共通の敵
霞海が気付くと、そこは見知らぬ公園だった。彼女の周囲には、優也を除いたジャッカル隊の隊員たち、何らかの力によって拘束が解けた壮介、そしてイデアの姿があった。事態を呑み込めずに困惑する彼女に対し、イデアは説明する。
「今のウチらではディカルトには勝てない。だからウチが、皆をここにテレポートさせたんだよ」
何やらイデアには、ヴィクトにもバーサーカーにも備わっていない力があるようだ。いずれにせよ、彼女たちはこのまま逃げ続けるわけにはいかない。
「それで、いずれディカルトとやらを倒せる算段はあるのかい?」
春樹は訊ねた。彼の横で、和希は首を傾げながら腕を組んでいる。ジャッカル隊と壮介にとって、今頼れるのはイデアの力だけなのだ。しかし彼女の力をもってしても、まだディカルトを倒すには及ばないらしい。
「ウチの力を、キミたちに注ぎ込もうと思う。それまでに、キミたちにはウチの力を受け止められるくらい強くなってもらう必要がある。そのためにも、先ずはバーサーカーを倒して力をつけるしかない」
曰く、春樹たちには、戦いを経てある程度強くなる必要があるらしい。そこで強気な発言をするのは、壮介である。
「こんなところで弱腰になってはいられないな。同胞を殺すのは気乗りしないが、さっそくバーサーカーを狩りに行くぞ」
彼の憎しみの矛先も、今や世界ではなくディカルトに向けられている。そんな変化を前にして、春樹と和希は喜びを見せる。
「そうだね……行こう」
「やったな、春樹。壮介の奴、完全にオレらの味方になったぞ」
二人は互いにアイコンタクトを取り、拳をぶつけ合った。一方で、霞海は少し不満そうな顔をしている。
「我々五人のうち、バーサーカーが二人もいるね。厄介なことにならないと良いけど……」
この期に及んでもまだ、彼女は春樹をあまり信用していなかった。されど、彼女は壮介を仲間にすることを否定してはいない。これもまた、彼女の中での大きな変化と言えるだろう。
その時である。
「よぉ。お前らにちょっとしたサプライズをお届けしよう」
春樹たちの脳に、ディカルトの声が響き渡った。
彼は特殊な力により、こちらにテレパシーを送っているようだ。
「サプライズだと? アンタ、何かしたのか?」
霞海は訊ねた。彼女たちの脳に、笑い声交じりの返答が響いてくる。
「俺は天寺巧に、新型バーサーカーウィルスを生み出す力を授けた。アイツは今、東京港に向かい、ウィルスの感染を海の向こうにまで広げようとしているよ。果たして、お前らに阻止できるかな?」
相手を見下していなければ、わざわざ己に不利になるようなことを言いはしないだろう。彼の態度に、壮介は激昂した。
「俺たちをナメるな! それとも、罠でも張ったつもりか!」
こんな時でもなお、彼は自分が策略にはめられる可能性を考慮している。案外、彼は冷静な人物なのだろう。そこでディカルトは、更に彼らを挑発する。
「フハハハハ! 良いか? これはゲームだ。巧とジャッカル隊のなぁ!」
結局、これが罠であるか否かはまだわからない。それでも、彼らが港に赴かないからには、世界中が新型バーサーカーウィルスの脅威にさらされることになりかねない。
「すぐに東京港へ向かうぞ!」
霞海は隊員たちに指示を出した。イデアは力を発揮し、その場にいる全員を再びテレポートさせた。
彼らの送られた先は、東京港だ。その数分後、巧は遅れてその場に到着した。
「これはこれは……おじさんの大切な仲間たちを殺してくれた野蛮人どもではないか。しかし壮介が向こうにつくとは、予想外だったねぇ」
それが彼の第一声だ。それに対する壮介の受け答えはこうだ。
「ボス……いや、天寺巧。俺は君と話をしたい。」
彼はバーサーカーでありながら、無益な争いを避けようと考えていた。




