家族写真
とある独房では、一人の少年が囚われの身となっている。彼は手錠と足枷を着けられ、自由に身動きを取れない状況だ。
「殺す! 君たち全員、俺がぶっ殺す!」
彼は叫んだ。その目の前には、白衣とマスクを着用した三人の男がいる。そのうちの一人は注射器を取り出し、その先端を少年の腰に突き刺した。少年はすぐに膝から崩れ落ち、気を失う。その光景を前にして、男たちは笑う。
「点滴が不要で、即効性もある全身麻酔か。新薬の技術も着実に進化しているな」
「人工呼吸器はどうする?」
「構わん。元より杯首相からは、このガキを殺しても構わないと聞いている。しかし十七の若さで大量殺人とは……やはりバーサーカーウィルスのせいか?」
医学の道を進む彼らにとって、囚われの少年は恰好の実験動物だった。
そこに姿を現したのは、一人の男だ。
「バーサーカーウィルスは用意できましたか?」
杯水成である。彼もまた、マスクを着用した上でこの場に赴いたようだ。水成の登場により、男たちの態度が一変する。
「これはこれは杯首相。見学ですか?」
「もちろん、用意しました」
「杯さんも是非ご覧になってください」
三人は水成を歓迎していた。さっそく、一人の男は二本目の注射器を取り出し、その中身を少年の首筋に注射した。少年の体内では、更なるウィルスが培養されることだろう。そこで男のうちの一人は、水成に質問する。
「ところで、バーサーカーウィルスの投与を続けて、どうなさるおつもりですか? 首相」
男は医療従事者だ。しかし彼は、自分が何に加担しているのかを、改めて確認せずにはいられなかったのだ。そこで水成は不気味な微笑みを浮かべ、この「プロジェクト」について述べる。
「貴方の想像する通り、私は彼の体で抗体を作っています」
国の未来を背負う者として、彼は手段を選ばなくなっていた。
*
それは翌日の昼のことである。春樹は携帯電話を操作し、それを耳に当てた。そして彼は、残酷な現実を淡々と語り始める。
「母さん。僕はバーサーカーになった。はっきり言って、今も人を殺したくて仕方がない。感染リスクがあるから、しばらくは母さんに会えないよ」
何やら、彼は自分の母親と話をしているようだ。電話越しに、母親の悲しげな声が聞こえてくる。
「春樹。今、どこにいるの? ご飯は? ちゃんと食べてる?」
彼女がそう訊ねたのも無理はない。未成年者が一人で旅立つということは、ただならぬ事態だ。春樹は深いため息をつき、現状について説明する。
「ご飯は支給されているよ。僕はバーサーカーでありながら、ジャッカル隊でバーサーカーを狩っているんだ。国は抗体を開発している最中みたいだし、きっといつかまた会えるよ。その時は、オムライスを作って欲しいな」
「春樹……」
「母さん、ごめん」
説明を終えた春樹は、すぐに電話を切った。彼に冷たい目線を送り、霞海は言う。
「私情は捨てて。いずれ仕事の邪魔になる」
相変わらず冷淡な女である。そんな彼女に苛立ちを覚えたのは、春樹ではない。
「ふざけんな! お前なぁ! 春樹の気持ちも考えろよ!」
和希だ。今まさに怒りに燃えている彼とは対照的に、春樹は妙に冷静だ。
「……良いんだよ、和希。僕は私情を捨てる覚悟で、ジャッカル隊に入ったんだから」
「春樹……」
和希は言葉を失い、やるせない思いを抱えてうつむいた。
その日の夜、消灯時間を迎えていたジャッカル隊の基地は真っ暗だった。妙に寝付けなかった和希は懐中電灯を片手に携え、春樹の部屋へと赴いた。そして彼は部屋の扉を開け、儚い光景を目にする。
春樹は一人で椅子に腰かけていた。彼は電気スタンドで卓上を照らし、一枚の家族写真を眺めている。ほんの一瞬だけ、和希は彼に声をかけようか迷った。しかし和希は、無言でその場を後にした。




