92話 カルー少佐の城の地下
カルーの城へは以下の11名のチームが訪問した。
隊長 ジェリー=エルラド曹長(24)
副長 サラ=スール伍長(24)
マルビン=ナルティア兵長(24)
ベンソン一等兵(23)
ノエル=デルー一等兵(20)
ロッテ=ビスト一等兵(19)
シャーリー=ローゼンガー一等兵(19)
スティーブン(ステフ)=ボーア二等兵(18)
ダニエル=ヴィッツエル二等兵(18)
サイモン=ロバーツ二等兵(18)
リサ=メンフィス中尉(22)
夜明けから2時間が過ぎようとしている。
「そろそろ時間ですね。」
「そうか。よし、城に向かうぞ。2列縦隊。」
ジェリー達はファルス達が前回の訪問の時に連絡艇を降ろした草地から城へ向けて進んだ。
サラがドアノッカーを叩く。
だが、内部から応答がない。
2回、続けて叩いても応答がなかった。
「居留守ですか?」
「全員が外出して城を空けるとも思えないな。ビスト、ローゼンガー、上空から内部へ侵入し、この扉を開けてくれ。」
「了解。」
「ボーアとヴィッツエルは周辺警戒。他の者は情報パネルでビスト達の映像を確認しろ。」
「了解。」
ロッテとシャーリーが上空へ飛び上がる。
城の石塀の高さは3m程だ。
二人は難なく敷地内に入り込み、内側から通用門を開けた。
「侵入防止の魔法は掛かっていないのだな。」
「外部からの検知対策だけですか。」
「城の中には6人います。前回は10人でしたが。」
「誰かは外出中の様だな。」
前庭を通り、全員が城の玄関ホールに入る。
周囲に人気は無く、物音がしない。
「さて、どうしたものか。勝手に進むと不法侵入になるのか?」
「呼び出しましょう。」
「メンフィス外政担当官。」
「大声を出しますので、皆は耳を塞いで下さい。
いいですか?
リサ=メンフィスが命じる。風よ、私の声を大きく、そしてこの城の隅々にまで運んで下さい。
エルナンデス!話があります!我々を出迎えなさい!」
リサの声は大きく響き、風に運ばれ、城の地下深くまで届いた。
しばらくして、エルナンデスとカウ族のリッターが玄関ホールに現れた。
「あなたがたは!? 月の人、ですか。いつも突然のご来訪ですね。」
「私はレギウス村のジェリー=エルラドだ。カルー少佐の死体を確認したい。見せてくれ。」
「カルー、少佐? 死体、だと!?」
「貴様、なぜ、それを知っている!」
とまどうエルナンデスに激高するリッター。
ジェリーが突きつけた要求はストレートに彼らの感情を逆撫でした。
「あちゃー。」
「ジェリー、言い方があるでしょうに。」
リサは手で顔を覆い、サラはあきれた。
「私は、回りくどい言い方は嫌いなのだ。知っているだろう、スール伍長。」
「なにを、ごちゃごちゃと!答えろ!なぜ、カルー様の事を知っている!」
「抑えろ、リッター。イシュターハルの報告してきた客、カルー様が対応した剣士は月の人だったという訳だ。
おそらく、ファルス=カンだったのだろう。違いますか?」
「その通りだ。我々はカルー少佐が死んだのか、まだ生きているのかを確かめねばならない。」
「生きていらっしゃいます。ですが、皆様とお会いできる状態ではありませんので、お引き取りください。」
「そう言われてもな。我々の眼で確認させてもらいたいのだ。カルー少佐の下へ、案内してくれ。」
「お引き取りを。」
エルナンデスは頑なな姿勢を見せ、一行を外へと促す。
「では、案内は不要だ。こちらで勝手に行く。」
「なっ!」
「ボーアとヴィッツエルはここに残れ。では行くぞ。」
ジェリーは歩を進め、マルビン、ベンソンと続く。
「止まれ、貴様ら。この先は通さんぞ。エルナンデス様、下に伝えて下さい。私がここで食い止めます。」
リッターが腰に付けた短剣を抜く。
エルナンデスはリッターを残し、廊下を奥へと駆けていった。
ジェリーに向かい腰を落とし短剣を構えるリッター。
「無理だ。短剣で、しかも一人では、我々を止められんぞ。」
「貴様らをカルー様に会わせるものか。それ以上踏み込めば、斬る!」
「仕方ない。」
ジェリーは上半身を屈め、低い態勢を取った。
リッターが警戒する。
「土魔法。堅固たる盾。」
ジェリーの正面に土魔法による盾が形成される。高さ160cm横幅80cm厚さ3cmの方形盾だ。
ジェリーはその盾を両手で支え、一気に前方に突進する。
「なっ!」
リッターは目の前に突然現れた土の塊が、自分に向かって突進して来るのを察知して右側に飛びのく。
その横をジェリーは低い態勢のまま、走り抜けていく。
「くそ!」
倒れた身体を起こし、ジェリーに向き直るリッター。
だが、ジェリーは立ち止まることなく、廊下の先へと進んでいた。
「なに!?」
「あちゃー。」
「まぁ、確かに止められませんでしたね。」
「おい、俺達も同じことするのか?」
「どうする?」
リッターだけではない。その場の全員が虚を衝かれた。
「縛り上げろ。」
「なっ、くそ!」
ステフの声の後、リッターの身体にロープが巻き付く。
「これで良し。」
「おいステフ、ロープはまだあるのか?」
「はい、あります。」
「そうか。下にも人が居るだろう。そのロープで縛って来い。ここには俺とベンソンが残ろう。」
「よろしいのですか。」
「ああ、いいですよね、サラ伍長。」
「そうだな、ロープの技は役に立つだろう。ほら、廊下の先でジェリーが待っている。行くぞ。」
◇
サイモンの案内で城内を進み、地下へと続く階段を降りる。
最初の階層は廊下の両脇に扉が並んでいた。検知結果は無人だったのでチームはさらに階段を降りる。
長い階段を下り終える。
短い廊下の先の木製の扉は閉じられていた。
扉からは鈍い重低音が聞こえて来る。
ジェリー達は階段部で小声で相談を始める。
「奥に5人いるな。しかし、この音は。」
「工作機の音ですね。それも複数台が稼動しています。」
「まずいな。我々がここから突入することが明らかな以上、扉を開ければ集中攻撃を受けるだろう。」
「どうしますか?隊長。」
「ううむ。時間は掛かるが、土魔法で横穴を掘るか。」
「隊長。提案です。」
「ん、ヴィッツエル、言ってみろ。」
「私とステフは予備バッテリーを使った雷魔法が使えます。これを部屋の内部に放てば、人間を麻痺状態にできます。」
「雷、電気か。麻痺の硬化時間は何分だ。」
「対象の耐性によりますが、1分から10分です。」
「ばらばらか、それは人間だけを狙えるのか?」
「すいません。目視できれば可能なのですが。」
「ボーアはどうだ。」
「はい隊長。私も同じく、狙い撃ちには目視が必要です。」
「では、現時点では却下だな。」
「隊長。土魔法で扉の周囲を柔らかくするのはいかがでしょう。」
「なるほど、では、ローゼンガー実行してくれ。ビスト、扉が抜けるタイミングで風魔法で扉を部屋の中に倒せ。
私が部屋の内部に土壁を作り、相手の初撃を防ごう。」
「反撃しますか?」
「相手の出方次第だ。できれば話し合いで終わらせたい。」
「周囲の壁が崩れます。」
「風魔法。」
「土魔法。強固たる防壁を我が前方に作り出せ!土壁!」
バタン
周囲の壁であった石レンガの粉塵を巻き上げながら扉が倒れる。と同時に床から土壁がせりあがる。
バシュッ
だが、土壁を吹き飛ばし、小型の飛翔物が飛んできた。
ドッ!
「ぅぐっ!」
ジェリーは扉から距離を取っていたが、土壁を作った直後で反応が遅れた。
左肩に長さ60cm直径3cmの鉄杭が突き刺さり、その身体を後方に吹き飛ばす。
「隊長!」
「リサ!ジェリーを!全員階段部まで退避!」
サラの指示で廊下に出ていたメンバーは階段まで下がる。
リサはジェリーを抱え、傷口を確認した。
「これ、工作機の?まずいわね。」
「リサ。」
「サラ、ここでは無理。医療ポッドに入れないと。」
「わかった。頼む。」
リサは遠見の窓を使ってジェリーと共にカッシーニ81へ戻った。
◇
「私が指揮を引き継ぐ。しかし、やっかいだな。」
「あれは工作機の杭打銃で射出したものですね。」
「問答無用で撃ってきたな。ダニエル、ステフ、相手が見えるか。」
「はい。粉塵が収まりました。正面に工作機が2台。その横に男が2人と1人います。」
「左前方奥に男2人を検知。こちらがマスターポッドでしょうか。」
「ダニエル。雷魔法で工作機を止められるか?」
「100%の出力ならおそらく。」
「やれ。」
「了解。」
「ダニエル=ヴィッツエルが命ずる!雷魔法、出力全開!サンダーボルトー!!」
バッッシィッィィィーーー!!
眩い光の線が、空気を切り裂く鋭い音を残してダニエルの伸ばした手先から放たれる。
通路内には空気の灼ける匂いがこもる。
光線は工作機に命中し、機体の周囲に電気の帯が走った。
「やったか?」
カシュー
ユイィーンン、フォォォオォォオオオオ
機体に電気を帯びた工作機は、脱力したようにその腕を下げた。
その後、動作を止めるかと思われたが、体内のモーターコイルの急速回転を示す音が高まる。
「まずい!暴走するぞ。全員階段を登れ!」
バシュバシュバシュバシュバシュ
「うわぁぁぁぁーーー!」
ドカッドカッドカッドカッドカッドカッ
キュゥィィィィィンンン
ドサッ
「止まったか。」
先程までいた階段下の壁に2本の鉄杭が突き刺さっている。
「鉄杭の装填数は30本だったな。」
「そうです。」
「検知しました。2名確認、3名不明です。」
「・・・行くか。」
◇
帯電し暴走した工作機は杭打銃を乱射。アンカーを打っていない機体は、反動で回転しながら次々と鉄杭を周囲に打ち込んだ。
一人は、その身体に鉄杭によって穴が空けられた。
一人は、二台目の工作機が倒れた時の下敷きとなった。
エルナンデスも巻き込まれたが、彼は片足の骨折ですんだ。
一人は、鉄杭によって破壊されたマスターポッド内で死んでいた。
部屋の中に備え付けられていた機械も多大な被害を受けている。
◇
「ロッテ、エルナンデスはどうだ?」
「左足大たい骨の骨折です。治療魔法で付いたと思われますが、筋肉の断裂と出血も多いです。今は気絶しています。」
「医療ポッドに入れるか。もう一人は?」
「酷く抵抗したので取り押さえました。彼も気絶中です。」
「仕方ない。マルビンに連絡して、リッターを連れてこさせよう。」
◇
「なんだ、これは!? どうしてこうなったのだ。
あ、ああっ、器が! カルー様の器が!!」
マルビンとベンソンによって地下に連れてこられたリッターは、地下室の惨状に混乱し、そして、破壊されたカルーのクローン体製造機を見つけた。
「なんてことだ。器が・・・。これでは、もう、カルー様は復活、しない・・・復活、しないでは、ないかーーーーー!!!」
◇
「えっとー。サラさん、どうしたの、これ?」
「すまない、リサ。あの工作機の動きを止めようとしたのだが、暴走してしまった。」
「そうかぁ。じゃあ、仕方ないか。通信機の設置は終わりました?」
「ああ、ステフとダニエルが設置した。
サイモンも偵察機を回収し、新型機と入れ替えていた。
今は手分けして城内の部屋を確認している。
ただ、リッターの話では、カルーの死体は、あの装置の中に安置されていたそうだ。」
サラが指差した先には壊れたクローン体製造機があった。
鉄杭が穴を穿ち、液体で満たされていたであろう器からは液体と粘体がこぼれ、何ともいえない甘臭い匂いを放出している。
「あらー。」
城内を一通り検索したチームは、エルナンデス達を連れて城を後にした。
次回93話「煙に霞む月光」
第4章最終話です。




