですか?!!」
「キミも、だよ。風紀委員さん。鬼の風紀委員ともあろう人が、学校でこれはねえ……」
「べ、別にやましい事はしてません!!」
「だとしても、だよ。告発するのが僕だったら、どうかな?」
「!!ぐっ、ひ、卑怯者……」
「堅物だと思われていた鬼の風紀委員が、こんなことしてたらスキャンダルだよねえ?空手部の彼も、庇いきれないんじゃないかな?」
「……どうしろっていうんですか」
「だから、言ってるだろう?僕と付き合ってくれって。君が入部してきてからずっと僕は君の事が好きだったんだ」
「くっ……」
「まあ、今日は彼とよく話し合って決めなよ。断ったらどうなるか、よく考えるといいよ」
「……」
そう言って、川中先輩は去って行った。
あんな人だとは思わなかった……。
「美月!!!!!」
ああ、秀哉……。
秀哉……私はどうすれば……。