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殺人ウサギ、悩む

 それから随分長い間、ドアの真前でしゃがみこんで動けなかった。

 どうしよう、本当にどうしよう。

 一番マシなのは洞窟に帰って誰にも会わないように閉じこもることだ、入口は岩かなんかで塞いでしまえば、もう誰に会うこともない。

 それが一番だ、だけどここを離れたくない、あの人に二度と会えないなんていやだ。

 幼い頃にやってきた人間からこんな話を聞いたことがある、『兎は寂しいと死ぬ』。

 あの時はそんなバカなと思ったけどその通りだった。

 あの頃は『寂しくない』を知らなかったから大丈夫だった、だけど『寂しくない』を知ってしまった私は、もう『寂しい』に耐えられそうにない。

 そしていっそそれで本当に死んでしまえばいいとすら思うけど、殺人ウサギの生命力じゃそれすら無理だった。

 今だって寂しい、あとどのくらいあの人に会えないのだろうか?

 もう二度と会ってはいけないと思うのに、今すぐにでも会いたいと思う、矛盾している。

 どうして私はあの時きれいに死ねなかったんだろう、死んでいればこんな矛盾に苦しむことはなかったのに。

 そんなことを延々と、いつまでもいつまでも。

 ふと鼻先に嫌な感触を感じて目を開く、結構大きめな蜘蛛が。

「ぅぎゃっ……!!?」

 思わず悲鳴を上げて立ち上がる、ふと周囲を見渡すと、長い時間掃除をしていなかったせいであちこちに埃がたまっている。

「おそうじ、しなくちゃ」

 これ以上考えるのが嫌で、私は現実逃避のために掃除を始めた。

 掃除をしてお風呂にも入って、久しぶりにお買い物のために外に出てみる。

 殺人ウサギだから食事なんてしなくてもへっちゃらだけど、あの人が帰ってくるまでに私が何も食べていないと知ったら、きっと心配するだろうから。

 沢山いる人間達をうっかり手癖で殺してしまいそうで、それをやってしまう自分が簡単に想像できて、怖かったけど頑張って普通の人を演じる。

 そうやって歩いていたら、横から声をかけられた。

「あ、おねえちゃん!! だいじょうぶ? 二週間くらいみかけなかったから……」

 声をかけてきたのはあの人が国を出ていった日にあの人の家の前で私に声をかけてくれた子供だった。

 あれから二週間も経っていたのかと思いつつ、口を開く。

「だいじょうぶ……ちょっとだけ……えっと、風邪気味? で……」

 実際はなんともなかったのだけど、人間が家に引きこもる理由が他に思いつかなかったのでそう答えた。

 小さな人間の子供は目を大きく開いて「え!?」と叫んだ。

「風邪ひいてたの? だいじょうぶなのもうくるしくない??」

「うん。だいじょうぶ……心配しないで……」

 そう答えると子供はまだ心配そうな顔をしていたけど、遠くから母親らしき女に声をかけられて「あっ、お母さん!! じゃあねおねえちゃん!! おだいじに!!」と叫んで元気よく去っていった。

 あの子供が私の正体を知った時、怖がるだろうか、泣くだろうか、それとも怒るだろうか?

 あの人は、どう思うだろうか。

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