バーサーカーの家族
あれから数日が経ち、ジャッカル隊のもとにはいつものように通報が入った。
「家族ぐるみでバーサーカーと化した一家……ね。行くよ、春樹。和希」
霞海は二人に指示を出し、すぐに現場へと向かった。
今回の標的の家族構成は、核家族だ。霞海は銃を構え、先ずは成人した男女の命を狙った。その光景を前に、一人の少女が叫ぶ。
「殺さないで! お母さんとお父さんを殺さないで!」
無論、彼女の声は霞海には届かない。霞海は春樹たちの方へと目を遣り、容赦ない指示を下す。
「何をしているの? 二人とも、ちゃんと戦って!」
彼女はそう言ったが、春樹たちには迷いがある。
「罪のない女の子から、家庭を奪うことなんて……僕にはできない」
「ああ、オレもお断りだ」
ジャッカル隊に入隊してからまだ日の浅い彼らは、まだ温情を捨てきれていない。霞海は光の球体を乱射しつつ、怒りの籠った声を張り上げる。
「惑わされるな! この家庭を守ることで、より多くの家庭が失われることになるんだぞ!」
もっともな言い分だ。春樹は深いため息をつき、手元に剣を作り出した。彼は成人女性の方へと詰め寄り、剣を振り下ろした。
「やめて!」
少女の叫びもむなしく、彼女の父親は深い切り傷を負った。続いて、和希は金色のメリケンサックを装備し、彼女の母親に殴りかかった。
「ねえ! やめてったら!」
無論、ジャッカル隊の三人は、少女の言いなりにはならない。霞海は銃を乱射し、春樹は剣を振り、和希は標的を殴り続ける。その光景を前にして、少女は息を呑んだ。このままでは、彼女自身の命も危ない。
「お母さん、お父さん……ごめん……」
彼女はそう言い残し、その場から逃げ去ろうとした。
「逃がさない!」
霞海は即座に彼女に銃を向け、光弾を放った。少女は盾を生み出し、己の身を守る。同時に、彼女は煙幕を生み出し、己の姿を煙の中に隠した。
「なっ……!」
霞海が驚いたのも束の間、少女は一瞬にしてその場から姿を消した。
あれから数時間後、少女は自宅のあった場所へと引き返した。そこは瓦礫の山と化しており、その付近には二つの死体が転がっている。片方は彼女の母親、もう片方は父親である。
「お母さん! お父さん!」
彼女は両親の体を順番に揺すった。しかし、二人が動き出す様子はない。
「うっ……」
少女は己の口元を押さえた。彼女の胃から口にかけて、酸っぱい匂いが込み上げてくる。そして彼女は、その場で嘔吐した。それから彼女は口元を拭い、涙した。彼女の両親は、ジャッカル隊に殺されたのだ。
「憎いかね? お嬢さん。ジャッカル隊の連中が……」
突如、少女の背後から声がした。彼女はすぐに振り向き、ダンディーな中年男性の姿を目にした。
「アナタは……?」
「おじさんは天寺巧――――ビーストファングのボスだ。このままだと、お嬢さんが連中に殺されてしまうのも時間の問題だろう。気の毒なものだ」
「うぅ……ゆかり、なにも、わるいこと……してないのに……」
少女は何度も己の目元を拭った。しかし、溢れ出る涙が止まることはない。そればかりか、彼女の喋り方はいささかぎこちなくなっていた。
そこで巧は、彼女に提案する。
「おじさんと一緒に来ないか? えっと、名前は……」
「叢雲ゆかり……」
「ゆかりちゃんか。是非我々ビーストファングの一員になって欲しい」
「それは、なに?」
「テロリズムだ。我々はバーサーカーが安心して生きていける世の中を作るため、国家に一矢を報いる……そういう組織なんだよ」
もはやバーサーカーに、手段を選ぶ余裕などないのだろう。現に巧は今、年端もいかない少女をビーストファングに加えようとしている。ゆかりは暫し迷い、それから答えを出す。
「ゆかりも、戦う」
こうしてビーストファングは、新たな戦力を確保した。




