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第四惑星  作者: ブルーベリージャム
第四章 カルー少佐
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88話 噂の武器屋

カッシーニ81、甲板区画の一室。

「お疲れ様でした。格好良かったですよ、カン外政官。」

「お疲れ様です。」

「ありがとう。そして、そこまでだ。生産司令室でさんざからかわれたからな。」

「ははは。それで、こちらにお見えになったのは?」

「この剣を見てくれ。」

俺は背嚢からイングウェイの剣を取り出した。


「魔石。この剣は魔道具。いや魔剣、ですか。」

「それを確かめて欲しい。サイモン。

相手のイングウェイは俺に魔法攻撃を仕掛けるように挑発してきた。

この魔剣は魔法対策の処理がされているようだ。」

「そうですね。魔石が埋まっているのに、相手は一度もこの剣の魔法を発動させる素振りを見せませんでしたよね。」


リサとサイモンに魔剣を預けて、俺は食堂に向かった。

軽い食事とコーヒーだ。

まったく、ひどい一日だ。



3日後。

新年用の服を受け取りに仕立て屋に行った。

出来上がったのは俺の服だけなので、今回は俺だけだ。


仮縫いの時も着ているので仕上がりは問題ない。

だが、店の者がちらちらとこちらを見てくる。


「ご主人。服の仕上がりに問題は無いと思うが、何か気になる事でもあるか?」

「いえ、いえ、さすが月の人でございます。見事な着こなしでいらっしゃいます。」

「そうか。」


俺は服を着替え、新調した服を持ち帰る手配をしてもらう。

普通であれば、同行する家の者が持ち帰るのだが、俺にはいない。

なので、店の見習いの一人、ナタルと名乗った子を付けてくれた。


両手で荷物を抱えたナタルはレギウス邸に向かう俺の前を歩いている。

道は判るようだが、ちらちらと後ろを振り向き俺を見てくる。

「どうした。前を見ていないとぶつかるぞ。」

「ああ、すみません。旦那様。」


しかし、数歩ゆくと頭が揺れて、またちらちらとこちらを振り返る。

「ナタル。何か聞きたいことでもあるのか?」

「ああ、すみません。あの、レギウス邸に向かうということは、あの、旦那様は月の人、ですか?」

「そうだ。」

今の俺の格好は茶色が主体の普通の村人の服装だ。

道行く人も俺が月の人だとは気付いていないだろう。

「では、旦那様は先日の公爵家の決闘の方ですか?」

通行人の何人かの視線がこちらに向いたか?

「ナタル、声が大きい。」

「あ、すいません。」

「公爵家の決闘。街の噂になっているようだね。」

ナタルの問いには答えず、俺はナタルが話しやすいように水を向けた。

「ええ、それはもう。なんと言っても月の人が決闘するなんて前代未聞のことですよ。それも、あの、美しい姫騎士様を守るために公爵家の男と戦ったのですから。」

「美しい姫騎士。」

「そうです。ご存知でしょう?アビー姫を隣国エの国の陰謀から救うためにいらっしゃったクリス様を。」

「ああ、知っているよ。」

「その姫騎士様のお相手の月の人です。きっと月の人の王子様なんでしょう?」

「まぁ、そうなるのか。」

「そうですよ。そんなお二人の仲を裂こうと公爵家の男が悪巧みをして決闘を申し込んだんです。

ですが、そのような企みに屈する月の人ではありません。

月の王子様は悪しき魔剣を振るう公爵家の男を、なんと鉄の棒で軽くあしらうと、とどめに腰の名刀を抜き、一閃!男の片足を切り裂いたのです。

くぅー!格好良いなぁ。」


ナタルの言葉の後半は自身の言葉ではないな。

そのように話して聞かせる者の口ぶりを真似て、そのまま口にしているようだ。

「ナタル。その話は誰から聞いたんだ?」

「へへへ、通りの吟遊詩人達です。昨日も今日もあちらこちらで話してるんですよ。」

「そうか。公爵家の男が持っていたのは悪しき魔剣だったか。」

「そうです。でも月の王子には通用しなかったんですよ。月の人は魔法が得意ですからね。」

俺が月の人だということも忘れて夢中で話しているな。


こうしてナタルの熱い語りはレギウス邸まで続いた。



荷物をレギウス邸に置いた俺は、冒険者用の服装に着替えた。

緋色の腕輪ははずし、両手に皮の篭手をはめる。

そしてマントのフードをかぶると、ふたたび街に繰り出した。


中央広場への通りを歩いていると10人ほどの人の集まりがあった。

綺麗な音楽と共に男の声が聞こえてくる。

男は手にした琴の音に合わせながら言葉を連ねる。

「卑怯なりーー月の男よーー、我がー手にー握るわー、魔剣ゲルニウスー、我が剣とー、清々ー堂々ー」

これは俺が武器を持ち替えた時の場面だな。

多少脚色されているが、ほぼイングウェイの言葉と同じだ。

これは、あの場に決闘の様子を書き留めていた奴がいたようだな。


「しかしよう。魔剣なんてあるのかよ?」

「だよなぁ。ちょっと話ができ過ぎだよなぁ。」

周囲の男達の会話が聞こえてきた。

3人組の男達だ。

「お、俺、昨日聞いたぜ。ま、魔剣を売る武器屋が、あ、あるって噂。」

「本当かよ。」

「へっ、噂だろ。行こうぜ。そろそろ戻らないと。」

「ああ。」

「お、おい。聞いてくれよ。お、俺が聞いた話じゃ、ま、街の東の、」

3人組は集団を離れ歩き始めた。

俺も少し離れて後をつける。

身体強化で聴力をあげて、3人組の会話を聞く。


「へぇ、新しくできた武器屋。表は真っ当な商売だが、裏では怪しい魔剣を売りさばくってか。」

「どうせ金持ち相手なんだろ。」

「そ、その武器屋が、せ、宣伝を兼ねて、その、こ、公爵様の息子に譲ったのが、あ、あの魔剣だって、話なんだ。」

「宣伝ねぇ。」

「まぁ遊び人で有名だって噂の公爵家の次男坊だからな。噂にはなるだろうさ。もっとも月の人に負けてしまっちゃあ、魔剣の宣伝にはならないぜ。」

「違いねぇ。今回は宣伝どころじゃねぇな。」


そこまで聞いて、俺は彼らの追跡を止めた。

魔剣の宣伝。

その性能の優秀さを宣伝するなら、魔法が得意といわれる月の人を切り捨てるのは最高の宣伝だろう。

では、始めから月の人が狙いだったのか?

あの決闘は仕組まれたのか?

それはイングウェイの意思だったのか?

まさか、イングウェイは操られていたのか?


また、カルーの影がちらつく。

奴の催眠術にすぐに答えを求めてしまう。

奴は俺たちの身体に興味があると言っていたという。

それは死体でも良いのだろうか。

奴は生物学者だ。良いのだろう。

エの国で活動していたなら魔道具の作成はできるだろう。

いや、そもそも1万2千年以上活動している。何でもできると考えるべきか。


奴はまだ、オの都にいるのか?

ここに活動拠点を築こうとしている?

1万2千年も活動しているなら各地に拠点を持っていると思っていたが、そうではないのか。

エの国では長くモラス侯と組んで活動していたようだ。

時代時代で活動拠点を移し、その都度拠点を作っているのか?

そして、カルーがイングウェイに魔剣を売った?


イングウェイは公爵家の次男。

長男は第一王女の婚約者。

公爵家に取り入るならば、長男と縁を作るべきではないか。

だが、カルーが魔剣を売って縁を作ったのは次男のイングウェイだ。

モラス候は代替わりで鉱山の利権を欲しがったという。

代替わり。

カルーはイングウェイを公爵にするつもりか。

それが、不正な手段での代替わりならば、カルーはイングウェイの弱みを握れる。


不確かな情報で想像を巡らすと、ぐるぐると思考が回転する。

楽しい想像なら長く続けられるが、これは不快だな。

まずは情報を集めるか。


俺は街の東側に向かった。



オの都は城郭都市だ。街の周囲は塀で囲まれている。

なので、街の広さは決められていて、年数が経てば人が増え、建物が増え、街は狭くなる。

中央広場と王宮付近は道も整備され整然とした町並みだが、少し離れれば雑然とした雰囲気になる。

かつて大通りであった場所も、両脇に家や店の軒先が増築され細道になったり、塀や扉が付いたりして行き止りになっている道もある。


街の東側もそんな雰囲気だ。

薄汚れた俺の服装は冒険者のそれであり、同じようなマント姿の人々がその辺を歩いている。

俺は家の前の通りに椅子を置いて、たばこを吸っている男に声を掛けた。

「すまない。この辺りで最近、武器屋が店を開いたと聞いたのだが、場所を知らないか?」

「さあて、どうだったかな。」

そう言うと男は自然に右手の平を開いて見せた。

俺は銅貨2枚をその手に置く。

「確か、3つ先の交差点を左、その先2つ目の交差点を右。その辺りにあったかな。」



其処は雑多な地区の中では綺麗な通りだった。

飲食店や宿屋。いくつかの店の看板が並ぶ一角だ。

ここなら、遊び人と噂の、貴族の息子が来ても不自然ではないか。


武器屋の看板は2軒。

手前の店の看板は新しい。

探知をしてみると店内に3人いるようだ。

俺は扉を開けて店内に入った。


カランカラン

扉に付けられた小鐘の音が鳴る。

ここは武器の専門店らしい。

壁に設えられた飾り棚に短剣、片手剣、両手剣、槍先、斧などが並べられている。

客は一人、店員が二人。

俺は店員に近付き小声で話しかけた。

「ここが噂の店か?」

「噂、ですか?」

「金はある。」

俺は腰に下げた布袋を持ち上げる。

中には銀貨と銅貨を入れてある。


二人の店員は顔を見合わせる。

「では、こちらへ。」

奥へと続く扉を開けられ、俺は中に入った。


部屋の中は数個の木箱が積まれている。

正面にさらに奥へ続く両開きの扉。

左手の壁にも扉のような四角い木枠があり、その床には円状の文様、魔方陣が描かれている。

手前に小さなテーブル。テーブルの上にあるのは通信の魔道具だ。

俺を案内した男は魔道具を手に取る。

「工房。工房。接続。お客様をお通しします。終了。」

魔道具を置くと左手の壁の前、床に描かれた魔方陣の上に俺を案内する。

これは転送の魔方陣か。

「では、お客様。そちらの魔石に左手を触れてください。」

俺が木枠に嵌められた魔石に手を触れると、光に包まれ、目の前が暗転した。



次回89話「会談」

ファルスが転送先で出会った人物とは。

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