新薬
春樹たちを救出したのは、優也だった。彼は三人を連れ、ジャッカル隊の基地へと向かった。
霞海に対し、春樹は質問する。
「隊長は、ビーストファングの一人と面識があったみたいだね。一体、君たちはどういう関係なんだい?」
その質問に他意はない。これは彼にとっての素朴な疑問であった。そこで霞海は、刀真のことについて語り始める。
「熊狩刀真――――あの人はかつて、アタシの恋人だった」
「恋人……!」
「心配しないで。アタシはあの人を殺す決心がついているし、もう未練はない。アタシがフッた男だもの……バーサーカーと化したことを理由にね」
彼女の無慈悲さたるや、もはや元恋人を前にしても容赦しないほどであった。一先ず、これで刀真にまつわる話は終わりだ。
優也は注射器を取り出し、話を切り出す。
「さて、皆さん。僕に注目してください」
彼が手にしている注射器には、何らかの薬品が入っている。少なくとも、これには何らかの意味があるだろう。春樹たちはすぐに彼に注目し、話の続きを待つ。それを確認した優也は、薬品について説明する。
「これはヴィクトやバーサーカーの戦闘能力を高める薬品です。生み出す武器の強度などが上がります」
相変わらず優秀な医師だ。彼は人間をヴィクト化するだけでなく、ジャッカル隊の隊員たちを強化することも頭に入れていたようだ。しかし新薬を前にすれば、当然相応のリスクを懸念する声も出る。
「それで、副作用は?」
春樹は訊ねた。優也は室内を歩き回り、副作用の有無についても言及する。
「心配には及びません。今のところ副作用は見られていませんし、仮にあったとしても他の薬で抑え込みます。僕に不可能はありませんよ」
頼もしい宣言だ。続いて質問するのは、和希である。
「オレたちの体で、新薬の実験をしようとしてねぇか?」
そんな疑念が生じるのも無理はない話である。それに対し、優也はこう答える。
「この新薬を使うか否かは君たち次第です。僕だって無理強いはしませんよ。もっとも、今のままの君たちがビーストファングと戦えるとは思えませんけれどね」
至極もっともな意見だ。
もはや四の五の言っている場合ではない。春樹は決心する。
「僕は……薬を使う」
そう言い放った彼には、一切の迷いがなかった。彼に続き、霞海も言う。
「元より、アタシは手術に失敗する可能性を覚悟してヴィクトになったんだよ。」
これで残りは一人となった。和希は気乗りしなかったが、優也の提案を呑むことにする。
「わかった。オレも使ってみるとするよ」
これで全員が治験者だ。優也は穏やかな微笑みを浮かべ、三人にある提案をする。
「さて、いきなり本番を迎えるのも不安でしょう。ここは一つ、僕が練習相手になりますので、さっそく戦闘の訓練をしませんか? もちろん、薬のテストも兼ねてのことです」
悪くない提案だ。しかし彼の実力を知らない春樹と和希は、怪訝な顔をするばかりである。
「本当に大丈夫?」
「オレたち三人をいっぺんに相手にするのか? お前、本気で言ってるのか?」
二人が困惑するのも無理はない。彼はあくまでも医師であり、ジャッカル隊の主戦力として戦線に立たされている男ではない。戸惑いを隠せない春樹たちに構うことなく、霞海は言う。
「さっさと始めるよ。春樹、和希。こう見えても、優也はなかなかの実力者だよ?」
隊長である彼女がそう言ったのであれば、間違いはないだろう。春樹と和希は互いにアイコンタクトを取り、すぐに身構えた。
「手加減はしなくても良いかな?」
「どうやらそのようだな。手加減は無しだ」
二人は臨戦態勢である。そんな彼らに流し目を向けつつ、優也は微笑む。
「それでは、訓練を始めましょう」
そう言い放った彼の表情は、余裕に満ち溢れていた。




