23話 部族長の村
一本木の丘を後にし、次の村を通り抜け、部族長の村へ進む。
この辺りになると、道を通るベア族も多い。
ママドゥは道を走り、俺たちは空を飛ぶ。
クリス達は午後も交代で狩りに行った。
3つの村を通り、1840に部族長の村へ辿り着いた。
空に向かって手を振るママドゥの元へ降りて行く。
道から少し外れた森の端だ。
「ファルスカン、あの川を渡れば部族長の村だ。
3人だけか?クリス達は、狩りか?」
「そうだ、ママドゥ。すまないが、少し待ってくれ。すぐに来る。」
5分程でクリス達が飛んできた。
川を渡る橋の先に、村の衛兵がいる。
俺たちは目立つので、村へ入った履歴を残した方が賢明だ。
そのまま衛兵の護衛付きで村長の所まで案内されれば、村の中で余計な騒ぎも起きないだろう。
俺たちは道に出て橋を渡った。
やはり、目立つ。
橋を渡り終える頃には俺たちはベア族達に囲まれていた。
"誰だ、あいつら"。"小さい人間が他の土地に居るって親父に聞いたぜ"。"何した来たんだ"。
やっぱり、まる聞こえだ。
ママドゥは俺たちの先頭で「部族長の客人だ。道を開けて通してくれ。」と言って前方の人垣を除けている。
橋を渡った所で槍を持ち皮鎧を上半身に付けた衛兵2人が立っていた。
騒ぎに気付いているから、すぐに俺たちの前に来る。
「何事だ。」
「俺はママドゥ。北の村ゴンジーのボルドゥの息子。
部族長の客人を案内してきた。こちらは月の人たちだ。」
「月の人?本当か?」
「本当だ。部族長に取り次いでくれ。」
「少し待っていろ。こちら側に来てくれ。」
俺たちは道の脇の空き地で待たされることになった。
道行く人々がちらちらと、いや、じっくりと見て行く。
(これじゃあ、見世物だな。)
(他の人種が珍しいのですね。中心地でこの反応だと、大陸間の交流は無さそうですね。)
「ファルスカン、待たせてしまってすまん。」
「いや、大丈夫だ、ママドゥ。
それに、迎えが来た様だ。」
衛兵たちの所に同じ装備の男たちが4人程来ている。
その内の1人がママドゥに話しかけてきた。
「守備隊のティネスルゥだ。お前がゴンジー村のママドゥか?」
「そうだ。そして、こちらが月の人、ファルスカンとその仲間たちだ。」
「ファルス=カンだ。」
「おおぅ、言葉が話せるのか。
そうか。
付いて来い、部族長の所へ案内する。」
守備隊の4人に囲まれて村の中を進む。
村人たちも俺たちを見物している。
ママドゥが言っていた道具屋や野菜売り、武器屋らしき店もある。
中心の広場からやや外れた場所に大きな建物があり、その横の建物が部族長の屋敷だった。
「あの大きいのが神殿、女神の館だ。神官様達はあそこにいる。」
ママドゥが教えてくれた。
建物は大きく、3階建て以上はある。
大きな樹を柱に何本も使っている。
部族長の建物の横の庭に通された。
庭の奥に高座があり、そこに部族長が立っている。
明るい草色の地に赤い縦帯の入ったローブのような、ゆったりとした服装だ。
高座の左右にもベア族が数人と衛兵が2人いる。
ベア族は明るい草色のローブを身に付けている。
一人だけ白いローブだ。
俺たちはママドゥを左に横一列に並ばされた。
「ゴンジー村のママドゥ、よく来ましたね。」
おっと、部族長は女性だ。
「部族長センデローズ。女神パトリシュの庇護を受けられし者よ。」
ママドゥが右手を胸にあて頭を垂れて応える。
「うむ。ママドゥ、こちらの方々は?」
「はい、先日お伝えした北の村ゴンジーのさらに北の浜。
天空より光輝く銀の船で来られた月の人たちです。」
おおぅ。彼らが。
周囲の人々から声が漏れる。
「そうですか。ようこそいらっしゃいました。月の人よ。」
ママドゥが俺の顔を見た。
「部族長センデローズ。
私はファルス=カン。月の人です。
我々は正式な礼儀を知らず、ご無礼があればお許しください。」
「ようこそファルスカン。歓迎いたします。」
次に視線を隣のクリスに移す。
「私はクリス。月の人です。お初にお目に掛かります、部族長センデローズ。」
こうして一人ずつの名乗りの後、着座して話を続けた。
俺たちも剣を置いて地面に座り込んだ。
部族長センデローズも高座に座っている。
ママドゥは俺たちの船に来た後、一度この地に報告に来ている。
その報告内容の再確認と、リサによる水と氷と炎の魔法のお披露目をした。
さらに背嚢に入れておいた献上品の鋼の剣一振りを差し出した。
ママドゥ達に渡した物と同じだが、剣身につる草模様を掘りこんでいる。
鋼の剣よりも背嚢に興味を持たれたが、リサが背嚢を渡しても中身は空だ。
それを確認させて、リサは中から弓を取り出した。
月の人が使う魔法の袋です。とのママドゥの言葉に皆納得したようだ。
歓談は続き、月の世界での話や銀の船での旅の話をした。
衛星拠点基地や船での生活を全部、月の生活として盛り込んだんだが、詳細が判らないなりに大いに楽しんでくれた。
◇
夜食に招待され、準備が整うまでの間、俺たちは女神の館へ案内された。
建物は3階建て分の高さだが、階層は無く、天井が高い。
今夜はここに泊まれるそうだ。
白いローブの男は神官長だった。
神官長シルバルゥ。
彼は俺たちを歓迎しながらも、その表情は硬かった。
女神の館で俺たちを案内してくれた女官のクレンバが話してくれた。
「私たちの神様は大神ゴメス、女神アドニス、女神パトリシュです。
大神ゴメスは光の神であり、太陽の神です。
そして月には月の三神がいます。
闇の神カルー、静寂の神グリューン、転生の神ケンプファーです。
月の神は死と心の清めと転生の神様です。
あなたたちが、その、月の人と聞きました。
あなたたち月の人は、月の三神の使いなのですか?
私たちに死と転生をもたらすのですか?」
ベア族の建物は屋内に壁が無い。
この女神の館もそうだ。
なので、彼女の声は館の中にいる他の神官、女官達も聞いている。
俺は少し大きな声で否定した。
「いやいや、私たちは神様の使いではない。普通の人間です。」
「そうですか。そうですよね。
あっ、そちらの11の柱の間をお使いください。
私はあちらにおりますので、なにかあれば呼んでください。
それでは、失礼します。」
そこは館の広間の一角だ。
手前の柱に11と刻まれている。
どうやら柱で区切られた空間を間としているようだ。
ママドゥがその間の中ほどに座った。
俺たちも円を描くように座る。
「済まなかったな、ファルスカン。神官様達はすぐに神様と結びつける。」
「いやいや、気にしてないよ。ママドゥ。
月の神様の話が出たんで、驚いたがな。」
(大尉。メティスに確認しました。月の3神はカルー少佐とその部下、グリューン中尉とケンプファー中尉です。)
ホークからの確認報告が入る。
「月の神様は死者の神様、なんですかぁ?」
「そうだよ、レイチェル。
俺たちは、仲間が死を迎えると月夜に弔う。
仲間の身体が炎に包まれ、立ち昇る煙と共に仲間の心が月へと届く。
心の怒り、悲しみ、苦しみ、そして楽しかった思い出も清められ、まっさらになって、この地に生まれ変わるんだ。」
ママドゥの声は静かで優しかった。そういう話なのだろう。
レイチェルは背嚢からカップを3つ取り出すと、茶葉を入れ、俺たちにお茶を淹れてくれた。
隣を見るとホークを中心にカップを手に残りの4人が見つめ合っている。
そうか、ナノ通信でなにやら話込んでるな。
さては、レイチェルを世話役にして俺たちを仲間はずれにしたか?
レイチェルを見ると、ふふふと微笑んだ。
なんか連携が深まってないか?お前たち。
「そうだ、ファルスカン。明日の事なんだが、俺は朝には村に戻る。
お前たちは神官様の話を聞くのだろう。」
「ああ、その予定だ。ここまでありがとう、ママドゥ。」
「ああ、村にはまた寄ってくれ。この後はどうするんだ。」
「神官様の話を聞い後か?俺たちはもう少し旅を続けようと考えている。
海を越えた南の大陸へな。」
「南の大陸!?
海の向こうに陸地がある、とは言い伝えがあるが。
そうか、はっはっはっ、これは土産話が期待できそうだ。
帰ってきたら、たくさん話を聞かせてくれよ。」
「ああ、楽しみにしていてくれ。」
「その言い伝えでわぁ、海の向こうの土地についてぇ、なにか語られているのですかぁ?」
「レイチェル、残念だが、とても古い古い話でな。詳しい話では無いのだ。
それは、昔の事だ。まだ我々ベア族が部族長の元に団結する前の昔むかしの話だ。
今は無くなってしまった南の村に、ある日、海から小船がやって来た。
その小舟には小さな細い人が乗っていた。
耳は大きく、目は大きく、長いひげがあり、体は茶色と白の毛で覆われていたそうだ。
村人は聞いた。どこから来た?と。
小さき人は答えた、海を越え隣の地よりやって来た。と。
隣の地は木々が多く、彼らは樹の上に家を作り、村を作り生活している。
小さき人は速く、軽く、木登りが得意で、耳良き人だった。
うん、言い伝えはここまでだ。」
「ありがとうございますぅ。ママドゥ。」
「この話の小さき人に会えると良いな。ファルスカン、レイチェル。」
「はい。」
「そうだな。」
次回24話「宴」。
ファルスたちも宴会芸をお披露目です。




