狩人
春樹がバーサーカーウィルスに感染したことを最初に知ったのは、和希だ。彼は携帯電話を操作し、春樹とチャットでやり取りをする。
「それじゃ、オレたちはしばらく会えないのか?」
「下手したら、一生会えないと思う。和希にまでバーサーカーになって欲しくないし、そもそも僕もいつ駆除されるかわからないから」
「ふざけんな。こんなことがあって良いのかよ」
現実を受け入れている春樹とは対照的に、和希はまだ状況を呑み込めていなかった。同時に、和希は一つ理解していることがある。春樹は決して、あんなことを冗談で言うような男ではない――――それだけは確かだ。
「春樹……」
和希は握り拳を震わせた。
あれから数日間、春樹はバーサーカーを狩り続けた。そんな彼の存在があの女に認知されることは、もはや時間の問題であった。そしてこの日、彼の前に、ついにその女は現れた。
「アンタね。ここ最近、噂になっているバーサーカーは」
森上霞海だ。彼女は銃を構えており、明らかにこちらに敵意を向けている。
「そうだ。僕は未感染者には手を出していない」
春樹は質問に答えた。直後、一発の光弾が、彼の目と鼻の先まで迫った。彼はすぐに剣を作り出し、その刃で光弾を弾いた。不意打ちを前にして、春樹の顔色が変わる。
「なんの真似だ……?」
「アタシの仕事は、全てのバーサーカーを狩ることだ。それに、アンタが殺人衝動を制御できなくなるのも、時間の問題だよ。明日には、アンタが一般人を殺しているかも知れないね」
「僕はしないよ……そんなこと!」
彼はそう主張したが、霞海の態度が変わることはない。彼女は次々と発砲しつつ、彼の方へとにじり寄っていく。無論、霞海はバーサーカーではない。例え命を狙われていても、春樹は彼女を殺すわけにはいかないのだ。
「終わりだ……バーサーカー!」
銃の先端に、大きな光の球体が生まれる。その周囲では、電気が音を立てながら渦巻いている。
「っ……!」
春樹は咄嗟に盾を作った。霞海の放った光弾は盾に撃ち込まれ、その表面を削り落としていく。盾が壊れるのが先か、あるいは光弾が消えるのが先か。仮にもしあの一撃を一身に浴びようものなら、命の保証はない。
その時だった。
突如、どこからともなく、一本の医療用メスのようなものが飛んできた。それにより光の球体が貫かれ、その場で消滅する。霞海はため息をつき、メスが飛んできた方へと目を向ける。
「なんのつもり? 優也」
彼女の視線の先には、白衣を身にまとった好青年がいた。優也と呼ばれる青年は妖艶な微笑みを浮かべ、ある提案をする。
「隊長。彼を戦力としてジャッカル隊に迎え入れるのはいかがでしょう」
その言葉に、霞海は耳を疑った。
「バーサーカーを駆除する我々が、バーサーカーと手を組むの? つまらない冗談はやめてよ」
「僕は真剣です。隊員のほとんどは壮絶な死を遂げ、今やジャッカル隊に残っているのは我々二人だけではありませんか。戦力が必要だとは思いませんか?」
「それは……そうだけど……」
彼女は不服そうだ。それほどまでに、この女はバーサーカーを憎んでいるのだろう。その傍ら、優也は春樹の肩に肘を置き、話を続ける。
「どうです? 我々には君のような人材が必要です。手を貸してはいただけませんか?」
これは春樹にとって、決して悪い話ではない。彼が正式にジャッカル隊の隊員となれば、もう霞海から命を狙われることもないだろう。
「任せて。僕は全てのバーサーカーを駆逐する。こんな悲劇を、もう二度と繰り返させない」
それが彼の答えである。優也の独断に対し、霞海は憤る。
「優也! アタシはまだ許可なんか……」
「まあまあ。しばらくは様子見で良いでしょう」
優也は自由奔放だが、どこか物腰の柔らかい男であった。




