打ち上げ
その日の夜、イデア隊の三人は河原でバーベキューをしていた。夜風が吹き付ける中、火を囲みながら暖を取り、彼らは今までの戦いを振り返る。
「この短い期間の中で、色々なことがあったね。ここに至るまでに、僕たちはどれほどの命を奪ってきたんだろうか」
そう呟いた春樹は、どこか憂いを帯びた顔をしていた。そんな彼の目の前に、壮介は牛肉を差し出す。
「辛気臭い話は無しだ。俺たちは、あのディカルトに打ち勝ったんだ。これから世の中は、かつての平和を取り戻せるはずだ」
「そうだね、壮介。僕たちは、一つの偉業を成し遂げた。僕たちは、本当にヒーローになれたんだ」
「その通りだ。もっと自分に胸を張れ」
春樹を励ました壮介は、今まで見せたことのないような笑みを浮かべていた。その傍らでジュースの缶を開け、和希は訊ねる。
「それで、これからどうするよ。オレら三人が揃えば、もはや敵なしだと思うぞ」
ディカルトとの戦いを終え、彼らは自信に満ち溢れていた。一先ず、壮介の課題は決まっている。
「決まってるだろ。俺は自分の殺人衝動を克服し、医療機関に抗体を提供し続ける。正直、杯水成のことはいまだに許せないが、俺も君たちの言うところのヒーローを悪くないと思い始めたからな」
あの死闘を経て、彼は確かに前進していた。そんな彼に続き、春樹も抱負を語る。
「僕はリハビリに励もうと思う。まだ殺人衝動を克服しきれていないし、今この瞬間も人を殺したくて仕方がないからね。だけど僕たちには、ディカルトを倒すことができたんだ。きっと、バーサーカーウィルスにだって打ち勝てるはずだ」
全ての元凶を倒したからといって、バーサーカーウィルスによる問題も片付くわけではない。春樹たちの戦いは、まだ終わっていないのだ。次はいよいよ、和希が目標を語る番である。
「なあ。春樹、壮介。オレさ……自衛隊に入ろうと思うんだ」
そう切り出した彼に対し、春樹と壮介は怪訝な顔をする。
「自衛隊に?」
「もう戦う相手もいないのにか?」
二人は首を傾げた。和希はジュースを飲み干し、話の続きをする。
「少なくとも、オレたちは地球外生命体が実在したという事実を知っているだろ? いずれまた、別の惑星からオレたちの敵が襲ってくるかも知れねぇ。だからオレは、地球を守り続けることに人生を捧げるんだ」
過去を振り返るばかりではなく、彼は未来のことも考えていた。そんな彼の志に、春樹たちは肯定的な姿勢を見せる。
「ふぅん。良いと思うよ。和希らしくて」
「君ならやれるだろう。誰もが憧れるような隊員になるんだぞ」
彼らは心から和希を応援していた。
それから三人は食事を楽しみつつ、他愛のない話で盛り上がり続けた。
それは翌朝のことだった。
「大変だ! 春樹!」
彼の大声は、春樹を叩き起こした。
「どうしたんだい? 和希」
春樹は服の袖で目元を拭い、和希の方へと目を遣った。
「壮介がいないんだ! それで意識を研ぎ澄ましてみたら、まだディカルトが生きていたんだ!」
「ディカルトが生きている? 悪趣味な冗談だね」
「ふざけんな! オレがそんな冗談を言うはずがねぇだろ!」
和希は酷く取り乱していた。その様子から、彼が嘘を言っていないことは一目瞭然である。春樹はすぐに瞼を閉じ、意識を集中させた。
「……本当だ。ディカルトは、確かに生きている!」
「オレだって、嘘であって欲しかった。行くしかねぇな……春樹!」
あれだけの力を振るってもなお、あの宿敵を打ち負かすには至らなかったようだ。
「待っててね、壮介。僕たちの思い描くヒーローは、決して仲間を見捨てないから」
「待ってろよ、ディカルト! オレたちが必ず、お前を地獄に叩き落としてやるからよ!」
二人は一刻も早く壮介を救出する必要がある。




