決別
あれから刀真は、喧嘩に明け暮れた。彼は決して喧嘩が強かったわけではない。そんな彼と他者の決定的な違いは、使命感の有無だ。刀真は校内でいじめを見つけ次第、加害者に殴りかかった。無論、彼はそのたびに反撃を受けたが、例え血を流しても立ち上がった。霞海との約束を守ろうとする彼に反し、喧嘩の相手には身を削ってまで戦う理由などなかった。彼の努力により、校内の治安は大なり小なり改善されただろう。そんな彼を止められるものがあったとすれば、それは「校則」くらいのものである。
ある日、刀真は停学処分を下された。
彼が謹慎中なのを良いことに、校内では再びいじめが発生した。
「『俺のパンチに何発耐えられるかゲーム』始まるよ!」
「手ェどけろよ」
「金持ってきたか?」
生徒たちが刀真を恐れて行動できなかった分の反動が、この時になって一斉に降りかかった。彼の行動がもたらしたものは、平和などではなかったのだ。霞海は相変わらず、見て見ぬふりに徹していた。面倒事に首を突っ込もうものならば、また彼女がと割を食うこともあり得るだろう。
その時だった。
「何してんの? キミたち」
校舎の窓から、刀真が姿を現した。彼は指の関節を鳴らし、周囲の学生たちを威圧した。さっそく、彼は下級生をいじめている男子生徒に殴りかかった。この学校の生徒たちは、刀真がいかに執念深い男であるかを理解している。彼を殴り返すことは、決して意味のある行動ではない。
「まずい……逃げないと!」
男子生徒はすぐに走り出した。彼に続き、いじめに加担している他の生徒たちも一目散に駆け出した。
唖然とする霞海に対し、刀真は笑顔を向けた。
「言ったでしょ。ボクがなんとかするって!」
「アンタ……停学処分が下ったんじゃ……」
「隙を見つけて忍び込んだんだよ」
相変わらず無茶苦茶な男だ。この時になり、霞海は初めて彼に笑顔を見せた。
「あはは! アンタ、本物の馬鹿だよ! 刀真!」
「霞海……初めて笑ってくれたね。ボクは、キミのそういう顔が見たかったんだよ」
「それは、ますます大馬鹿者だよ」
何はともあれ、彼女は安堵に近い感情を抱いていた。
そんな日々を過ごしていくうちに、霞海は刀真に心を開いていった。
ある日、霞海は刀真を屋上に呼び出した。
「話って、何かな? またどこかでいじめでも起きているのかい?」
「いや、そういうのじゃないんだ」
「……?」
刀真は怪訝な顔をした。その目の前で、霞海は酷く緊張している様子だった。それでも彼女は、勇気を振り絞って口を開いた。
「アタシと付き合ってよ……刀真」
*
そして現在、霞海は今にも息を引き取りそうな刀真に対し、銃を向けている。
「馬鹿なのは相変わらずだね……刀真」
そう言い放った彼女は、銃口から光の弾を放った。弾は刀真の額を貫き、彼にとどめを刺した。
これで二人の関係は終わった。
その傍ら、和希はメリケンサックを生成し、自らの足下に倒れている壮介を睨みつけている。後は壮介さえ仕留められれば、今回のジャッカル隊の仕事は片付くことになる。しかし春樹には、違う考えがあった。
「氷室壮介は、生かしておかないか? 彼はバーサーカーウィルスに対して、抗体を持っているはずだから」
彼の提案に対し、霞海も同意を示す。
「賛成。この悲劇を早く終わらせるためにも、彼を生かしておく必要があると思う」
ジャッカル隊において、隊長の意志は絶対だ。彼女の同意により、壮介は生かされることとなった。しかし、彼がいつ殺人衝動を患うかは定かではない。そこで霞海はワイヤーを作り出し、彼の全身を縛り上げた。ヴィクトである彼女には、もう一つ重要な仕事をこなすことができる。
「さて……と」
彼女はその力をもってして、ジャッカル隊の基地を修復し始めた。




