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狂乱の失楽園  作者: やばくない奴
復讐心
14/43

叢雲ゆかり

 春樹(はるき)たちはあらゆる手を尽くした。しかし彼らは、優也(ゆうや)にまるで太刀打ちできなかった。この男は霞海の言っていた通り、並々ならぬ実力者だったのだ。訓練の最中、三人は彼に与えられた新薬を使ってもみた。体から湧き上がる力を各々の武器に籠め、春樹たちは見違えるような強さを見せた。それでも優也は無傷のままだ。やがて三人は彼の足下に倒れ、戦闘不能の状態となった。

「少々やりすぎてしまったようです。しかし、薬の効果は感じられましたよ。さあ、今日のところはこれくらいにしておきましょう」

 訓練終了だ。彼の圧倒的な強さを前に、春樹は一つ疑問を抱く。

天宮(あまみや)先生はそんなに強いのに、なぜ戦線に立たないの?」

 至極もっともな疑問である。無論、優也は決して無意味に戦闘を拒んでいるわけではない。彼の代わりに、霞海が質問に答える。

「ヴィクトを作り出せるのも、我々を治療できるのも優也だけでしょ。だから優也だけは、何があっても最後まで生き残らないといけないんだよ」

 道理の通った答えだ。

「なるほど……それにしても、強いね……」

「ふざけんな。ちょっとは手加減しろよ」

「……これが、優也の実力だよ。春樹、和希(かずき)

 春樹たちは肩で呼吸をしつつ、ゆっくりと立ち上がった。



 *



 その頃、ビーストファングの基地では、(たくみ)とゆかりがテレビを見ていた。

「ゆかりちゃんは何か、好きなことはないのかな?」

「ゆかり……マンガ、すき……」

「……そうか。どんな漫画が好きなのかな?」

「まほうで、たたかって、ひとが……しぬ?」

「なるほど。ファンタジーが好きなんだな」

 ゆかりのぎこちない話し方に対し、巧は丁寧に相槌を打っていった。そんなやりとりの中で、彼は国家に対する憎しみを募らせていた。彼は握り拳を震わせ、陰りのある表情を浮かべる。そんな彼に対し、ゆかりは訊ねる。

「おじさん、おこって……る?」

「いや、ゆかりちゃんは何も悪くない。それよりゆかりちゃん……おじさんは少しだけ席を外すとするよ」

「うん……」

 彼女の顔つきには、不安が顕れていた。巧はテレビの置かれた部屋を後にし、会議室に立ち入る。

「何かあったのか?」

 会議室の扉の奥には壮介(そうすけ)がいた。その後方では、刀真(とうま)が椅子に腰を降ろしている。

「まさか、ジャッカル隊の連中が何かし始めたのかい?」

 ビーストファングの一員として、彼もまた用件を知りたがっていた。巧はため息をつき、ゆかりの現状について語る。

「いや……ゆかりちゃんの話し方が、少々ぎこちないと思ってね。それで昨日は、あの子の通っていた中学校に電話してみたんだ。あの子が以前からあの喋り方をしていたのであれば、少なからず印象には残るだろうと思ってね」

 彼の切り出した話に、壮介たちは生唾を呑んだ。

「それで、どうだったのさ」

 刀真は訊ねた。巧はパイプ椅子に腰を降ろし、深いため息をつく。彼の口からは、ゆかりの真実と不穏な憶測が語られる。

「以前、ゆかりちゃんは明るい子で、誰とでも仲が良かったそうだ。喋り方にも変なクセはなく、良くも悪くもどこにでもいる中学生だったと。おそらくあの子の喋り方がおかしくなったのは、家族を殺されてからだ」

 現時点において、それはあくまでも憶測にすぎない。しかしそこには妙な説得力があり、壮介たちは点と点が繋がったような戦慄を覚えた。

「そんなの、絶対に許せねぇ! 俺の分だけでなく、ゆかりの分までこの国に報いらねぇと気が済まねぇ!」

「そうだね。ボクたちは、戦わなければならない。そうでなければ、この煮えくり返った怒りは収まらない」

「ボス! 命令は要らねぇぞ! 俺たちは明日にでもジャッカル隊の基地に乗り込んで、アイツら全員ぶっ殺してやるからな!」

 二人の心は怒りに燃えていた。

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