不死身
春樹はゾディアックを勢いよく振り、空間に穴を開けた。彼は和希を連れ、その穴の中へと飛び込んだ。その先は高層ビルの屋上であり、そこで待ち構えていたのはディカルトだ。彼は壮介の胸ぐらを掴んだまま、ゆっくりと春樹たちの方へと振り向く。
「一足遅かったねぇ……勇者様ご一行」
ディカルトはそう言い放ち、壮介の体に黒いエネルギーのようなものを流し込んだ。壮介は一瞬にして塵と化し、風の中に消えていった。
「壮介……!」
春樹は剣を構え、間合いを一気に詰めた。ディカルトは盾を作ったが、彼の体は空間ごと切り刻まれていく。しかし何度斬撃を受けても、彼の体は瞬時に再生する。
「ふざけんな! 壮介を返せ!」
和希はすぐに飛び出し、一撃必殺の拳を宿敵に叩き込んだ。ディカルトは一瞬だけ消滅したが、すぐに再生してしまう。
「フハハハハ! 何度やっても同じことだ!」
依然として、彼が追い詰められる様子はない。彼は両腕を勢いよく振り、春樹と和希を薙ぎ払った。直後、二人の体は黒い雷に貫かれ、そのまま勢いよく爆発する。あの場で思いついた限りの最強の武器をもってしてもなお、春樹たちが強敵に一矢を報いるのは難しいようだ。
その時である。
突如、ディカルトの全身はワイヤーのようなものに縛り上げられた。彼が背後に目を遣ると、そこには塵と化したはずの壮介の姿があった。
「俺が死んだと思ったか? ディカルト!」
そう叫んだ壮介は、どういうわけか無傷だった。闘志に満ちた表情で仁王立ちをする彼を前に、ディカルトは全てを理解する。
「イデアの力かぁ……アイツもやってくれるねぇ。だが、無駄な抵抗だ」
そう――――イデアが死の間際に残した力により、壮介の再生能力は一時的に高められていたのだ。ディカルトはすぐに瞬間移動し、拘束から脱け出した。それからも彼は瞬間移動を繰り返し、様々な角度から三人に攻撃を加えていく。打撃、蹴り、そしてレーザー光線に放電など――――彼の持つ攻撃手段は様々だ。それに応戦するように、春樹は何度も空間を切り刻んでいった。しかし何度異空間に閉じ込められても、ディカルトは瞬間移動によってその場に戻ってきてしまう。春樹と同様、和希も宿敵への攻撃を試み続けた。一撃必殺のグローブをはめた拳も、ディカルトを前にすれば無力も同然だった。無論、壮介の操るワイヤーや高圧電流も、この戦いにおいては何の役にも立っていない。
「くっ……どうすれば……」
春樹は思考を巡らせた。同時に、彼は心底絶望していた。この戦いの中で培われていくものは、もはや圧倒的な絶望感だけだろう。その傍らで、壮介もまた勝利を諦めかけていた。そんな二人の背中を押すのは、和希である。
「春樹! 壮介! オレたち地球人の創造力を信じろ! かつて裸でマンモスを追い掛け回していたオレたちが、今や機械に囲まれて暮らしているんだ! オレたちにできねぇことはねぇ!」
そんな熱い言葉を、ディカルトは余裕綽々とした態度で一蹴する。
「だが有史以来、地球人がこの世から格差を無くしたことはない。弱肉強食の理は、お前らが束になっても覆らないもんだ」
彼はそう言うと、ビルの屋上に大きな爆発を発生させた。春樹と和希は、咄嗟にその場に伏せた。二人の体の表面は、爆風と未知のエネルギーによって抉り取られていく。そして二人が起き上がり、視界を覆っていた煙が風に消えた時――――
――――そこに、ディカルトと壮介の姿はなかった。
「ふざけんな……逃げやがって!」
和希は怒りに身を任せ、四つん這いのまま屋上の床を殴った。春樹はため息をつき、彼の前にしゃがむ。
「撤収しよう。今の僕たちにはまだ、ディカルトを倒すことはできない」
彼らには何か、新しい武器を考える必要がありそうだ。




