熊狩刀真
四年前、霞海は高校で孤立していた。周りが彼女を拒んでいたわけではない。どういうわけか、彼女自身が周囲との接触を避けていたのだ。同級生たちは共通のトークアプリでグループを作っており、彼女も誘いを受けていた。しかしこのクラスにおいて、霞海一人だけが参加を拒否していたのだ。そんな彼女の愛想の悪さに嫌気が差し、同級生たちはすぐに離れていった。それが己の望んだ結果であったため、彼女はそのことを嘆きはしなかった。
ある日、霞海はいつものように図書室に籠り、一人で本を読んでいた。そこに姿を現したのは、あの人物である。
「隣、良いかな?」
刀真だ。当時、霞海は他者との接触を避けていたが、それは他の生徒から図書室を利用する権利を奪って良い理由にはならない。無論、彼女もそれをよく理解していた。
「どうぞ」
そんな一言を残し、彼女は席から立ち上がった。相変わらず無愛想な彼女に対し、刀真は怪訝な顔をした。
「キミは、人が嫌いなのかい?」
「さあ。どうしてそう思ったの?」
「キミはクラスのグループトークにも参加していないし、いつも独りだから」
彼は霞海のことをよく見ていた。当然、霞海は他者に詮索されることを吉としていなかった。
「アンタには関係ないでしょ」
そう言い放った彼女は、図書室を後にした。
それからも刀真は、毎日のように図書室を訪れた。彼はそのたびに霞海に声をかけ、逃げられた。それでも彼は、根気強く彼女との接触を続けた。そんな日々が一ヶ月近く続いた末に、ついに彼は事情を聞き出すことに成功した。
「……アタシが中学生の頃、瑠璃っていう同級生がいたんだ。その子は酷いいじめに遭っていてね。アタシはそのことを担任の教師に相談したんだ」
「それで、どうだった?」
「まるで相手にしてもらえなかったよ。結局、瑠璃は最終的に自殺に追い込まれたんだ。いじめに関与していたグループは責任の押し付け合いを始めた。そして連中は、当時気弱だったアタシに全ての責任を押し付けたんだよ」
ただならぬ過去だ。しかし彼女の話はまだ終わってはいなかった。
「酷い話だね……」
「それでアタシは、もう一度先生に相談しようとしたんだ。だけど先生は、己の体裁を保つためにアタシを悪者にしたんだよ。だからアタシは、面倒事に関わらなくても済むように、人との関わりを避けているんだ」
それが霞海の抱える事情であった。胸糞の悪くなる話を聞いた刀真は、彼女以上に憂いを帯びた表情を浮かべていた。そして彼は、決意した。
「そりゃ、まったく嫌になるね。だけどボクがなんとかする。霞海が安心して友達と笑えるような……そんな学校を作る!」
口に出すのは簡単だ。しかし、これは決して簡単な約束ではない。
「からかってるつもり? アタシは真剣なんだけど」
「ボクだって真剣だよ。キミが今この場所でも、将来的には職場でも安心できないままでいるのなら、そんな救われない話はないからさ。キミが全てを話してくれたから、ボクはキミを救ってみせるよ」
「……なにそれ。今時、テレビドラマでもそんな臭い台詞聞いたことないよ」
霞海は呆れるばかりだった。それでも刀真の真剣な眼差しは、彼が本心を口にしていたことを物語っていた。
「それでも、やれるところまでやってみる。大きな目標を掲げることが愚かなら、ボクは愚か者で良い」
「なぜアンタに、そこまでのことをする必要があるの?」
「ボクが放っておけないからさ!」
もはや説得など、目に見えて無意味だった。霞海は深いため息をつき、彼に冷たい眼差しを向けた。
「あほらしい。勝手にすれば?」
彼女はそう言い放ち、図書室を後にした。しかし刀真は口先だけの男ではない。
この日を境に、彼は常軌を逸した行動を取るようになった。




