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第四惑星  作者: ブルーベリージャム
第一章 惑星開発
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3話 不時着

カッシーニ81は第四惑星の大気圏に突入した。

事前の姿勢制御で船体を水平にしてはいたが、この宇宙船は大気圏突入も大気圏内航行も想定していない。

姿勢制御用ノズルも基地の停泊用桟橋に船体を寄せる時に使うぐらいにしか利用しない。

その為、各姿勢制御用ノズルの最大噴射時間は30秒分しかない。


大気圏には船体下部から突入した。

船体表面温度がみるみる上昇していく。

船体の振動も激しい。

外部構造物は破壊されていくだろう。

脱出艇が離艦する時に、その格納場所の外部装甲は剥がされている。

下部に収納されていた5機の内、3機の脱出艇が使用されたはずだ。

つまり3つの穴が開いている。

その部分が抵抗となり、さらに船体を揺さぶり、損傷を広げる。


(竜骨さえ持ってくれれば。)

仮にも星間航行用宇宙船である。船体強度は元々高い。


大気圏上層部を通過し、高度10万mを過ぎるタイミングで船体正面の姿勢制御ノズル24基をフル稼働させる。

これで少しは速度が落ちてくれるはずだ。

後は地表すれすれで下方に向いている制御ノズルを使いたいところだが、いくつ生き残っているか。

5%の出力とはいえ、重力子機関が動いているおかげで多少の浮力は得ているはずだ。


高度5000mを切った。

地表の様子が見えるが、前方には海面が広がっている。


「このままだと、不時着後に沈没か?」

「前方60kmに陸地があります。」

「大尉、海面で速度を落とせれば、上手い事上陸できそうですよ。」

ホークが進路予想図を前面スクリーンに映す。

高度1000mを切る。

船体正面の姿勢制御ノズルは噴射を終えている。

船体下部の姿勢制御ノズルは全滅していた。


俺にできることは、もう無い。


海面にはほぼ水平に、船体後部から着水できた。

すさまじい衝撃と共に、急速に速度が低下していく。

陸地まで後3000m、2000m、1000m・・・。

海岸まで100mを残して船は止まった。

水深20m、船体のほぼ5分の1が海中にある。

さらに船体は左に14度傾いている。


「どうやら、沈没は免れたな。」

「上陸には、少々足りませんでしたね。」

「助かりましたぁ。」


「とりあえず、船内チェックだな。

故障リスト作成は中央管理コンピュータに任せて、生き残った所を確認するか。

ホーク、手伝ってくれ。

リサは通信設備の確認が終わったら月面基地への接続を試してくれ。

それと、脱出艇と連絡は取れるか?艦長に報告したい。」

「了解。」

「重力子機関は出力5%のまま、変わらずです。」

「月面基地との接続確認。

月面基地からのデータ通信再開しました。

こちらからの呼び出しには応答がありません。」

「そうか。」

応答無し、という事は、やはり月面基地に人はいないのだろう。

「脱出艇との通信失敗。上空に現れないと通信はできませんね。」

脱出艇の艦長たちが基地に到着するまでには、しばらく時間が掛かる。

「リサ、船内環境のチェックを頼む。」

「了解。」





その後3人掛かりで船体チェックを行った。

竜骨、船体隔壁は無事だった。

船体上部の船員区画も無事だ。

食料生産設備、空調設備などの船内環境機構が無事だったのは僥倖だ。

多少ちらかってはいるが、船内環境整備マシンが正常動作している。

被害は船体下部の外装設備、内部設備に集中している。

下部の多くは甲板区域でエアロック、搭載機器格納庫、整備工場区画、機材倉庫等が集中している。

脱出艇格納庫の2つが破壊され、周囲の区画に火災が発生していた。

下部外装も6割が剥離、変形、破壊されている。

海水が浸水している区画も多い。

だが、被害がこの程度で済んで助かった。

空荷の輸送艦で自重が軽かったのが幸いしたのだろう。


だが、機密が保てない現状では大気圏外の宇宙空間には飛び立てない。


俺たちは中央司令室から食堂に場所を移して、昼食を摂りながら現状確認と今後の行動予定について確認することにした。

傾斜した艦内通路を壁に手を突きながら進む。

広い食堂のテーブルと椅子は全てが壁際に寄り集まっていた。


俺たちは何とかトレイに食事を載せ、部屋の壁に寄り掛かる。


「この傾斜は、問題ですね。」

「問題です。」

ホークとリサが口を揃える。

「うーん、上部の姿勢制御ノズルは使えるはずだから、少しシミュレートしてみるか。」

「甲板区画を確認して、動作可能な工作機を確認しましょう。

船体下部の海底を掘れば安定しますよ。」

「工作機は今後も使えるだろうからな。ホーク、任せていいか?」

「はい。」


「さて、現状確認だが、月面基地からのデータ通信を基に推測すると、ここは第四惑星なんだな。」

「はい。但し、未来の、ですね。」

リサがゆっくりと言葉を発する。

左腕の情報パネルを見ながら言葉を続けた。

「月面基地からのデータ通信は現在も継続中です。

月面基地側の現在日時は、レギウス歴13488年211日11時11分です。」

「いちまん・・・」

ホークが固まる。

俺も驚いた。

「まさか1万年を超えるとは。

第四惑星の開発が成功し、ここまでの環境になっているのも当然か。

それにしても、月面基地の設備が1万年以上稼働しているのか。」


1万年。

過ぎ去った時間に心がざわつく。

レギウス本星はどうなったのか。

人類は生存しているのか。

この惑星で生き延びていかないと。

これからどうする。

救助はこないのか。


「ジャンプゲートから2時間。かなり飛んじゃいましたね。」

ホークが軽く言う。

全くだ。

「そうだ、リサ。

月面基地との通信が出来たんだ。開発部隊の記録や資料を確認できるか。」

「はい。既に着信した月面基地からの情報は閲覧可能です。

さらに、こちらから月面基地コンピュータへのアクセスも可能です。」

「どうやらこの惑星で生活することになりそうだ。

月面基地に残された開発部隊の資料を中央管理コンピュータに吸い上げたいな。」

「では、中央管理コンピュータに指示します。」

「頼む。情報が欲しい。

ホークは俺と船体傾斜の回復作業だ。甲板指令室へ行こう。」

「了解。」





俺とホークは3階層下の甲板指令室に向かった。

甲板指令室は船体下部にある。

甲板階層の通路に入ってから気付いたが、上下が逆だ。

そう、天井が床で、床が天井になっている。


レギウス星系軍所属宇宙船の基本構造の説明をしよう。

宇宙船は円筒形をしている。

船体中心軸を竜骨と呼ばれる構造体が貫いている。

その竜骨を中心に120度の間隔で3枚の構造壁が外殻に向けて伸びている。

宇宙船の船体を輪切りにすれば3つの扇形の区画ができる。

それぞれが左舷、右舷、そして下部の扇形が甲板だ。

船体中央の竜骨周辺には中央指令室、コンピュータールームがあり、その後方に重力子機関制御区画がある。

宇宙船内の最重要区画だ。

船体上部区画となる左舷と右舷は中央付近に船員用設備があり、前方に格納庫、後方にも格納庫と船内環境維持用の設備群で構成されている。

一方の船体下部の甲板だが、こちらも竜骨階層を最下層として構成されている。

つまり、船内環境は重力子機関を用いて、重力制御されており、上部階層から下部階層に移動する場合、

竜骨階層の重力反転エリアを経由している。


今は、重力子機関の出力低下に伴い船内重力制御が停止し、惑星重力に従っている。


「そうか、普段は無意識だったが、惑星重力に従うと、こうなるな。」

「これは、参りましたね。」

通路の天井パネルを進み、甲板指令室の入口ドアを手動で開ける。

頭上に操作席が並んでいる。

足元の天井パネルは約2m程下だ。

これは通路の天井高が2m50cm、甲板指令室の天井高が4mの差だ。

もちろん入口ドアは天井パネルから2m20cm、俺たちの足元から30cmの高さにある。


「大尉、これは無理ですね。

足場を作らないと操作席に行けませんし、行けたとしても逆さ吊りでの作業になります。」

「重力反転が回復しないことには、甲板設備の直接操作は難しいな。」

「脱出艇と連絡が可能になったら、甲板長に相談しましょう。」

「そうだな。」

中央指令室の俺たちの権限では甲板制御コンピュータへの遠隔アクセスはできない。

甲板部員用のアクセス権限を追加してもらうか。

だが、工作機などの固定ロックを解除できても、問題は残る。

そのままでは、工作機は床となっている天井へ落下してしまうだろう。

工作機のある格納エリアや作業区画は天井高が30m近くある。


俺たちは中央指令室へと戻った。



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