二人のバーサーカー
翌日、優也はジャッカル隊の基地を訪ねた。
「今この瞬間も、バーサーカーは増加し続けています。ここは一つ、近くの総合病院に抗体を届けませんか?」
彼は提案した。無論、霞海の答えは決まっている。
「賛成。すぐにでも行こう」
思い立ったが吉日とはよく言ったものだ。しかし彼女たちは、一つ問題を抱えている。
「壮介の監視は誰に任せるんだ?」
和希は訊ねた。そこで案を出すのは、優也である。
「春樹さんに監視を任せましょう。彼を病院に連れて行っても、かえって感染が拡大するだけでしょう」
一見、これは至極真っ当な人選だ。しかし霞海には、一つ心配している点がある。
「バーサーカーを二人も残して、万が一殺し合いに発展したらどうすれば……」
バーサーカー狩りによって欲求を満たしているとは言え、春樹もまたバーサーカーの一人だ。迂闊に監視の目から遠ざけるのは得策とは言えないだろう。優也もその危険性をよく理解していた。それでも彼がこの提案をしたことには、暦とした理由がある。
「僕は春樹さんを信じます。今まで同じジャッカル隊の隊員として、彼は良い仕事をこなしてくれました。今のところ、彼は標的以外の人間を殺めていません。いかがでしょうか」
彼は春樹を信じている――――それが理由だ。優也に続き、和希も言う。
「オレも、春樹なら信用しても良いと思う。アイツは標的以外を殺すような奴じゃねぇからな」
例え春樹がバーサーカーと化しても、和希はその親友だ。霞海は深いため息をつき、隊員たちに指示を出す。
「春樹と優也は壮介を見張って。アタシと和希は抗体を届けに行く。ところで、もう抗体は用意できているの?」
通例、抗体の精製には数ヶ月の期間を要する。いくら優也が優秀な名医であっても、その常識を破ることは不可能であろう。当然、彼は抗体を用意している。
「実は壮介さんが人体実験に使われていた時、僕は知らず知らずのうちにその一端に関与させられていました。こちらが抗ウィルス薬になります」
そう言うと彼は、何錠もの錠剤を取り出した。これで準備万端だ。
「行くよ……和希」
「ああ、了解だ」
霞海は和希を連れ、ジャッカル隊の基地を後にした。
二人の去った静かな部屋で、全身を拘束された壮介が口を開く。
「なあ、君……」
「……東春樹。春樹で良い」
「春樹もいつか、アイツらに殺されるんじゃないか?」
春樹からしてみても、それは決して考えの及ばないことではなかった。
「そうかも知れないね。でも、和希と天宮先生は僕の味方をしてくれると思う」
「君は愚かだな。俺からしてみれば、バーサーカー以外の人間を信用する理由なんてないんだけど」
「それでも、和希は親友だし、天宮先生は立派な医者だ。それに、万が一僕が見境なく人を殺すようになったら、その時は殺して欲しいと思う」
バーサーカーの一人として、春樹はいずれ死ぬことを覚悟していた。壮介は呆れたようなため息をつき、質問を続ける。
「君にこの国を守る意味はあるのか? 自ら望んでバーサーカーになる者なんかいないのに、国はバーサーカーを見つけ次第駆除している。俺たちの同胞も、たくさん殺された。それでもこの国を……世界を尊いと思うのか?」
「それでも、僕は世界を護りたい。かつて僕と和希が思い描いたヒーローなら、同じ境遇に立たされてもそうするだろうから」
「君は狂っているな」
結局、彼には春樹の言い分が理解できなかった。その横から、優也が口出しをする。
「壮介さん。君は世界を救えるかも知れません。そうなれば、もう二度と君と同じ思いをする被害者は出ないでしょう」
その言葉に、壮介の表情が変わった。彼は今までの自分やゆかりが受けてきた仕打ちを思い出し、拳を震わせた。




