ヒーロー
春樹の最後の一撃により、ディカルトは完全にこの世から消滅した。ジェネス星の官邸では、三人のジェネス星人が話し合っている。
「あのディカルトがやられたのか! 地球を支配しようなどと考えるのは、無謀が過ぎたようだな……」
「皇帝陛下。ここは手を引きましょう。これ以上地球人を刺激したら、ジェネス星にまで被害が及ぶかも知れません」
「しかし、あのディカルトが敗れるなんて、想像もしなかったな。アイツが次の君主になると聞いた時、俺は内心ビクビクしてたぜ。とんでもない暴君が生まれかねなかったからな」
彼らの間でも、ディカルトは一目置かれた存在だ。あの男を失ったことは、ジェネス星人にとって大きな損失であった。皇帝は深いため息をつき、話を続ける。
「イデアの考えは正しかったのだろう。我々は地球人に力など与えるべきではなかったし、ましてや敵対すべきでもなかったのだ」
「皇帝陛下……」
「弁解の余地もない。我々は負けたのだ。ここに宣言する――――我々は金輪際、地球には手を出さないと!」
潔く敗北を認めた彼は、地球から手を引くことを選んだ。
*
あれから数日後の地球にて、春樹と和希は墓地を訪ねていた。墓前に花束を供え、二人は呟く。
「終わったよ……壮介。僕たちは、成し遂げたんだ」
「この場にお前がいないことが、何よりも口惜しいけどな」
この墓には壮介が眠っている。春樹たちは静かに瞼を閉じ、その場にしゃがみこんだ。二人は無言でうつむき、手を合わせる。数瞬の沈黙が続く中、彼らは今までの戦いを振り返っていた。彼らは多くの命を奪い、多くの死と直面してきた。様々な悲劇に見舞われた彼らも、ついに一つの大義を成し遂げたのだ。
それからしばらくして、春樹は妙な話を切り出した。
「和希。僕はこれから、独房に入ろうと思う」
「独房に……? お前、バーサーカー以外は殺してねぇだろ?」
和希は度肝を抜かれた。彼が困惑する一方で、春樹は淡々と話を進める。
「壮介から貰った抗体で、僕の体内のウィルスは死滅した。それでも、僕の脳には後遺症が残っているんだ。僕は今でも、人を殺したいと思っている」
「春樹……」
「それに、ディカルトを倒したからといって、全てが片付いたわけではないからね。今度は僕が実験体になって、抗体を作っていかないといけない。全てのバーサーカーを治療できる……その日までね」
彼の覚悟は本物だった。内心、和希はそんな彼を止めたい気持ちでいっぱいだった。それでも和希は、親友を応援せざるを得ない。二人はヒーローなのだ。
「頑張れよ……春樹。オレは前にも言った通り、自衛隊に入るつもりだ。いつかまた、会える時が来ると良いな」
「そうだね。それとね……僕にはもう一つ夢があるんだ」
「もう一つの夢?」
和希は息を呑み、相棒の返答を待つ。春樹は希望に満ちた微笑みを浮かべ、己の夢を語る。
「いつか僕が殺人衝動を克服したら、バーサーカーの更生を支援するリハビリ施設を建てたいんだ。かつての天寺巧が抱いていた正義感も、きっと本物だと思うから」
「ああ、そうだな」
「それじゃ、僕はそろそろ行くよ」
用件を伝えた春樹は、すぐにその場を去ろうとした。そんな彼を引き留めるのは、和希だ。
「春樹。ちょっと待て」
「和希?」
「今更だけど……リレー漫画、完結したぞ」
和希は鞄から自由帳を取り出し、それを春樹に手渡した。春樹はそれを自分の鞄に仕舞い、満面の笑みを浮かべる。
「ついに、僕たちの物語が終わったんだね」
「ああ。オレたちは、ヒーローになれたんだな」
「それじゃ、またいつか」
親友に別れを告げた彼は、己の拳を前方に突き出した。そんな彼につられて笑い、和希も拳を突き出す。二人の拳は、太陽を背にして重なり合った。




