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雨宿り

黒髪黒セーターの綺麗なお姉さんと一緒に雨宿りがしたいです。(女)

【№1 灯篭】 


*


初めまして、こんにちは。わたくしは灯篭とうろう、と申します。貴方様は、”灯篭”をご存じですか?灯篭とは、東アジアの伝統的(でんとうてき)照明器具(しょうめいきぐ)の一種です。「(かご)」とも「(かご)」とも読めますね。伝統的行事として、一部の地域では”灯篭流し”が行われています。


...少し話が長くなってしまいましたね。さて、今回お話しする物語はわたくしの後ろの棚の一番右上端。「裏ファイル№1」のお話です。


*


 俺は三年前からフリーのライターの仕事をしている。過去三年のそれまでの実績(じっせき)が認められ、最近は非常に好評(こうひょう)だ。俺は今回、(めずら)しい案件(あんけん)を受けた。

「あの...」

「あぁ、すみません。少し考え事を」


今現在は今回の記事のもととなる”お話”を聞きに来ている。その”お話”というのは、どうやら「動く」らしいのだ。灯篭流し(とうろうなが)で流された命が。

これが”黄泉(よみ)がえり”というものなのだろうか。にわかには信じられない。しかし、これは仕事。あるわけがない、そう思ってもさぞ信じているかのように”お話”をしている相手と対話をしている。自分でも性格が悪いとは思うが、幼少(ようしょう)のころから「こんなん」だったから、仕方がない。


 ■■県▲▲村のとある民家(みんか)

俺は小夜子(さやこ)という女性から”お話”を聞かせてもらっている。彼女が言うにはこういうことらしい。


*


「小夜子~」

「小夜子~」


聴きなれた声が、私の大切な人の声が、聴こえてきた。私を呼ぶ優しい声。(まぶた)を閉じると、今にも彼と過ごした日々が浮かんでくる。


 夏、私と和也(かずや)は一緒に村の外れにある(おか)の上でラムネを飲んでいた。その丘は本当は入ってはいけない場所で、綱を越え、私たちは丘に登っていた。

 あの頃は、まだ(たが)い18歳で子供だった。少し日焼けしすぎた健康的な肌は、(おさな)さを表していて、とても愛おしかった。そんな日々。


私たちは、急に降り出した嵐のような雨。私たちは走った。村の外れっていってもそこそこの距離があって、私たちは「これはたまらん!」って二人で笑いながら洞窟(どうくつ)雨宿(あまやど)りをすることにした。

あの時は私も、和也もなんとも思わなかったけれど、あんなところに洞窟なんて、ないのに。

 それからはもう本当に長かった。外は雨のせいもあってか、おかしいぐらいに暗くて、本当に不気味(ぶきみ)だった。

薄暗く、不気味さを帯びている洞窟内はまだ18歳の若人の私たちは、とても恐怖を感じていた。洞窟の奥から大蛇(だいじゃ)でも出てきそうな物々(ものもの)しい雰囲気(ふんいき)におされながらも、奥へ進むとそこには亡くなったはずのお祖母(ばあ)ちゃんがいた。


「お祖母ちゃん...!」

「お母さん...!」


二人ははっとして互いの顔を見合わせた。二人の()えている”モノ”が違ったからである。

私は「お祖母ちゃん」、そして和也は「お母さん」。私たちは今現在の自分たちの置かれている状況に身震いをした。

互いの大切だと思っている人に化けているこの”モノ”はなんなのだろうか。考え出すといろいろな考えが思い浮かび冷汗(ひやあせ)は止まらない。


 「おっ...お前は何者なんだ!?」

続けて和也は言葉を重ねる。「なぜお母さんの姿に成りすますんだ」「なぜ」「なぜ」「なぜ...」

沢山(たくさん)の言葉を投げかけ、その言葉はこの寒々(さむざむ)しく、重々(おもおも)しい洞窟の中に溶けていった。

何を問いかけても、一向に”モノ”黙ったままであった。笑ったまま、その場を動かない。微笑んだお祖母ちゃんの顔が、とても怖く見えた。


 「...ぁ..あ...」

”モノ”は微かに、声を発した。しかし何を伝えたいのかは全く分からなかった。

「な、なんなのよ...」

思わずつぶやいた、その時だった。その”モノ”は大蛇へと成り代わり、目にも止まらない速さで大口を開け、こちらへ向かってきた。

グッと目をつむり、次に来る衝撃(しょうげき)と痛みを待っていた。しかし、いくら待っても、痛みも、衝撃もやってはこない。

恐る恐る目を開けると、”モノ”は背後にいた。私は、移動しただけか、と胸をなでおろした。しかし、ふと、横を向くとそばにいたはずの和也が忽然(こつぜん)と姿を消していた。よく見ると、背後にいた大蛇は何かを食していた。


 食していたのだ。手を、足を、頭を。最初、私は”ソレ”がなんだか、認識ができなかった。認識を、したくなかった。でも、それでも、”ソレ”は確実に和也()()()。もう原型も分からない。しかしそこにあるのは、大蛇が吐きだした和也の服が”ソレ”が和也である、と何よりの証拠(しょうこ)だった。


私は泣きながら走った。しかし、走っても走っても、洞窟の外にはでることができない。

「なんで!?どうしてよ!!」

背後(はいご)からは尚も続く、地を()う音。その音は私の恐怖心をさらに(あお)る。

どうしたらこの状況から逃げられるのか、何度思考しても答えは出ず、(つい)に私は死を受け入れようとした。


「っは...はぁっ...はっ...」

私は息を整えながら、私は覚悟(かくご)を決めて、目を(つむ)った。


「ぁ...!」

「...え?」

先ほども聞こえた声だった。


「ま...って...!」

「き、聞こえないよっ」


真言(マントラ)を唱えなさい」

「えっ」


私は真言(マントラ)の意味がわからなかった。でも、心の奥に引っかかて出てこない、そんな感覚。知っている、知っているのに、その真言がわからない。血を這いずる音はされど近づいてくる。

近づけば近づくほどに、焦る。


突然、私は(かつ)ての情景が目の前に浮かんだ。

「小夜子、お前は私の大切な子だよ」

母が、微笑んでいた。そして、私に優しい声色で言った。


「小夜子、お前の真言(マントラ)は______だよ」


ザアァッと、冷たい風が吹き抜けた。すべてを理解した私は、真言(マントラ)を唱えた。


 目を覚ますと、私は見覚えのある天井が見えた。どうやら、私は綱の向こう側で倒れていたらしい。

そして、私は事の顛末(てんまつ)を村の大人たちにすべてを話した。

勿論(もちろん)、たくさん叱られたし、あれだけ優しかったお父さんが、叩いた。母は泣いていた。


「小夜子ちゃん...あの洞窟はね、大蛇の住む洞窟なんだ」


 それから村長は教えてくれた。

この村に昔からある、あるお話のこと。昔、凶作であった際に生贄(いけにえ)として女子供を洞窟の主に差し出した。かつては山の主、大猪(おおいのしし)様がこの村の神であったという。

そうして何度も、生贄を差し出しているうちに、いつしか生贄の塊が、魂が集まった。それはどんどん大きくなり、(またた)く間に一つの大蛇となった。大蛇は全てを憎んでいた。だから、あの場所に人間が来ると、人を食べてしまうらしい。

 しかし、そんな洞窟も発展が進んだ現代では、洞窟も壊され、なくなったはずであった。しかし、時折未だに現れるらしいのだ。あの()まわしく、(かな)しい洞窟が。


「それが、小夜子ちゃんと和也くんが見た、あの大蛇さ」

「そんな...そんなわけが分からない”モノ”に和也は殺されたっていうの!?」

「小夜子ちゃん...」


信じられない。信じられないけれど、確実に事実だった。現に、本当私が、私たちが体験したことなのだから。


 和也は死んだ。それを受け入れる意味でも、灯篭流しを行った。流す直前、川の向こうに和也が見えた。

驚いたが、本当に和也だった。川の向こうにいる。(むご)く食べられたはずの、和也が。

私は必死に追いかけた。突然私が川の中に入り始めたので、村の物はひどく驚いたという。私は林を駆け抜け、遂に捕まえた。しかし、和也は服を着た骨だけの状態になっていた。私は、再度また叫び声をあげて、倒れたらしい。


目が覚めると、いるんです。白骨化した和也が、ずっと私の視界に。


*


「おいで、おいでってね」

「なるほど、それで、今も?」

「ええ、いますよ」

 何ともばかばかしい”お話”だった。大蛇(だいじゃ)?生贄(いけにえ)のささげられた洞窟?そんなものを誰が信じるというのか。大方、この小夜子と名乗る女は、何かの原因で、和也が亡くなったことを皮切りに、気に触れてしまったのだろう。そうして、こんな世迷言(よまいごと)をは話しているのだろうか。


「...あちらにいますよ」

「ええ、そうなんですか?怖いですねぇ」

「あっ...」


 突然、小夜子が恐怖混じりの表情を浮かべながら、こちらを見ていた。いや、正確には俺の背後を。

後ろを振り向くと、白骨化した、ぼろぼろで目の奥から(うじ)がはい出てきていて、まるで泣いているかのような、怒っているかのような表情を浮かべて、俺を見下ろしていた。


「うわああああああ」


 俺は叫んだ。そして、一目散にこの▲▲村から逃げた。



 あの顔は、この”お話”を書いている今でも忘れられない。あの顔は、俺を憎んでいた顔であったように思う。それが何故なのか、気持ちが落ち着いた今でもわからない。

しかし、確かに感じているのは、映るのだ。視界の隅に。


オ レ ノ シ カ イ 二 ウ ツ ル


*


 灯篭、如何でしたか?わたくしも北の国の田舎出身でした。でも世の中にはこんな怖い村もあるのですね?灯篭で送り出したはずの和也様が帰ってきた...小夜子様はどう思われたのでしょう?


ふふふ、実はですね、ここだけの話。小夜子様はあれだけ怖がっておられましたが、今は和也様とご一緒になれらたようですよ?

一緒に、ね。

どうご一緒になられたのかは、貴方様のご想像にお任せ致します。


それでは、次のお話するファイルを取りましょうか。今手がふさがっているので、右上端から二番目の「裏ファイル№2」を取ってくださいますか?


ふふ、そうです。そこです。ああ、ありがとうございます。


それでは、お話いたしましょう。このお話は__________



*

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