ただのバーサーカー
あれから数十分後、春樹は我に返った。彼の目の前では今、全身に重傷を負った和希がしゃがみ込んでいる。
「和希! ごめん! こんなこと、本心ではしたくなかったのに、体が勝手に動いて……」
春樹は叫んだ。和希は頬を綻ばせ、己の震える拳をゆっくりと持ち上げる。
「大丈夫……わかってる。今まで、よく耐えてきたよ……春樹」
その拳は、春樹の方へと向けられた。
「和希……」
春樹は少し戸惑いつつも、和希と拳を重ね合った。先ほどの死闘をもってしても、二人の友情が崩れることはなかったのだ。
しかし現実問題、和希には看病が必要だ。
「ウチが和希を看病する。キミたちはもう少しここに隠れていて」
イデアは彼の命を預かった。彼女は和希とともに、瞬間移動でその場から消えた。
直後、霞海は己の手元に銃を生成した。その銃口は今、春樹の方に向けられている。
「春樹! 危ない!」
壮介は咄嗟に飛び出し、彼を突き飛ばした。二人の背中の上を、大きな光の弾が横切った。春樹はすぐに立ち上がり、剣を装備する。彼は霞海と睨み合い、じりじりと間合いを詰めていく。そんな両者の間に割って入るのは、壮介だ。
「隊長! どういうつもりだ! 君は今、春樹を殺そうとしただろ!」
「春樹は和希を殺そうとした。彼はもはや、ただのバーサーカーだよ」
「だけど、和希はアイツを許した! それが全てだろ!」
彼は必死にそう訴えたが、霞海はまるで聞く耳を持とうとはしない。
「いつ一般人を殺すかわからない春樹を、野に放つわけにはいかない。今日という日は、訪れるべくして訪れたんだよ」
もはや彼女に、春樹を生かしておくという選択肢はなかった。そうとなれば、春樹と壮介に残された選択はただ一つだ。
「壮介。僕を庇わなくても良い。これは、僕と隊長の問題だ」
春樹は霞海の方へと詰め寄り、俊敏な剣捌きを発揮した。霞海は襲い掛かる斬撃をかわしつつ、光弾を連射していく。そんな凄惨な光景を前にして、壮介は叫ぶ。
「世界のことも、自分のことも、独りで背負い込むんじゃない! 春樹!」
彼の周囲に、白く発光したワイヤーが生み出される。ワイヤーは霞海を追い回すが、光の弾によって次々と焼き切られていく。
春樹たちの攻撃は、ことごとく防がれていった。一方で、霞海の銃撃は着実に彼らの身を傷つけていく。戦況はまさしく、春樹たちにとって絶望的なものであった。
「僕は殺される覚悟を持っている。だけど、それはディカルトを倒してからだ」
「そうだ! 俺たちはディカルトを倒さないといけない! 今はいがみ合っている場合じゃない!」
そんな二人の説得など、当然霞海は聞き入れない。今この場に味方が現れない限り、彼らに勝機はないだろう。
その時だった。
彼らのいる路地裏に、一人の男が現れた。男は俊敏な挙動でヌンチャクを振り回し、霞海を退けていった。
「ア……アンタは……!」
霞海は発砲を続けつつ、眼前の男を睨みつけた。
「よっ……おじさんの登場だ」
天寺巧だ。
これで形勢は三対一となった。その上、あの巧が春樹たちに手を貸している。
「やれやれ。一先ず、撤退しなきゃ」
霞海はそう言い残し、その場に煙幕を投下した。辺りを覆い尽くす煙に身を隠し、彼女はその場から逃げ出した。
唖然とする春樹たちに対し、巧は言う。
「結局、この世界の連中はバーサーカーの敵だ。さあ、ボウズたちもビーストファングに入らないか?」
この状況においては、心を揺さぶりかねない勧誘である。しかし春樹たちは、彼の誘いを断る。
「僕は、君のやり方も気に食わない」
「俺たちが倒すべきは、ディカルトだけだ!」
それが二人の答えだった。巧はため息をつき、彼らに忠告する。
「……次に会う時、我々は敵同士だ」
そう言い残した巧は、煙幕に包まれた路地裏を後にした。




