救世主は私です
よろしくお願いします。
「救世主を見つけ出せ? 」
ロアの部隊とロッソという年若い隊長の率いる部隊が、戦闘の事後処理をしていた。
ロッソは銀髪の綺麗な髪をした、しなやかな体つきの青年だ。しかし、隊長を任されるだけあって目つきは鋭い。
そもそも魔道士は魔道具を使えればいいので、そこまで鍛える必要はない。
ロアの筋肉はただの趣味だとロッソはよく言う。
ロッソは両手を大げさに広げた。彼はまるで役者のような大げさな振る舞いをよくする。
「ああ。今回も見ただろ。あのまばゆい光。素晴らしい。そして、とても目立つ。目立ちすぎる」
「国としては、放置するわけにもいかない、ということか」
「ここまで有名になってしまってはな。お偉方は表彰することにしたらしい」
「だから捕まえてこいと?」
「そう言うことだ」
「つまり協力してくれと言うことか」
ロッソは再び『そう言うことだ』と言って笑った。
ふと、ロッソは辺りをちょこまか動いているミーヤに目を留める。隊長たちの話を聞きたくて近寄っていたのだ。
「おい、小僧」
「小僧じゃないです! 小娘です!」
「なんでもいい、救世主の噂とか正体とか知らないか? 」
「はい! はい! それは私です」
目を輝かせてそう言うミーヤを、ロッソは大笑いした。
「そうか、お前か! 」
「そうです! 私です! 」
「じゃ、どうやったか教えてみろ。あの光はどうやって出す? 」
微塵も信じていないロッソはからかっているだけなのだが、信じてもらえたと思いこんでるミーヤは真剣だ。
「波長を合わせるのです。魔獣兵達にとっての反転魔法を使うことによって、その他のものには影響のない、魔獣兵特化型の光魔法がだせるのです。それには弓矢を使うのですが…」
「それなら、やってみろ」
思いの外真剣に話し出してしまったミーヤを、どこか怒ったような口調でロッソは促した。
「お前が救世主なんだろ? できるんだろ? やってみろ」
美しい魔法で、絶望的な状況を打開する救世主の存在にロッソ部隊長も惚れ込んでいるようだった。
その為、救世主を騙っているようなミーヤに対して腹を立てていたのだ。
それに対して、ロアは横で静かに話を聞いていた。
ミーヤは俯く。
「…できません。今は」
それを聞いてロッソは鼻で笑う。
「じょ、条件があるのです! 私が落ち着ける、安心できる場所からじゃなきゃだめなんです」
ロッソは、『はいはい』と言って話を打ち切った。
「こんなチビッコに対して大人気なかったな。救世主に憧れる気持ちはよくわかる。でもあまり大げさに騙ると救世主のファンに怒られるぞ」
その後、ロッソ部隊長は救世主の捜索を続けるとロアに告げたあと、部隊を撤収していった。
敵国からの攻撃は頻繁になっていた。
月に数回だった出現は、数日に一度、連日、そして今では日に何度も出現するようになっていた。
敵国との交渉チャンネルを探るも、いまだに有意義な展開にはならない。
そして、衝撃的な一報が入る。情報は同じく北方にある敵国と隣接する、東の国から。
東西に延びる敵国に、東の国もまた隣接していた。魔獣兵に同じく頭を悩ませていた東の国は、さらに東の国、北東の国といくつかの国と情報交換をしていた。
その一報とは、敵国はすでに滅んでいたということ。
北東の国の調査部隊によると、魔獣兵の研究で暴走事故が多発し、すでに自滅していたそうだ。そして今出現している魔獣兵は、その魔獣兵生成装置の暴走によって起こっているとのこと。
装置自体は北東の国原産の畜産生成装置を応用したもので、仕組みも解明されており、破壊は簡単だという。しかし、その装置がある場所から次々と魔獣兵が生み出されるので、誰も近寄れない状況になっていた。
魔獣兵がいつまでも湧いてくる。
倒しても倒しても終わらない。
ロア隊長も度々出撃し、沈静化して戻ってくるも、また湧いてくる。
魔獣兵生成装置の話を聞き、装置付近へ全部隊投入と言う大規模戦闘を国王が命じたのだ。
「キリがねえな」
ロアが汚れを袖で拭いながらそう言う。
「何とかしてくださいよ、隊長」
「泣き言を言うんじゃねえよ」
前線も徐々に後退し、補給部隊のミーヤも度々混戦に巻き込まれていた。
なんとかロアの補助もあり、武器の供給をする補給部隊と、負傷兵の治癒を行う衛生部隊を死守する。
「そうだ、ミーヤ。この前言っていたことをやってみろ」
「こ、この前言っていたことですか?」
魔獣兵からの投擲をはじき返しながら普段話のようにロアが話しかける。
「言ってたろ。弓矢に魔力を込めて放つって」
「い、言いましたけど! あれは! 落ち着いていられる状況が前提です。あ、安心できる安全な場所であることが大事なのです」
わたわたと投擲やら流れ弾などをはじき返しながら、落ち着きなくミーヤが返事をする。
「大丈夫だろ。俺が守ってやるよ」
ロアはそう、平然と言ってのけた。
確かに、ロアが守ってくれるのならば、安全が確保される。
ミーヤが返事をする前に、ロアが背後に回り、彼女を守る体勢に入った。
魔法剣を振るスペースが必要なため、密着とは言えなかったが、心なしか背中が温かくなった気がした。
「矢を番えろ」
緊張で落ち着くどころでは無いと初め思ったが、何度か深呼吸すると、理解した。
ロアの傍はミーヤにとって落ち着ける場所なのだと。安心できる場所なのだと。
そしてミーヤは矢を番え、放った。
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