22話 豚か鹿か
3時間程歩くとゲオル村の畑が見えてきた。
2つの丘にまたがる広い村で畑作が盛んだという。
ここでママドゥから注意があった。
「月の人よ、ここに長居するつもりは無いんだ。
だが、あなた達は目立ってしまう。
彼らとは私が話すから、あなた達は話さないでくれるか。」
そうか、昨日は夜のうちに通り抜けたかったんだな。
「そういうことなら、俺たちは空を飛んで村の先まで行っているぞ。」
「おお、それはありがたい。お願いする。」
俺たちは100m程飛び上がった。
これなら下からも気付かれないだろう。
(私たちを紹介しないのは、なにかあるんでしょうかぁ?)
レイチェルの呟きに皆が答える。
(隣村と仲が悪い。)
(独占欲?)
(単に時間的理由では?)
(そうですね、予定より遅れていますから。)
(そうだな、俺たちは飛んだ方が速い。ちょっとママドゥと相談するか。)
(予定では今日の夕方には着いてますからね。)
(カン大尉、ママドゥが丘を抜けます。)
単独だと、ママドゥの歩行速度はやっぱり速い。
俺は村はずれでママドゥに合流し、移動時の別行動、昼食と夕食または部族長の村の手前での合流を確認し、別れた。
◇
俺たちと別れたママドゥは速かった。
彼にするとずいぶんゆっくりとした進行だったようだ。
(ファルス、狩りに行っても良いか?)
今は1020。昼の1400まで3時間半ある。
(皆で行くのは、まずいな。2組に分かれるか。
一組目は1200戻り、後発2組目は1350戻りだ。)
(では、レイチェル、パメラ、行くぞ!)
(えぇっ、行くのぉ?)
(行きましょう。レイチェル中尉。)
(大丈夫かな?)
(連絡は取れます。大丈夫でしょう。)
(聞こえてるぞ、ファルス。心配するな。)
(そうか、ナノ通信は繋がってんのか。これ、混線しそうだな。)
(皆さん、通信チャンネルのイメージです。
通信チャンネル0は6人全員。
チャンネル1は第一司令部。
チャンネル2は第二司令部です。
きちんとイメージしたら、チャンネルをオンです。)
(これで大丈夫か?ホーク、リサ。)
(はい、大尉。聞こえます。)
(大丈夫です。上手くいきましたね。)
(そのようだな。よし、ママドゥを見失わない様に行こう。)
(ホーク中尉、ママドゥさんとその周辺探知をお願いできますか。
私は空中の広範囲索敵をします。)
(了解。)
やはり、リサは魔法面では頼りになる。
第一司令部の3人もレイチェルとパメラに索敵と周辺警戒は任せられる。
良い組み分けになったな。
懸念していた大型飛行生物とも合わず、ママドゥの歩みも順調に進んだ。
交代時間になり第一司令部の3人が戻って来た。
クリスが手を振っている。
そうか、チャンネル0をオンだ。
(・・ス、聞こえるか?)
(おかえり、クリス。どうだった?)
(ファルス、やっと繋がった。やったぞ、イノ豚を2匹だ。)
(そりゃあ、大したもんだ。)
(ああ、パメラが見つけた奴を、レイチェルが土壁で追い込んで、私が仕留めた。
見事な連携ができたぞ。ファルス。)
(よし、じゃあ俺たちも負けてられないな。)
(大尉、お待ちください。)
(なんだ、ホーク。何か来たか?)
(いえ、ママドゥ周辺は問題ありません。交代の件です。)
(なんだ?)
(はい、ママドゥ周辺に問題が生じた場合、我々が駆けつける事になりますが、第一司令部は、まだママドゥとの信頼関係が十分に構築できた、とは思えません。)
(あー、そうだな。)
(ですので、もしもの時の初動に遅れが生じる可能性があります。)
(そうだな、そうすると、)
(はい、大尉はここに留まるべきと考えます。)
(そうなるな。)
(よし、ホーク、リサ、私に続け!行くぞ!)
(では大尉、行って参ります。)
(行ってきまーす。)
まぁ仕方ないか。
(じゃあ、レイチェル、ママドゥとその周辺の地上警戒を頼む。
パメラは空中警戒だ。半径3000mで飛行生物を警戒してくれ。)
(了解。)
(カン大尉、チャンネル3でよろしいですか?)
(そうだな、パメラ、レイチェル。
3人をチャンネル3でイメージしてくれ。
チャンネル3オンだ。
聞こえるかレイチェル、パメラ。)
(ばっちりですよぉ、カン大尉。)
(はい、聞こえます。カン大尉。)
眼下の地表から視線を前方に向ける。
これまでの丘陵地帯を抜け、平原が広がっている。
ママドゥの歩く道もカーブが少なく、まっすぐ伸びて行く。
そして、大きな川に差し掛かった。
俺は一度ママドゥに合流した。
「ママドゥ、順調か?」
「おお、ファルスカン。どうした、昼食にはまだ時間があるぞ。」
「ああ、この先に広い川がある。見たところ橋は掛かっていないが、どうやって渡るんだ。」
「はっはっはっ、それはジャカ川だ。あの川はこの時期は水の量が少なく歩いて渡れる。
問題ないぞ。」
「そうか、要らない心配だったな。」
「いやいや、ありがとうよ。まぁ、問題なく川を渡るから見ていてくれ。
川を渡った先に一本木の丘がある。そこで昼食にしよう。」
「わかった。」
川を渡っているママドゥを見下ろしていると、3人が狩りから戻ってきた。
今回は鹿が獲れたそうだ。
ママドゥも川を渡り終わった。
前方に1本の樹が生えている丘が見える。
先に行って、焚火の用意をしておこう。
俺たちが丘の下で枯れ枝を集めているとママドゥがやってきた。
「ファルスカン、待たせたか。」
「いいや、大丈夫だ。
それより、ママドゥ、イノ豚の肉と鹿の肉はどっちが好みだ?」
「なに?イノ豚と鹿か。それなら鹿だな。だが、なんでそんな事を。」
「リサ、鹿だ。」
「はい、こちらが私たちが仕留めた鹿になります。」
リサは背嚢から鹿を取り出し地面に置いた。
仕留めたままだ。
わき腹に大きな打撃痕がある。クリスの棒の痕だろう。
「ママドゥさんに処理の方法を教わろうと思いまして、まだ何もしていないんですよ。」
ママドゥは両手で頭を抱えている。何か自問しているな。
「うん、月の人だからな。」
そんなつぶやきが聞こえた。
「ロープはあるか?鹿を捌くには木に吊るすんだ。それと水が要るぞ。」
昼食は鹿肉のあぶりだ。
しかし、収納魔法は便利だな。
入れた物をそのまま出す。
この鹿も鮮度を保ったまま保存できていた。
そして、背嚢の見た目以上の収納容量。
他にも保存食にヘルメットに作った弓矢に、そうだ交換用の老廃物収納ポッドも入れてもらっていた。
中はどうなっているんだろうか。
別空間?
亜空間とかいう奴か?
ジャンプゲートの教習で出てきたな。
んん?ジャンプゲートは宇宙船を入口ゲートから出口ゲートに出す。
何光年も離れて、だ。
想像してみよう。
背嚢に穴が二つ空いている。
背嚢の長さが10mあれば、10m離れた場所で出し入れ自由だ。
では背嚢の長さが10光年なら?
10光年離れた場所で出し入れ自由になるのか?
背嚢の収納魔法は魔法、すなわちナノマシンが実現している。
そうだ、リサがカッシーニ81を浮かせた時、ナノマシンは重力制御を行ったようだった。
あの時、重力子機関にナノマシンが内包されているのでは?との疑問を持った。
ジャンプゲートは12基の制御装置、重力子機関で制御していた。
ありうるのか?
そうなのか?
だとすると、ジャンプゲートの再建ができるのか?
だが、
そうだ、
再建できたとして、何処へ行くんだろうな。
次回は23話「部族長の村」。
部族長にファルス達がご挨拶します。




