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3、聖女セレス

 



「聖女セレス。神より与えられた大いなる力の持ち主として、この世の平和のために尽力して欲しい」


 神官長のお言葉に胸が熱くなる。

 私の名前はセレス。

 今日からは聖女として生きていく。


 私には前世の記憶がある。ちなみに乙女ゲーム愛好者だ。だから、自分がアルワース王国の孤児セレスとして生まれ変わったことを知って、滅茶苦茶驚いた。

 だってそれってアニメにもなった乙女ゲーム『追放聖女はそれでも世界を救っちゃいます!』のヒロインの設定にそっくりだったからだ。

 本当に回復魔法を使えるようになった時、その驚きは感動と喜びに変わった。


 つまりはこの先、推しだった魔術師さまとラブラブできるかもしれないってことだよね?! って。

 

 でもちょっと憂鬱だった。回復魔法に目覚めた私は聖女として認定された後、この国の王太子の婚約者に成り代わることになるのだけれど、前の婚約者だった悪役令嬢リア・デールに散々虐めを受けた挙句、罠に嵌められ国外追放の憂き目にあうことになるからだ。


 でも。


 おかしいのよ。黒髪ドリルでキッツい顔をした悪役令嬢と阿呆面を晒した王太子殿下の筈なんだけどね、いま私が聖女の認定を受けている式典にそのふたりも参列しているんだけれど、悪役令嬢らしい黒髪の令嬢はほんわかベビーピンクのださドレスを着て、隣に立つ王太子殿下と時おり仲睦まじく視線を交わしたりしててね。手だって恋人繋ぎしてやがるんですよ。えぇ。


 どう見ても両想いです、ありがとうございました。


 ツンツンというか全方位爆撃タイプで喧嘩を売る言葉遣いしかできない悪役令嬢リア・デールは黒ゴスドレスを華麗に着こなし、王太子殿下にすら酷い言葉を投げつけるのが常で、ふたりはヒロインを陥れる罠を仕掛けた時だって喧嘩してたはずなのだ。


『馬鹿な王太子殿下。その偽聖女は他国の間者で、アナタを嵌めようとしている事すら気付くことができない』


 高らかに笑いながら王太子殿下に嘘を吹き込むその様子はまさに悪役令嬢そのもので、ちょっとしか出番がない癖にそっちの気のある人たちからのFANが大勢付いたほどだった。




「聖女セレス。いや、大聖女と呼ぶべきですね。私の婚約者リア・デールも聖女ですが、あなたほどのお力はない。それでもふたりでこの国を支えていこうと話し合っています。大聖女様のお力もこれからこの国をより善いものとしていく為に貸して戴きたい」

「聖女セレス様。どうぞそのお力で、私達を正しい道へとお導き下さい」


 認定式を終え、その後のお披露目を兼ねたパーティーの席で、イケメンというにはちょっと物足りない気がするけど王族として十分整った顔をしたランツ・アルワース王太子殿下と、婚約者のリア・デール嬢が仲良く恋人繋ぎをしたまま私に挨拶に来てくれた。


「『ありがとうございます。認定を受けたばかりで判らないことだらけですが、どうぞ色々と教えて下さい』」

 台詞は確かこんな感じだった筈だ。序盤だし攻略に何にも関係しないからスキップしまくりだったけど多分大丈夫だろう。


 それよりも。なんだろ、このふたりを見てるとムカつくわー。


 おもわずジト目で繋がれた手を見つめてしまう。

 すると、頬を染めた王太子が言い訳のようなものを言い始めた。


「失礼しました。実は留学先の隣国リムワースから帰ってきたばかりなものでして」

 それは言い訳になるのかとツッコミたいところだけれど、笑顔でスルーしておく。

 だって悪役の筈のご令嬢も一緒になって頬を染めて俯くんだもん。

 美少女のテレ顔とかご褒美かよ。


 でも今はそれより気になる単語があった。

「リムワースへ、留学されていたのですか?」

 どういうことだろう。リムワースといえば追放されたセレスが身を寄せ仲間を得て聖女として旅立つ決意をする国だ。

 ゲームもアニメでも、アルワース王国とは国交もなかった筈なのに。

「はい。リムワースの王太子殿下とも知己を深め、隣接する国同士ともに協力していこうと意気投合できました。大変有意義な時間を持てたと思いはするのですが、婚約者である彼女との時間が持てなかったもので……つい」

 失礼しました、といいつつそれでも手は離さないんだな、おい。


 …いかん。喪女の僻みかしら。聖女っぽくないわね。こほん。


 やっぱりここは、あの乙女ゲームに似てるだけの世界なのかしら。

 国や地名も一緒だし、王太子殿下とその婚約者である悪役令嬢の名前も一緒だし、ヒロインである私セレスもいるけれど、でもそれだけといえばそれだけだ。

 キャラ設定が違い過ぎる。

 大体この王国の王太子もその婚約者も、国民から敬愛されすぎだ。

 私のいた孤児院にも王太子殿下の名前で施しが届けられていた。別の地区では悪役令嬢の名前だったらしい。

 仲睦まじくふたりで乗馬する姿や、バレバレの変装をしたふたりがお忍びで王都をデートする姿がたびたび目撃されているなど、国民はほのぼのとふたりの成長を見守ってきた。

 実際に私もその一人だ。

 だから、乙女ゲームとの関連に気が付くのが遅くなったともいえる。


 まぁいい。どうやら私は王太子殿下の婚約者に成り代わることもなさそうだ。

 つまりは国から追い出される可能性も低い。よって、魔獣だらけの森に置き去りにされる心配もないということよ!

 はぁ。ホッとする~。


「隣国リムワースへの留学に興味がおありですか? まずはこの国の聖女としての役目や礼儀作法などを覚えて戴いてからという事にはなりますが、大聖女ともなれば近隣諸国との交流も必要になるでしょう。いつか隣国へ足を運んでみるのも良いかもしれませんね」

 にこやかに王太子殿下から言われて、胸がときめく。


 ゲームの世界とは違っても、同じ名前のそっくりさんはいる世界。

 つまりは隣国リムワースに行けば、推しのツンデレ魔術師にも会えるって事なんじゃない?!

 うわっ! 興奮する。どきどきしてきた。

 追放されなかったらいけないかもって思ったけど、王太子殿下の後押しで留学…ううん、外遊くらいさせて貰えるかもしれないのか。


 ふたりのラブラブっぷりを見る限り、王太子との婚約とか悪役令嬢の虐めとか罠とかそういうのを警戒する必要なんかないっぽい。

 本当は気を引き締めておく方がいいのかもしれないけど、このふたりのいちゃつきぶりを見ていると、そんな必要はなさそうとしか思えない。婚約解消に動いた方がヤラレルだろう。うん。間違いない。心配なんか無駄な労力になりそう。



 もう少ししたら、もしかしたらこの国だけではなくこの世界を魔獣が闊歩するようになるのかもしれない。

 でもその時に、本当に王太子殿下の言った通り、国同士で協力ができるならどれだけ心強いだろう。


 勿論、そんな恐ろしいことは起きないかもしれない。


 判らないことだらけだけれど、それでいいんだと思う。

 まずは、隣国の魔術師団のことをどうにかして調べなくちゃ。

 推しが存在するのかどうかは最重要項目だ。

 推しがいるかどうかで、魔獣との対決にやる気がでるかどうかが決まる。


 魔獣出てこなくても、ラブはありかもしれないし。

 がんばるっ!






誰も傷つけないやさしいせかいを書いてみたかったんだけど…

ちょっと私には難しかったようです ><


お付き合いありがとうございましたv



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