決壊
機械の竜の猛威は凄まじかった。その体の節々は自在に変形し、ホーミングミサイルやレーザー光線などを連射していった。春樹たちは数分もしないうちに満身創痍の傷を負ったが、巧は無傷だ。ディカルトから力を授かった彼にとって、今のジャッカル隊は強敵ではないようだ。
その時、何らかの力により、港に停まっていた貨物船の全てが消滅した。
困惑する春樹たちに対し、イデアは今起きたことを説明する。
「貨物船は全て、目的地にテレポートさせたよ。これで、巧がバーサーカーウィルスを外にばら撒くことはなくなったね。さあ、一先ず撤退しよう」
相変わらず有能なサポートだ。彼女はその優れた能力を発揮し、巧以外の全員をその場から瞬間移動させた。
彼らが移動した先は、とある路地裏だった。この場所であれば、しばらくは体を休めることができるだろう。そんな中、春樹は一つだけ疑問を抱いていた。
「イデアは何故、そんなに強いのに戦わないんだい?」
至極真っ当な質問だ。己が信頼していた優也が敵だったことも相まって、彼の猜疑心は以前よりも強くなっているらしい。そんな彼の疑問に、イデアは答える。
「手を貸したいのはやまやまだよ。だけど何しろ、ウチは死が近いからね……ウチの持つ力は有限なんだ」
やはりディカルトによって負わされた致命傷が大きかったようだ。次に質問するのは、和希である。
「イデアは何故、オレたちを選んだんだ? ジェネス星には、手を貸してくれる奴はいなかったのか?」
「少数派だけど、いたよ。もう皆、ディカルトに殺されちゃったけどね。だからウチは、キミたちに全てを託そうと思ったんだ」
その返答を前にして、和希は少し考えた。そして彼は、自嘲的な愛想笑いを浮かべながら口を開く。
「都合の悪い存在を殺しちまうなんて、見境ねぇな。まるで、オレたち地球人みてぇだ」
彼の発言により、その場の空気はより一層重くなった。霞海はため息をつき、ビルの谷間から空を仰ぐ。空はにわかに曇りつつあり、陽の光を隠し始めていた。
その時、春樹の身に異変が起きた。
彼は息を荒げ、ゆっくりと立ち上がった。
「春樹……?」
和希は怪訝な表情を浮かべ、相棒の顔を覗き込んだ。春樹は舌なめずりをし、己の手元に剣を生成した。
「もう我慢できない。殺したい。和希を、僕の手で!」
そう言い放った彼は、瞬時に剣を振り上げた。和希は咄嗟に盾のついたメリケンサックを生み出し、己の身を守る。周囲に金属音が響き渡るのと同時に、両者の側に霞海と壮介が駆け付けた。
「春樹……アンタ!」
「どういうつもりだ! 春樹!」
霞海は銃を手にし、壮介は己の周囲にワイヤーを生み出した。どういうわけか、和希はそんな二人を止めようとする。
「隊長! 壮介! ここはオレが引き受ける! これは、オレと春樹の問題だ!」
彼は真剣だ。その気迫に圧倒され、霞海たちの動きは止まる。春樹の剣と和希のメリケンサックは何度も衝突し合い、小刻みな金属音を奏でていく。
「ふふっ……僕を楽しませてよ。か、ず、き……」
「ふざけんな! 目を覚ませ! オレたちが憧れてきたヒーローは、殺人衝動なんかに負けねぇはずだ!」
「僕はヒーローなんかじゃない。バーサーカーだよ」
もはや春樹の殺人衝動を抑える術はない。この光景を前に、壮介は悔しそうに震えている。
「馬鹿野郎……君の生き方は、俺が直視できないくらいに眩しかったのに……」
無論、そんな彼の言葉も、春樹の胸には届かない。居ても立っても居られなくなった壮介は、イデアの方へと目を遣った。
「イデア! なんとかしてくれ! この通りだ!」
「ごめん。バーサーカーウィルスの症状は、ウチの力でもコントロールできないんだ」
「そんな……」
状況はまさに絶望的であった。




