同胞を奪われた者
それは今から三年前のことである。当時、巧はブラッドフリーという組織の会長だった。この時、彼は決してテロ組織を結成していたわけではない。彼はバーサーカーたちを施設に集め、彼らのリハビリや社会復帰を目的に動いていた。施設にいるバーサーカーは皆、互いを殺さないよう個室に隔離されていたが、十分な食事や娯楽を与えられていた。彼らにとって、ブラッドフリーの施設はオアシスのような存在であった。
無論、巧もまたバーサーカーの一人だ。彼は己の理性を宛にせず、なるべく個室に籠るようにしていた。インターネットを介して支援金を募っていた彼は、集まった金のほとんどを自分のことに使わなかった。支援金は施設の食事やアメニティなどを充実させ、バーサーカーたちのQOLに貢献していた。しかし彼らの平和は、決して長くは続かなかった。
ある日、ブラッドフリーの施設はジャッカル隊の襲撃を受けた。霞海が当時の仲間を連れ、施設のバーサーカーたちを狩りに来たのだ。己の殺人衝動を恐れていたバーサーカーたちは必死に逃げ回り、最後まで反撃しなかった。その間、巧は彼らに避難を呼びかけ、霞海の盾となった。
しかし彼らは逃げ切ることを許されなかった。
霞海たちの活躍により、巧以外のバーサーカーが全滅したのだ。この日を境に、巧は決意した。
「バーサーカーと、それにあらざる者は、絶対にわかりあえない。我々が生き残るには、バーサーカー以外の人間を全て滅ぼすしかない!」
後に彼はビーストファングを立ち上げ、日本を震撼させるテロリストとなる。
*
そして現在、巧は同胞たちの墓を訪ねている。あの頃、彼は施設に数多くのバーサーカーを匿っていたが、その一人たりとも忘れたことはない。
「茂、晴香、孝之……皆。おじさんは片時も、アンタたちのことを忘れたことがない。ゆかり、刀真。おじさんがアンタたちを、こんな戦いにさえ巻き込まなければ……」
そんな独り言を呟きつつ、彼は次々と同胞たちの墓に花束を供えていく。その瞳には、仲間を失った悲哀と、因縁の敵への憎しみが籠っていた。
その時だった。
「ドラマとしては上出来だねぇ」
突如、彼の背後から野太い声がした。彼が振り向いた先には、禍々しい容姿をいた怪人の姿があった。
「アンタは、誰だ……?」
「俺はディカルト……お前から見たら宇宙人――――ってところだな」
「まあ、どう見ても地球上の存在じゃないな。それで、おじさんになんの用だね?」
眼前の怪人は、少なくともヴィクトやバーサーカーではなさそうだ。問題は、彼が敵か否かである。巧は生唾を呑み、相手の動向を伺った。ディカルトは彼の肩に手を置き、話を続ける。
「そう怖い顔をするな。地球では、それが相手を威圧する時の顔なんだろう?」
「御託は良い。本題はなんだねと聞いている」
「お前に協力したい。俺はそのためにここに来た」
曰く、この怪人はビーストファングの味方らしい。
「具体的には、何をしてくれるんだ?」
「お前には、そろそろ新しい仲間が必要だろう? 俺はお前に、ちょっとした力を分け与えることができる」
何やら考えの読めない男だ。そんな彼に対し、巧は依然として警戒心を抱いている。
「力……だと……?」
「新型バーサーカーウィルスを生み出す力だ。もちろん今作られている抗体は通用しないし、何より即効性がある。とにもかくにもバーサーカーを増やさないことには、お前はこの戦いに勝つことはできないだろうよぉ」
「新型の……バーサーカーウィルス……」
相手の言う通り、巧にはもう選択の余地はない。
「それで、どうするよ」
「わかった。アンタの力を借りよう」
彼はディカルトの提案を呑んだ。ディカルトは巧の肩に手を置いたまま、紫色に発光する煙のようなものを放った。




