4 脅迫
三年生との揉め事があってから、俺は不安だった。
今まで、美月があからさまに悪意を向けられたことが無かったからだ。
大体は美月が言う事だったら、皆が受け入れていた。
だからこそ、風紀委員を押し付けられたんだ。
三年の先輩も同じく、美月のいう事に逆らう事は無かった。
しかし、昨日の連中は美月に手を出そうとしていた。
油断はできない。
だが、学校では常に一緒に居る事は出来ない。
登下校は一緒に居られるが、学校の中では関係を隠しているため、難しい。
どうするか……。
「どうした?浮かない顔をして」
「どうしたって……心配なんだよ、美月が」
「うん?ああ、昨日の連中の事か?」
「ああ、アイツら、このままで終わりとは思えないんだよな」
「……だとしても、学校の中で手は出してこないだろう?」
「昨日も学校の中だぞ?」
「そうだが、これからは一人での見周りは控えるよ」
「そうか……それなら……」
「それに一応、防犯ブザーも持ってきた」
「うーん、それなら大丈夫か?」
「大丈夫だろう、ヤツらにも進路がある、大事にはしたくないだろう」
「まあ……な」
どちらにしても、俺のやれる事は少ない。
美月に自衛してもらうしかない。
ヤツらも臆病であることを願おう。
何事もなく授業は終わった。
俺と美月はクラスが違うので、休み時間の度に美月の様子を見に行った。
放課後は、俺は空手部、美月は剣道部で活動する。
部活の間は大丈夫だろう。
危ないとすれば、剣道部の方がいつも早く終わるので、俺を待つ間、美月が一人になる時だな。
早めに上がらせてもらうか。
何か適当な理由をつけて。
そうしよう。
剣道部が終わる時間は大体ならわかる。
その時間に合わせて、美月を一人にしないようにすれば、大丈夫だろう。
部活へと向かう美月に声を掛ける。
「美月、俺、今日早めに上がるから、部室で待っててくれないか?」
「え?いいのか?」
「ああ、ほんの少しだけ早く上がらせてもらうだけだからな」
「そ、そうか?なんか悪いな」
「気にすんな、俺が心配なだけだ」
「あ、ああ。ありがとう、秀哉」
「じゃあな、くれぐれも一人になるなよ?」
「わかってる、頼りにしてるよ」
「おう、任せとけ」
よし、これで心配事は無くなった。
俺が一緒に居れば問題ない。
部活もいつも通りこなし、そろそろ剣道部が終わる時間だ。
「じゃあ、すいません、自分、用があるんで……」
「おう、そうだったな、お疲れ!」
「はい、お先です!」
顧問に挨拶をして、道場を後にする。
お!剣道部が帰り支度をしてるところか!
丁度良かったな。
あ、部室を閉めるところか。
あれ?美月は?
おかしい、いつもなら美月がカギを掛けるはずだ。
嫌な予感がする。
「あ、あのー、高宮、いません?」
「え?ああ、高宮さんだったら、ウチの元主将に呼び出されてたよ?」
「え?元主将?」
「あ、知らない?三年生で生徒会長でもあるんだけど」
「生徒会長?高宮に何の用で?」
「さあ?高宮さん、人気あるからねー、告白とかじゃないの?」
三年……?まさか?!!
「どこ行ったか分かります?」
「え?ええと、向かったのは体育館裏の方だったかな……?定番だよね?告白の!」
「ありがとう!!」
告白だったら問題はねえ!
けど、このタイミングだったらもしかしたら昨日の連中絡みかもしれねえ!!
くそっ!なんで呼び出しに応じたりしたんだよ!美月!!
必死で体育館に向かっていると、美月がこちらに向かって歩いてくる。
無事だったか?!!!
「美月!!!!」
「あ、秀哉……」
「無事か?!!」
「え、ああ、無事だよ……」
「呼び出しって、昨日の連中が関係あるのか?!」
「いや、まあ違う先輩だった……けど」
なんだ、昨日の連中じゃないのか……。
焦った……。
ん?ならどうして、美月はこんなに暗い顔してんだ?
「告白かなんかか?」
「そう……いや、違うか……」
「んん?どういう事だよ?」
「三年の生徒会長の川中太一先輩、いるだろ?まあ剣道部の元主将でもあるんだけどな」
「ああ、生徒会長ね……」
「そう、川中先輩から告白された」
「あ、ああ、でも断ったんだろ?」
「いや、それが……」
「え?断ってないのか?!」
「脅されたんだ、昨日私と秀哉が抱き合ってる写真を見せられて」