運命の悪戯
その時だった。
眩い光の球体が一発、バーサーカーのこめかみを貫いた。バーサーカーは頭部が爆発し、そのまま膝から崩れ落ちた。春樹たちが周囲を見渡すと、そこには一人の女の姿があった。
「命拾いしたようね」
そう呟いた女の手に握られていたものは、近未来的な銃だ。彼女はすぐに銃を消し、二人に背を向けた。そんな彼女に対し、和希は敵意を見せる。
「その能力……お前、バーサーカーか?」
その言葉に、女は振り向いた。彼女は呆れたようなため息をつき、己の身分を明かす。
「ご挨拶だね。バーサーカーの他にも、同じ能力を使える者がいる」
「なんだって? そんな馬鹿な……」
「アタシは森上霞海。手術によりヴィクトと化し、ジャッカル隊の隊長としてバーサーカーを駆除している者だ」
それが彼女の正体だ。なにはともあれ、彼女が敵ではないことだけは確かである。和希は安堵のため息を零し、礼を言う。
「そうか。その……助けてくれてありがとよ」
そんな彼に続くのは、春樹だ。
「ありがとう。命拾いした」
この日、霞海の活躍によって二人は生き延びることができた。しかし彼らの命は、明日には失われているかも知れない。今の地球は、そういう星なのだ。
*
春樹の身に異変が起きたのは、数日後のことだった。それは、彼が自宅のベッドに座っていた時のことである。
「殺したい……殺したい……」
突如、彼の中で殺人衝動がこみ上げた。春樹は己の掌を見つめ、一本のナイフを無から生み出す。その力が彼に備わっているという事実が意味するところは、ただ一つだ。
「僕が……バーサーカー……?」
言うまでもなく、それは彼にとって受け入れがたい真実だった。彼はすぐに生み出したナイフを消し、頭を押さえながら家の外に出る。
彼の目に飛びこんできたものは、近所を徘徊する老人の姿だ。
春樹は必死に殺人衝動を抑え、街へと出る。そこではすでに、何人ものバーサーカーが殺戮の限りを尽くしていた。そんな光景を前にして、彼は不穏な一言を呟く。
「どうせ、殺処分される命……」
彼の右手に、一本の剣が生み出された。春樹は先ず、バーサーカーのうちの一人に目をつける。彼はすぐに間合いを詰め、剣を勢いよく振り下ろす。眼前の標的はすぐに盾を作り、迫りくる斬撃から己の身を守った。
「ほう、バーサーカー同士か。面白い!」
「防がれた……?」
もはや相手を殺せるか否かは関係ない。バーサーカーたちは、殺人という行動そのものの中毒を患っているようだ。春樹は剣を振り直し、何度も相手の首を狙った。しかし相手にも、斬撃をかわそうとするだけの理性はある。無論、このバーサーカーも決して防戦一方ではない。
「ほらよ!」
彼は太刀を生み出し、春樹の腹を斬りつけた。しかし春樹に怯んでいる余裕はない。今この瞬間、相手の防御は確かに解かれたのだ。
「今だ!」
春樹は咄嗟に剣を突き出した。その切っ先は、眼前のバーサーカーの脇腹を貫いた。そんな死闘の最中、春樹は葛藤する。「人を殺したい」「人を殺したくない」――――相反する二つの想いが、彼を苛んでいるのだ。されど今は、己の殺意と戦っている場合ではない。今目の前にいる敵は、こちらを殺そうとしているのだ。春樹はため息をつき、そっと剣を降ろす。
「殺しても良い命なんかない……僕はそう思う」
「は?」
「……だけど、誰かが死ななければならないのなら、命に優先順位はあるはずだ!」
彼の握っていた剣は、禍々しい見た目に変貌した。彼はそれを勢いよく振り、標的の命を狙う。
「無駄なことを!」
春樹の目の前に、再び盾が作られた。しかし剣はそれを一刀両断し、そのまま標的の首をはねた。
春樹の勝利だ。
彼は返り血を浴びた顔を左袖で拭い、舌なめずりをした。




