それぞれの怒り
数日後、水成の携わっていた人体実験の件は明るみとなった。テレビにはマスコミや野党に囲まれる彼の姿が放送され、物議を醸している。
「杯! お前は悪魔だ!」
「国民はお前のモルモットじゃない!」
「命をなんだと思っているんだ!」
国会では様々な野次が飛び交った。しかし水成は、まるで反省の色を見せていない。
「貴方がたの意見は……百点満点中、零点です。元々、『氷室壮介』は死刑囚でした。本来無駄遣いされるはずだった命を、私は社会の役に立てたのです」
それが彼の考えだった。その言葉は押し寄せた人々の更なる怒りを買い、大手SNSでも「社会の役に立てた」がトレンド入りする事態となった。
このニュースを踏まえ、ジャッカル隊の四人は話し合う。最初に口を開くのは、優也である。
「胸糞の悪くなるニュースですね。しかし、説明責任を果たしているとは言え、ヴィクト化手術で何人もの廃人を出してきた僕も同じ穴の貉かも知れませんね」
そう語った彼は、どこか自嘲的な微笑みを浮かべていた。彼に続き、春樹と和希も言う。
「少なくとも、かつて僕と和希が憧れたヒーローはこんなことをしない。この世知辛い現実には、本当のヒーローなんていないんだろうね」
「オレたちの仕事は、あくまでもバーサーカーを駆除することだ。だけどオレは、あのふざけた総理大臣をぶん殴らねぇと気が済まねぇ!」
当然だが、ここまでは水成に否定的な意見しか出ていない。その流れを破るのは霞海だ。
「アタシは良い仕事をしたと思う。誰かが死なないといけないご時世なら、より死を悲しまれない命を奪うしかないんじゃない? 命には優先順位があるんだから」
奇しくも、その考えは春樹がバーサーカーを狩り始めた理由と合致するものだった。つまるところ彼には、彼女の意見を理解できてしまうのだ。
「命は、平等ではない……」
そう呟いた春樹は、蔭りのある表情でうつむいていた。霞海はため息をつき、今後のジャッカル隊の方針を固める。
「何はともあれ、長期にわたってバーサーカーウィルスを投与され続けた人間が独房から逃げ出したのは事実。我々は絶対に彼を捕え、独房に戻さなければならない。アンダスタン?」
もはや彼女に、慈悲というものはない。
*
その頃、壮介はとあるビルの一室にいた。その目の前には、彼を助けた中年男性の姿がある。
「……自己紹介をするとしよう。おじさんは天寺巧――――ビーストファングという組織のボスだ」
「ビーストファング……?」
「バーサーカーの人権を守るために戦うテロ組織だ。我々の力を結集させて、アンタが無実の罪を着せられた経緯を洗い出したぞ」
「……!」
巧の言葉に、壮介の表情が変わった。巧はもったいぶらず、すぐにその内容を述べる。
「アンタの親父――――氷室浩司は昔、とある女に一方的な恋愛感情を抱き、ストーカーと化した。やがてそれだけでは満足できなかった彼は、その女を気絶するまで殴り続けたんだ」
「俺の親父が……そんなことを……」
「その後、浩司は女を空き家に監禁し、本能の赴くままに欲求を満たしていった。最終的には、まるで振り向いてくれなかったそいつに逆上し、彼は女を殺害したんだ。浩司が少年院に入るまで、遺体はずっと空き家に放置されていたという話だ。そしてその女というのが、杯水成の実の姉だった」
あの人体実験の背景には、こんな因縁が根付いていたようだ。壮介は怒りに燃え、肩を震わせた。
「俺は、親父への復讐のために利用されたのか……!」
「アンタもあの男が憎いだろう? おじさんたちに協力すれば、水成の殺害を手伝ってやろう」
「ああ、協力しよう。バーサーカーが人権を求めて……何が悪い!」
一先ず、利害は一致した。こうして壮介は、ビーストファングの正式なメンバーとなった。




