自我
やがて爆発が収まった時、そこには三人の男の姿があった。春樹と和希、そして壮介である。
「帰ろう……壮介。僕たちは勝ったんだ」
春樹は壮介の方へと歩み寄り、安堵に満ちた微笑みを浮かべた。彼に続き、和希もそこに駆け寄った。
直後、壮介は筋力で縄を引きちぎり、周囲に電撃を放った。春樹たちが後方に飛ばされる中、彼の目は赤く発光していた。その表情は悪意に満ちており、彼が何者かに意識を乗っ取られていることを示唆していた。春樹たちは、すぐにその正体を見破る。
「ディカルト……!」
「ふざけんな! お前、まだ生きてやがるのか!」
彼らが驚くのも無理はない。イデア隊があれだけの手を尽くしてもなお、あの男はまだ生きているのだ。ディカルトは壮介の体を操り、二人を挑発する。
「フハハハハ! 俺は元々、天宮優也を演じてきた男だ。追い込まれた演技をする程度、お手の物だよ」
いわく、彼はこの期に及んでもなお、全力を出してはいなかった。彼は指先から黒い電撃を放ち、春樹たちの体に傷を負わせていく。
「壮介を……返せ」
「違うぞ、春樹。アイツは、仲間を返せと言われて素直に従うような奴じゃねぇ」
「ああ、そうだね。僕たちは、壮介を取り戻す!」
満身創痍の体を奮い立たせ、二人は眼前の宿敵を睨みつける。一方で、当の宿敵は依然として余裕綽々とした態度を取っている。
「お前らは俺を倒すため、やむなく壮介を殺さなければならない。筋書きとしては上出来だねぇ。もっとも、こんな体を破壊されたところで、俺は何度でも蘇るがねぇ」
一発、また一発と放たれる電撃は、春樹と和希を着実に追い詰めていく。下手を打てない二人は、防戦一方に徹するしかない状況だ。
その時だった。
突如、彼らの標的の動きは止まった。
「なんのつもりだ……壮介!」
何やら彼は、壮介の自我によって動きを封じられている様子だ。壮介は歯を食いしばり、必死にディカルトの意志に抗う。
「春樹。バーサーカーウィルスへの抗体を作るのは、君に任せた」
彼の不穏な一言に、春樹の表情が変わる。
「何を言っているんだ、壮介。僕たちに、できないことはないはずだ」
「しかしこのままでは、君たちが犬死にするのが関の山だ。だから、俺に構うな! 俺ごとディカルトを討て!」
「壮介……」
壮介の覚悟を前に、春樹は言葉を失った。春樹は聖剣ゾディアックを構え、相手との間合いを詰める。
「僕はまだ、君を諦めない。僕の剣には、なんでも切れる力も備わっている!」
彼はそう言い放ち、手に持っていた剣を勢いよく振り下ろした。直後、ディカルトと壮介の体は分離した。
これで一先ず、壮介の命は救われたかのように思われた。しかし彼は突如苦しみ始め、膝から崩れ落ちた。唖然とする春樹たちを、ディカルトは大きな声で嘲笑う。
「フハハハハ! 壮介の体には、すでに強力なウィルスを仕込んである。お前らには何も守れない。誰も守れやしない!」
相変わらず、この男の強さは規格外だ。たったの一瞬にして、壮介は虫の息となった。彼は最後の力を振り絞り、おもむろに上体を起こす。そして彼は春樹の方に手を伸ばし、紫色の煙を放った。煙は春樹の体に注ぎ込まれていく。
「壮介! 死ぬな!」
「悪いな。俺の力も、抗体も、全て君に託すよ……春樹。君と和希が、人類を救うんだ」
「壮介! 壮介ぇ!」
春樹は必死に叫んだが、壮介の返事は途絶えた。壮介はその場に倒れ、二度と目を覚ますことはなかった。底知れぬ絶望に苛まれる春樹たちを横目に、ディカルトはほくそ笑む。
「ああ、実に清々しい気分だねぇ。俺はずっと、お前らの目の前でコイツを殺すことを心待ちにしていたんだ。さあ、最高の怒りを俺に見せてみろ。春樹! 和希!」
そう言い放った彼は、圧倒的な強者の雰囲気を醸していた。




