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憎しみ

 翌日、霞海(かすみ)優也(ゆうや)の研究施設を訪れた。彼女がここに来た理由は、ただ一つである。

「優也。もっとヴィクトを増やせない?」

 彼女はこれからもバーサーカーと戦っていく上で、戦力を必要としている。ジャッカル隊のメンバーは現在四人だが、優也は医師である以上戦線に立つわけにはいかない。


 無論、彼女が戦力を必要としていることなど、優也からすれば百も承知だ。それでもヴィクトを増やす行いには、相応の犠牲者が伴う。

「廃人が増えてしまってもよろしいのですか? ヴィクトは、誰にでもなれるものではありません。適性のある人材を見つけられない以上、僕もむやみに手術をしたくはありません」

 それが優也の答えだ。霞海は握り拳を震わせ、彼に強く反発する。

「必要な犠牲でしょ! このままでは人類が滅亡する可能性だってあるのに、悠長なことを言っている場合じゃないよ!」

 彼女の言い分ももっともだ。されど、その言い分が些か倫理を踏み外していることもまた事実である。優也は深いため息をつき、彼女に問う。

「では、霞海さんにとっての大切な人をヴィクトにしましょうか?」

 その提案に対し、霞海は呆れたような微笑みを浮かべた。彼の脅しは、決して彼女に通用するものではない。

「アタシの両親はバーサーカーに殺された。元恋人もバーサーカーになったよ。アタシは元恋人を駆除するつもりでいるし、そこになんの迷いもない。アタシにはもう、失う人なんかいないから!」

 ただならぬ境遇だ。今の彼女を突き動かすものは、もはやバーサーカーへの憎しみだけなのだろう。そんな彼女に対し、優也は一つ忠告する。

「君の事情はわかりました。しかし君は、あまりにも余裕を失っています」

「どういう意味?」

「己の憎しみに取り憑かれるあまり、君は新たな憎しみを生もうとしています。君も所詮、欲望のままに人々から全てを奪うバーサーカーと何も変わらないということです。どうか、己を見失わないようお気をつけください」

 彼の言葉に、霞海は思わず押し黙る。彼女は怒りに近い感情を込め、すぐ真横の壁を殴った。それから彼女は深いため息をつき、無言でその場を後にした。



 *



 その頃、かの独房では、相変わらず囚われの少年がもがいていた。

「殺したい……俺は人を殺したい!」

 そんな物騒なことを叫びつつ、彼は自らの周囲にワイヤーのようなものを張り巡らせた。ワイヤーは高圧電流を帯びており、眩い光を放っている。そこで看守は麻酔銃を取り出し、彼に向かって発砲した。少年は盾を作り、己の身を守った。

「バーサーカー化がだいぶ進んでいるようだな。こうなれば、無理にでも殺人依存症を克服させなければ……」

 そう呟いた看守は、めげずに発砲を続けた。注射筒が依然として盾に弾かれていく一方で、白い光を放つワイヤーは勢いよく看守の方へと伸びていく。

「殺す……絶対に殺す!」

「まっ……まずい!」

 流石に命の危険を感じた看守は、すぐに逃げ出した。直後、少年の死角から彼の悲鳴が聞こえ、辺りに鮮血が飛び散った。少年が唖然としたのも束の間、その目の前には一人の中年男性が現れた。

「もう安心して良いぞ……ボウズ」

「君は……?」

「おじさんはボウズの味方さ。ボウズと同じ――――バーサーカーだ」

 何やら中年男性は、己の同胞である少年を救出しに来たようだ。彼は大きな太刀を生み出し、少年の手足を拘束していた枷を断ち切った。これで少年は、晴れて自由の身である。

「ありがとう」

「礼には及ばないさ。さて、ここでボウズには、二つの選択肢がある」

「二つの選択肢……?」

 おそらく、ここからが話の本題なのだろう。少年は真剣な顔つきになり、次の言葉を待った。

「このまま国家から逃げ続けるか、それともおじさんと共に国家と戦うかだ」

 中年男性は少年に、究極の質問を投げかけた。

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