因果の修正
春樹はディカルトに斬りかかり、そこに和希が拳を叩き込んだ。どういうわけか、今回はディカルトの体が修復されるのに時間がかかっている。そればかりか、彼の体にはノイズのようなものが走り始めているのだ。
「何をした……春樹!」
彼が驚いたのも束の間、春樹たちは更に何発もの攻撃を加えていく。襲い来る斬撃と打撃は、彼の再生の速度を大幅に上回っている。
「図に乗るなぁ! 地球人風情がぁ!」
ディカルトは剛腕を振るい、春樹たちを薙ぎ払った。続いて、彼は掌から光線を放ち、二人の周囲を勢いよく爆破する。しかし春樹は爆炎の中から飛び出し、依然として標的に斬撃を食らわせていく。その執念はまさに、バーサーカーと呼ぶに相応しいものだった。そこでディカルトは剣を叩き落とし、春樹の頭を掴んだ。ディカルトの脳に、相手の記憶が流れ込んでいく。
「なるほど、発想としては上出来だねぇ。俺の全てを書き記した本を作り、それを頼りに因果の歪みを正す剣を思いついたというわけかぁ」
「強気で居られるのもそこまでだ……ディカルト。因果の歪みを正された君に、もはや生きながらえる術はない」
「本はちゃんと隅々まで読んだ方が良いぞ? 俺は生物としての再生能力においても、お前ら地球人をゆうに上回っている」
両者の間に、緊迫した空気が立ち込めた。
その時である。
突如、ディカルトの全身はワイヤーに縛り上げられた。
「脱け出してみろ! ディカルト!」
柱に縛り付けられたまま、壮介は彼を挑発した。無論、今までのディカルトであればすぐに瞬間移動を使うだろう。もっとも、それは壮介の生み出したワイヤーが今までと同じものであった場合の話である。ディカルトは不思議な力を使い、その場に立体映像のようなものを映し出した。映像にはワイヤーの構造が表示され、その周囲には未知の言語がちりばめられている。その文字に目を通し、ディカルトは少し焦りを見せる。
「脱出不可能のワイヤー……だと? やりやがったなぁ! 壮介ぇ!」
これで彼は身動きの取れない状態だ。和希はすぐに彼との間合いを詰め、強烈な打撃を何発も叩き込んでいく。
「これが、地球人の底力だ!」
「くっ……くそ!」
一撃必殺のグローブによる攻撃を受けるたびに、ディカルトは死と再生を繰り返す。そこに春樹が乱入し、激しい斬撃で因果の歪みを正していく。
「これは僕の分!」
「ぐはっ……!」
「これは和希の分!」
「この俺が……!」
「これは母さんの分! 壮介の分! 霞海の分! 刀真の分! ゆかりの分! 巧の分!」
彼の斬撃の一つ一つは、宿敵の被害者たちの想いを背負っていた。こうなればもはや、ディカルトに勝ち目はないだろう。
「ありえない……地球人ごときに……俺が……」
そう彼が呟いたのも束の間であった。
「この一撃で、全てを終わらせる!」
春樹はそう叫びつつ、ゾディアックを勢いよく振り下ろした。ディカルトの体は一刀両断され、その断面は白く発光していた。
「ならば……お前らも道連れだぁ!」
ついに勝利を諦めたのか、ディカルトは自爆した。辺りは凄まじい爆発に呑みこまれ、遺跡は一瞬にして倒壊した。激しい爆炎と強風、そして砂煙に包まれた遺跡の中で、春樹と和希は必死に柱にしがみつく。少しでも気を抜けば、二人は命を落とすこととなるだろう。無論、死の危険に晒されているのは彼らだけではない。柱に縛り付けられている壮介もまた、この爆発から逃れる術を持たないのだ。
「死んでたまるか。僕たちは、ようやくここまでたどり着いたんだ!」
壮介は言った。彼に続き、二人も声を張り上げる。
「ああ、もちろんだ! 必ず生きて帰って、いつの日か平和な世界をこの目に焼き付けるんだ!」
「もう少しだ……ここで耐え抜けば、俺たちの勝利だ!」
遺跡は真っ白な光に包まれた。




