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嘘人  作者: 兎屋
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嘘人 第二章 前編

 

           「家族」

          

   2001年某月某日


        「家族なら当たり前」


現在の私を未だに苦しめる呪いの言葉「家族」一見、温かくも聞こえるが。家の場合は意味が少し違っていた。


私が中学に上がると同時に、母の勤務時間もパートからフルタイムに変わっていった。兄も高校入学して、わずか一週間でアルバイトを始めていたのた。基本、学校→バイトなので2とも朝早くから家にはおらず。ましてや兄とは、この頃からほとんど顔を合わせることがなくなっていた。親父の仕事が決まらず3ヶ月ほどたったある日の事だ。


母「じゃあ洗濯、掃除、風呂洗い、お米4合研いどいて」


私「掃除は昨日もしたよ?風呂も昨日も洗ったし、洗濯物ってたたむまで?米はすぐ研げるから良いけど。」


母「はい、出ました。あぁ言えばこう言う。アンタは言い訳が多いんだよホントに!!!いいからやんなさい。家族なら困った時は助け合うのが当たり前だから!


私「親父に頼めば良いじゃん!いつも家にいるし。それか兄ちゃんじゃダメなの?」


母「バカだね!お父ちゃんは職探しに忙しいでしょ?!お兄ちゃんはアンタと違ってアルバイトして家にお金だって入れてくれてるんだから!あ、アンタどうせ暇なんだからお父ちゃんの分のお昼ご飯も作っておいてあげな!じゃあ、行ってきま〜す」


たしかに兄はアルバイトをして家にいくらか納めている。本人に直接聞いたので間違いない。驚くべきはその金額だ。兄は当時、高校一年生にして家に5万円も納めていたのだ。見方によっては、よくできた。できすぎている息子だと思う。真実は単純にピンハネだ。親父が仕事を辞め、テーブルの上に求人広告より競馬新聞の方が増えてきた頃、少しずつ家の経営は傾いていっていた。私は祖父から働いて、または祖母から『嘘人』のテクを用いて得た、金の味しか知らないのでこの時はまだ、「お金の本当の価値」をよく理解できずにいた。


私「あぁもう最悪ホント」


母「なんか言った?言うこと聞かないなら出てってくれて全然構わないからね?元々アンタは橋の下から拾ってきたし」


私「わかった、やっとくよ。行ってらっしゃい。」


この矢継ぎ早のやり取りが、朝早くから行われるのだ。母のやり口は決まってこうだ。まず自分が仕事に行く朝、7時30分ギリギリに寝ている私を起こし、起きたと同時にその日のスケジュールを全て私に投げ、2〜3分会話すると、こちらの返事も聞かずパートに行く。一言でも言い返すと秒でキレてくるので最初のうちは反抗していたが、次第にこのやり取りが面倒になり言い返す事をやめた。橋の下の件は、どういう気持ちで言っているのか?おもしろいとでも思っているのだろうか?いつまで言うつもりなのだろか?もしかしてホントにそうなのか?頭の中で勘ぐってしまう事もあった。


私「パパッとやっちゃうか。昼飯はチャーハンで良いや」


一刻も早く自由になりたかったので、母が行ったと同時に居間の掃除機をかけた。親父が隣の寝室から起きてきて私の頭を突き飛ばす。


親父「何時だと思ってんだオメェ?!うるせーんだよ!」


私「ごめんなさい」


親父「ッチ……ったくよぉ」


中学に上がり、説教の頻度は極端に減っていたが、それでもいつ、起こるかわからない嵐に耐えなければならない状況は相変わらずだった。親父のキレるポイントは今でも未だに理解できない。…暗雲から光が差し込むのをジッと待っていた。いつかきっと状況は変わる。止まない雨は無いのだ。

私は気を取り直し、洗濯機のスイッチを入れた。心の奥底から湧き上がる不条理に対する怒りを抑え込みながら。


           「1vs5」


中学になると門限が18時に伸ばされた。喜びたかったが仲の良いレイジは野球部、ナオトとは距離を置き気味、他の友達も部活動とハッキリ言って、今更門限を伸ばされたところで私の周りには遊び相手が誰1人いない状況だった。一度だけバスケ部に入部したが、中2の時に先輩や同級生とモメて以来1日も行っていない。原因は、同じレギュラーのポジションを争っていたサワダと。そのサワダに空気を入れられた、一つ上のヤマザキ、顧問のナカヤマである。


サワダ「絶対走った!お前はいなかっただろ?」


私「いや?毎日走って記録してるから知ってるよ。嘘つくなよ」


サワダ「嘘なんてついてねーよ。」


私「いやいや余裕でついてるだろ。なんでそんなペース早いんだよ?おかしいだろ!スーパーマンかよ?」


バスケ部には当時「鉄の掟」があり。

中学2年に上がる年にバスケットシューズ(以下バッシュ)を履く事を許されるのだが、その際に校外150周ランニングを完了した者から順に、先輩に報告し許可を得なければならなかった。校外1周の距離はおよそ1.7キロ。最短でバッシュを履くには朝練と夕練、二つの時間を合わせて一日15周×10日。で、クリアとなる。家にいたくなかった私は朝練の始まる7時30分より1時間30分早い、朝6時から1人で走っていた。もちろん、私とは違う理由、単純に早くバッシュを履きたいから。という理由でごく稀に私とスタートが被る同部員もいたのだが、サワダだけは7時30分以降からしか姿を見せなかった。それなのにサワダは私より2日も早くバッシュを履き、体育館で先輩らと混じり練習していたのだ。バカな、バッシュレースの現在一位は私か。いても他1人くらいのはずだった。何が起こっているのか?頭にきて練習中のサワダに問い詰めた。


私「まだ150周走ってないだろ!なんで練習してんだよ!」


サワダ「走ったし。」


私「走ってない。毎日のように6時から走ってるから知ってるぞ!嘘つくなよ」


サワダ「嘘なんてついてねーよ!めんどくせーやつだな。夕練終わった後に走ってたんだよ」


私「朝練〜夕練の間で走った距離しか認めないんじゃなかった?」


サワダ「でも、それでも走ったし、お前は夕練終わったらすぐ帰ってたじゃん」


私「……これアリなんですか?ヤマザキ部長?」


ヤマザキ部長「まぁ走った事には変わりないんだし別に良いんじゃね?てか、お前こそ早く走ってこいよ」


私「でも部活時間中に走った距離しか認めないってルールだったじゃないですか?」


ヤマザキ部長「あぁ、思い出したわ!それ去年の代でおしまいで、今年からは部活時間以外のランもカウントされる事になってたわ」


私「は?そんなの聞いてねーよ!皆知らないと思いますよ?」


ヤマザキ部長「あ?お前誰にタメ口聞いてんだ?」


私「アンタだよ!サワダだけひいきすんのおかしいだろ!走ってないっすよ?ソイツ」


ヤマザキ部長「お前もう明日から部活来なくて良いよ」


私「え?どういう事ですか?」


ヤマザキ部長「そのままの意味。おつかれー!皆!練習しようぜー」


私「ちょっと待ってください!」


ヤマザキ部長「」


無視。これがヤマザキ部長(以下ヤマザキ)の答えだった。ネタバレするとこうだ。当時同じセンターのポジションを争っていたサワダは私より太っていて、背も私よりやや低かった。バッシュどころか、レギュラー勝負の雲行きすら怪しいと思ったサワダはヤマザキと他の同部員に空気を入れまくっていたのだ。私が部活をやめた少し後に、やめた部員が教えてくれたので裏は取ってある。


『ヤマザキ部長の事をクソチビと言っている』


空気入れの中で抜群に効果があった言葉がこれだ。ヤマザキは背が小さかったのだ。実は同学年でもヤマザキに背の話題を出すのは禁句だったのだ。加えてヤマザキは性格もイジワルかった。特に、自分に意見をしてくる人間。自分をチビと呼んでくる人間。この辺ヤツらに対しての可愛がりは容赦なかった。


ヤマザキ「俺が良いって言うまでスクワットな」

ヤマザキ「俺が良いって言うまで走ってこい」

ヤマザキ「そのレアカード俺にくれよ」


何回かこう言う場面に自分も出会したことがあったが、親父より怖い人間は当時いなかったので、反抗はせずとも大人しく従っていた。飼い犬に手を噛まれた上にクソチビと言われヤマザキは盛大に勘違いしていた。一方空気入れが、うまくいったサワダはそこから一気にスターダムを駆け上がりレギュラーの座を手に入れた。サワダと同部員、先輩らは帰りの学区が一緒なヤツが多くヤマザキもその一人だった。サワダの私に対する空気入れが先輩らに浸透するのに時間はそうかからなかった。


ナカヤマ「部活の事はヤマザキに任してるから」


私「でも無視されてるんでキツイっすよ」


ナカヤマ「おれさぁ、家庭科部も兼任してんのね?だから悪いんだけどヤマザキと話してもらえる?」


私「無視されてるのに?」


ナカヤマ「あー、じゃあ明日聞いとくよ」


私「明日って」


ナカヤマ「とりあえず、今日はもう帰ったら?」


私「もういいです」


顧問のナカヤマである。彼について書く事は少ない。

後にヤマザキ含める上級生3人に体罰を行い。他校に飛ばされていった。私のためではなく、ヤマザキ含める3人の3年生がナカヤマが体育館を訪れた際に、モップでやや激しく遊んでいたらしい。運悪くそのうちの1人が投げたモップがナカヤマの後頭部に直撃したのだ。ナカヤマはキレて、その内の1人を青タンが出来るまで殴り、バスケ部の3年は最後の関東大会予選にすら出してもらえず、そのまま卒業という異例の事態に。悪いがこの話を聞いた時は心底胸がスカッとした。が体罰はその3人だけに止まらず同学年で被害を受けてるヤツもいた。男女平等なスタイル。顔がセクハラ。女子生徒の間では有名な話だった。事が大きくなり、飛ばされて行った。そしてチームメイト、先輩、顧問。全てに裏切られた私を待っていたのは親父と母の罵声だった。


親父「オメェは部活も行かず毎日何やってんだ?」


私「先輩にシカトされてるから行っても辛い」


親父「逃げてんじゃねー、そんな先輩ならボコっちまえよ」


私「そんな事できるわけないじゃん。しかも部長だよ?」


親父「そんなのはカンケーねー!女の腐った様な事ばかり並べやがって!お前は能書きが多いんだよ」


母「そうだよ。第一アンタ?!バッシュいくらしたと思ってんの?買って買ってせがむから買ったらこれかい?いつも本当長続きしないね!!!バッシュ代返しな!!!」


これは現実か?


私「もういい!出てくから!お世話になりました!」


しまった。


父・母「おーおー鍵置いてきな!」


度肝を抜かれる展開である。追い打ちをかけるような二重の説教。バッシュ代の返金。何より生まれて初めて両親に向かって言った「出て行く」しかし結果は「鍵、おいてきな」そうか。そうか。やはり、私はその程度の人間だったのか。私はバックに服と財布を詰めると、祖父母の所にとりあえず行こう。そう思い玄関のドアノブに手をかけガシャン!!!…つもりだった。実際は玄関に向かう途中に酔っ払った親父がキレて私の顔を水槽に叩きつけた音だった。ヒビ割れた水槽のラインを、まるで縁取るかのように鮮血が滴り落ちて行った。瞼を9針縫った。改めて、コイツらに逆らったら駄目だなと理解し同時に暗く大きい絶望の帳が私の事を包み込んでいった。神様。いるなら本当に今すぐ助けてくれ。もうキツすぎる。


            後書き


       『嘘』カンケーないじゃん。

       『この物語はフィクションです』


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