ミーヤは褒められたい!
よろしくお願いします。
ミーヤはポンコツだった。しかし、最強でもあった。
彼女は国軍の魔法部隊に所属していた。
魔法部隊とは、この国にひっきりなしに突撃してくる隣の国の魔獣兵を撃退する部隊で、国軍の要であり、市民の英雄だった。
ミーヤは、最強の魔道士だったが、誰にもそう認識されていなかった。なぜなら、ポンコツだから。
魔道士とは魔道具を使う者のことをこの国では指す。
魔道具が普及したこの国では、ありふれた職業だった。
ミーヤもその一人。
「ミーヤ、行ってきます!!」
勇み足で、救援信号に反応して出動する同士達と共に出動しようとするも、隊長に止められる。
「お前が行ってもなんの役にもたたんだろ。俺の横に待機だ。弾の補給でもしておけ。」
首ねっこを掴まれ、ヒョイっと持ち上げられる。
「何するんですか!ボス!」
「いいからじっとしてろ。」
ミーヤはジタバタするが、背の高い隊長に持ち上げられているので足は地面につかないし、長い腕で吊り下げられているので、なすすべが無い。
「ボス、でかすぎです!」
宙に浮くミーヤが不満を口にする。
「お前がちっこいんだろ。」
隊長が言い返す。
ミーヤは小柄な女の子だった。黒髪で、丸顔で、真ん丸な瞳が魅力的な、一見すると可愛らしい子だった。
しかし、髪の毛はボサボサで、服もその上にまとうローブもボロボロ。しかも動けば転ぶドジっ子。
その為、隊員たちにもよくからかわれる、いじられキャラだった。
対して、部隊を取り仕切る隊長は、大柄。声も大きく、態度も大きい。
困難な局面でも冷静に状況を判断して部隊を勝利に導くので、隊員の人望も厚かった。
そんな隊長の判断により、ミーヤは戦線投入されず、常に補給部隊か後方支援にまわされるのであった。
魔道具は魔力切れを起こしたり、故障したりすることがある。それに対応するのがこの部隊での補給部隊の仕事だった。
ミーヤはこの作業ではあまりミスをしないので、最近では隊長の横で魔力補給をするのが主な仕事内容になっていた。
誰にも知られてはいなかったが、そんなミーヤの魔道具を操る能力は、おそらくこの国の誰をも凌駕する。
しかし、いかんせん落ち着きのない性格で、粗忽者だった。その為、その能力を発揮する場所はなかなかなかった。
味方に攻撃が当たるのは毎回のこと。敵を回復したり、全員眠らせたり。
魔力量が多いことは皆同意するが、その操作能力やセンスが壊滅的なのである。
実際ミーヤがいると戦況が混乱する。そのため、入団当初はすぐさま戦線から外されたし、今では投入すらされなくなった。
そんなミーヤだが、実はその力によって、何度も味方を救っていた。
ミーヤが実力を発揮できるのは、自身が冷静でいられる状態であること。つまり、安全地帯にいる時。
かつ、誰かを助けたいという気持ちが高まったとき。つまり、危険な場所にいた時。
そんな相反する状況が生まれるのは、戦線の後方で指示を出している隊長の更に後ろ。つまり、まさにミーヤが配属されている補給部隊がその条件を作り出していた。
皆が危険にさらされて、いても立っても居られなくなったとき、ミーヤは更に後ろに下がる。
ボスにとりあえず護身用に持っておけと言われた弓矢を持って。
時には深い森の中。時には山の頂まで登り、そこで静かに心を鎮める。
目には涙を浮かべ、手には弓につがえた矢を握り。
最大限の魔力を込めて、矢を放つ。
ミーヤが放った矢は、一瞬にして、魔獣兵のみを焼き払う。
危ない局面に陥ったとき、不思議で強大な魔法によって救われることがたびたびあることに、部隊を含め、国軍、更に民衆は初め疑問を抱いていた。
しかし、助けてくれていることには代わりはない。
やがて、姿も知らぬ救世主の存在は皆の憧れとなり、希望となった。
「今日もまた救世主に救われた。しかし、その力に頼ってばかりではいけない。次こそは我々の力で戦況を打開しよう!」
そう喝を入れる隊長。
そんな中、森から戻ってきたミーヤは、みんなのところに駆けつける。
「み、み、み、皆さん!見ましたか!」
転んで土まみれ、葉っぱまみれのミーヤを皆が見つめる。
「今の矢、私が打ったんですよ!しょ、証拠に、私の矢が一本ありませんよ!」
そう告げるミーヤに、一瞬の間を置いて、皆が爆笑する。
「そうかそうか、ミーヤ。夢でも見てたか。」
「すごいな、ミーヤ。夢では大活躍か。」
役に立っていない(と思われている)ミーヤでも、懸命に部隊のために働いていることは皆知っているので、暖かく迎え入れる。
しかし、誰も葉っぱまみれのミーヤが救世主だとは信じていなかった。
「ミーヤ、失くした矢はちゃんと拾ってこいよ。」
「え〜、なんで誰も信じてくれないんですか!」
こうしてポンコツな最強魔道士は、今日も褒めてもらえないまま、撤収していく部隊にトボトボとついていくのであった。
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