隊長は動かない!
よろしくお願いします。
ミーヤの部隊の隊長ことロア隊長は優秀な戦績を叩き出すことで有名な隊長だった。
同時に、本人が動かないことでも知られていた。
「ロア隊長、働いてください!」
「隊長が出れば百人力なんですから。加勢してくださいよ!」
部下たちによく、そう叫ばれていた。
「俺が出るとお前らの仕事がなくなるだろ。」
皮肉なのか本気なのかわからない言葉を返す。
そして、
「ボスっていうのは、後ろで構えて良い結果を出すのが仕事だ。俺が前線出たら状況が見られなくなるだろ。なに、いざという時は助けてやる。」
と、口角だけ上げて笑いながら言う。
ボスは後ろで構えているだけでいい。
むしろ何もしてないように見える方が良い隊長。
結果的に良い成績を出していることが重要だ。
それが彼の持論だった。
たしかに、良い成績を出しているためそれ以上は強く言えない。そして、部下たちもなんだかんだ居心地の良い部隊に満足していたのでそれ以上は不満を言わなかった。
それに、以前はいざという時に助けに入って、圧倒的な戦力で戦況をひっくり返していた。彼は魔法を使うセンスが良く、不利な状況でも巧みに魔法を操り、魔獣兵を駆逐した。
それによって不満も減っていたが、今では謎の救世主にその立場を奪われている。そのため、本当にほぼ何もしない人になっていた。
しかし、ロアは究極の結果主義者だった。
救世主の正体が誰であろうと、構わなかったし、自分の評価がどうであろうと、気にも留めなかった。結果的にできる限り無傷で勝利を収められれば、その他のことは些事だと考えていた。
「隊長、また魔獣兵が国境に出現しました!」
「どこだ。」
「インガス地帯です!」
「全員準備はできてるな。迎撃するぞ。」
魔獣兵。
それは、隣国から送り込まれる、得体の知れない生き物だった。おそらく家畜を魔術か何かで人型に変化させ、武器を持たせて兵隊としているのだろう。
数十年前、突如魔獣兵の攻撃が始まったという。
魔術で意のままに動かせる、無尽蔵に湧いて出る兵隊。それはさぞかし使い心地がいいのだろう。隣国との国境地帯に、湧き水のように溢れ出ていた。
隣国と交渉しようにも今まで交渉のきっかけすら作れていない。隣国の意図がわからないまま、突如襲い来る魔獣兵にただ対応する日々が続いていた。
国は国軍を擁していたが、その中に魔法部隊があった。その魔法部隊を中心に、いくつか国境専用の、魔獣兵対策部隊を設置していた。
ミーヤの所属する部隊もその一つ。
「インガス地帯の討伐も一瞬でしたね。」
数ある部隊の中でも、ロア隊が一番戦績が良かった。
今回もいくつかの部隊が合同で魔獣兵の討伐に当たったが、ロア隊の圧倒的戦術で早期解決に至っていた。
「ボスは人使いが荒いですけど、人の使い方がうまいですからね。」
「ミーヤですらうまく使う。」
そう言って、戦闘を終えた隊員たちは笑いながら軍の駐屯地に帰ってきた。
ロアにとって、人をうまく使うのは当然のことだった。
逆にロアは、不思議でならなかった。
何故適した場所に適した人間を使うという単純なことができないのか。
それは彼にとって、とても簡単なことだった。
ただ単に見ていればいいのだ。人の動きを。
何を望んでいるのか。どう動くのか。
わからなければ実際与えてみればいい。
正しい場所であれば、動きが格段に良くなる。目の輝きが変わる。
ミーヤもそうやって見つけた。
他の部署で明らかに動きが悪く、目の輝きが失われていた。
当時彼女が配属されていた部隊では、彼女は最前線の歩兵として用いられていた。
遠目で見ても動きが悪く、明らかに場を乱していたので、その部隊長にミーヤについて尋ねてみた。
すると、彼女を上手く活用できないその部隊長は突然怒り出し、自分の人を使う力の無さを棚に上げて、『あんなポンコツ誰も使えない。文句があるならくれてやる。』と、ミーヤの転属を提案した。
そんな経緯で配属されたミーヤは最初こそ慣れない環境で動きが悪かったが、徐々に慣れてきた。
ミーヤはポンコツだが、その魔力量は評価できる。また、落ち着いて作業できる環境下では、それなりの成果を出していた。そのため、部隊の後方、いくらか静かな環境下で、魔力切れを起こした武器や弾の補給を行わせていた。
補給部隊へ配属したミーヤの成績はなかなか良かった。
他のものよりも、早く正確に作業を行っていた。
そして、ミーヤを連れて行くと起こる不思議な現象についても、ロアは把握していた。
戦況が悪化しミーヤが逃げ出すと、必ずと言っていいほど救世主があらわれる。
ロアは別にミーヤが救世主本人だと知っているわけではなかった。
しかし、ミーヤを危険度の高い戦域に連れて行って補給部隊に配置すると救世主が現れる。その条件を認識していたため、その状況を作り出せばいい。それ以上でもそれ以下でもない。
結果的に勝利を収めること。それがロアにとって重要なことだった。
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