聖剣ゾディアック
それはその日の夕方のことである。
「行こう……ディカルトのもとへ」
春樹は決心した。ここで和希は、ちょっとした疑問を口にする。
「アイツの居場所はどうやって掴むんだ?」
元より、ディカルトは神出鬼没だ。それでいてあの男は、瞬間移動を繰り返して様々な場所に現れる。しかし今の春樹たちには、彼の居場所を特定する手段がある。そして壮介は、その手段を把握しているようだ。
「俺たちには、イデアの力の一部が備わっている。その気になれば、ディカルトの居場所くらいわかるんじゃないのか?」
さっそく彼は意識を研ぎ澄ました。それから数秒後、彼の表情が変わった。
「何か、わかったのかい?」
春樹は訊ねた。無論、壮介の行動には意味があった。
「行くぞ。春樹、和希」
彼は二人を連れ、繁華街へと向かった。
繁華街で彼らを待ち受けていたのは、ディカルトだ。
「度胸としては上出来だねぇ。だが、イデアを失ったお前らに、何ができるというんだ?」
最大の敵を倒した今、彼は余裕綽々としている。そんな彼に対し、春樹たちは強気な姿勢を見せる。
「有史以来、地球人は底意地と創造力だけで数多の壁を乗り越えてきた。何度困難に見舞われても、僕たちの歴史が途絶えることはなかった」
「春樹の言う通りだ! オレら地球人を敵に回すということがどういうことか……そいつを今からお前に叩き込んでやるよ!」
「人は悲しみを雨に例える。だが俺から言わせれば、悲しみは谷底だ。己の力で這い上がらない限り、希望なんか差し込まない。だから俺たちは戦うんだ!」
それが彼らの覚悟だ。その覚悟から紡がれた言葉を、ディカルトは綺麗事と一蹴する。
「フハハハハ! 良いリリックだねぇ。だが、どんな綺麗な歌も、お前らの世界を救ったことなどない。口先だけの綺麗事に、生産性などない!」
彼の言葉に、和希と壮介は何も言い返せなかった。それでも春樹だけは、拙い言葉で反論を試みる。
「それでも、この星には己の夢や理想を叶えた人間がいる。世界平和の前例はなくとも、成功を勝ち取った者の前例は山程ある!」
「ああ、地球人も、地球という箱庭の中では成功できるだろう。だがお前らの力を束ねても、俺には遠く及ばないさ」
「やってみないとわからない!」
どんな言葉をぶつけられようと、春樹が折れることはない。彼は手元に剣を生み出し、和希はグローブを装備する。
いよいよ戦闘開始だ。
壮介はワイヤーを駆使し、ディカルトの全身を縛り上げた。続いて飛び出してきた和希は、宿敵の顔面に拳を叩き込んだ。ディカルトは一度木端微塵に粉砕されるが、瞬時に生き返る。しかしこの隙を狙い、春樹が飛び出してくる。
「そこだ」
彼は剣を勢いよく振り、空間を切り裂いた。ディカルトは瞬間移動により、彼の背後を取る。
「ハハハ! 無駄なことを!」
強靭な剛腕は、春樹を容赦なく殴り飛ばした。春樹はすぐ後ろの店のシャッターに叩きつけられ、そのまま深くめり込んだ。続いてディカルトは空間に二つの穴を開け、それぞれの穴から光線を放つ。二本の光線はそれぞれ、和希と壮介の腹を貫いた。直後、彼らの周囲は勢いよく爆発する。この一撃が起こした地響きにより、繁華街の建物は次々と倒壊していった。舞い上がる砂煙の中で、ディカルトは腹を抱えて笑っている。
「フハハハハ! お前らには何も守れない! この俺に目をつけられた時点で、地球人が助かる未来など訪れない!」
もはや彼に打ち勝つのは絶望的だ――――その場にいる誰もがそう思っただろう。
その時、砂煙を掻き分けるように、一人の少年が彼の方へと飛び込んできた。
「驕るのも大概にするんだね」
春樹だ。彼は剣を勢いよく振り、再び空間に大きな切れ目を入れた。
「馬鹿な……! 馬鹿なぁ!」
ディカルトは不意を突かれたまま、異空間に閉じ込められた。




